春風と先生の嘘




若さなんて、流れる時間の中に紛れる一瞬の夢だ。
俺はわかってる。
誰もが、俺を誤解して、俺の周りに等身大の嘘を作り上げるけど、俺はもう、逆らったりなんかしない。
林立する、嘘でできた俺の分身の中に、俺は、若さという幻想とともに紛れるんだ。

それでいいと、俺の中の何かが叫ぶ。

誰もが、俺の中の存在を畏れて、俺と距離をとるけれど、俺はもう、拒絶したりしない。
自身の気配を沈めると、時々、かすかに渦を巻くもう一つのチャクラ。
挑むべきでもなく、屈服すべきでもなく、ただ、俺と在るだけの愛しい存在。

暖かくなり始めた風の香りをちょっとだけ吸い込んで、俺は、振り返る。
柔らかい新緑の下生えを、そっと踏みながら、そうだ、俺の大事な人が歩く。
  「春だね」
俺の呼吸するような台詞に、彼は傷ついたような目差しで淡い空を仰ぐ。
それは、俺の若さに対する、諦めと羨望。
俺に理解できるこんな事が、彼には理解できない。
風の色を見るふりをして、彼を見ていると、
  「お前にはわからないよ」
と、言う。
その足が、緑を踏み進む。
微かに音を立てて流れる小川の気配を伴奏にして。

春が、俺の中に満ちる。
この馬鹿な大人の中にも、桜色はあふれているはずなのに。
俺の手は、彼を、緑の中に押し倒す。
小川の土手は、思いがけなく草丈が高く、二人の姿は春色に染まる。

着衣越しに触れる熱は、彼を裏切る夢の在処。
首筋と耳殻をなめ回し、髪ごとその頭を抱えて、俺はまるで脅迫するように彼を見る。
  「俺に感じてる?」
  「あんまり俺を馬鹿にするなよ」
でも、見当違いな台詞は、実は、いつも正しい。
  「勃ってるじゃん」
  「お前にじゃない」
俺たちを覆う緑が、台詞に呼応したかのように、大きく揺れた。
  「俺を誤解するなよ」
ナルト、とカカシ先生は言った。

風が吹く。
雲がちぎれて、日の光がクルクルと地上を走る。
俺の髪をかき回し、周りの草をなぎ倒し、小川の水面を揺らしていく。
先生の髪も乱れて、その様は先生を幼く見せて、俺は泣きたくなる。
いろんな思考の破片が無意味だって事、どうすれば貴方に伝わる?
先生が何を言ったって、俺が傷つかないこと、どうすればわかってくれる?

  「好きだ」
表現に疲れた無意味の破片たちは、風に飛んだのか。
  「好きなんだ」
今の俺に言えるのは、その繰り返し。
  「好き・・・先生、好きだ」
俺は腕の中の先生を見つめる。
強い風は、それだけで、二人の閉鎖系を作る。
緑と風のドーム。
  「俺はお前の先生だったんだ」
やっぱり馬鹿で愛おしい。
もっと、言えよ。
足りない。
  「お前のことは好きだよ、ナルト」
ああ、俺をそんなに傷つけたい?
でも、そんなんじゃ、足りない。
  「でも、お前の気持ちには応えられないよ」
先生の目が、俺の金髪と、碧眼を見る。
俺の胸の奥底から、笑わなければ耐えられないような痛みが生まれてくる。
傷つかないはずの、俺の痛み・・・・

でも、俺は先生を抱く。
着衣を押し下げて、肌寒い空気の中に、彼の身体を晒す。
先生が見ているのは俺じゃない。
そんなことは、もうとうに知っている。
胸の皮膚が触れ合って、互いの熱を感じる。
そして、俺は、やがて唯一の、俺の間違いに気づく。
  「ナルトっ・・・」
先生の首筋にかみついて、足を抱える。
  「んっ・・・あ・・・」
俺は、腰を進めて、先生の様子をうかがう。
粘膜の生々しい音がして、俺をその身体に納めた先生が俺にしがみついてくる。
ああ。
俺は、熱い先生の中をえぐる。
痛いのは。
俺の心じゃない。
  「ん・・は、あ・・」
先生の先端からあふれる粘液は、彼自身の腹に垂れ落ちて、冷える。
守るだけでは守れない。
自分だけがさしのべても、意味がない。

また一陣の風が吹いて、大きく土手の緑が揺れる。
どこか遠くの桜の花びらが運ばれてきた。
先生の伏せた瞼の縁に、その一つがそっと乗っかって、俺はちょっと感傷的になった。




2008.03.08.