07 無理矢理「気持ち良くさせる」 [ヤマカカ]




長く一緒にいれば、その人のいろんな面も見ることがあるだろうが、僕と先輩は、つきあいこそ長いが、そんなに始終会っているわけじゃないから、会うときの先輩の印象はいつも同じだ。
暗部時代だって、ほとんど任務でしか一緒じゃないし、今も、互いに忙しくて時々会うくらい。だから、先輩のテンションは、いつも同じ。フラットな線みたいな感じだ。
だから、苛ついていたり、ハイだったり、怒っていたり・・・・そんな先輩は、
  「そういや見たことがない」


ところが。

7班の班長を拝命してからだ。
子供達から聞く先輩の生き生きとした様のあること、あること・・・・
  「え?本当かい?」
僕の驚きに、ナルトは逆に不思議そうに言う。
  「そうだよ?先生ったらおっかしいの。慌てて、やめろってわめいてさあ」
ナルトのいたずらに先輩が「わめく」????
サクラが笑って続ける。
  「そう言えば、あの時もおかしかったわよね。みんなで遊びに行ったとき!」
  「そうそう、先生も大笑いして」
え??先輩が「大笑い」????
7班の比較的緩い任務の時は、こんな雑談で盛り上がるから、僕は不機嫌になる。
っていうか、なんで僕が不機嫌???
先輩のいろんな面を知らないことが、そしてさらに、それを僕以外の人間は知っているってことが、凶暴に僕を苛む。
仲間はずれの感覚なのか?
  「カカシさんは、僕にはそんな顔、見せないけどね」
さりげなく言ってみても、
  「え?大人同士だもの、当たり前じゃないですか?」
  「そうだってばよ、隊長は仕事仲間だろ?俺たちは教え子だからなあ」
・・・・・そうか。
僕ら、単なる同僚か。
なんか、すっごく、悔しいんだけど。
なんだ、この気持ち。





今日は、7班とは別の任務。
ハードではないが、細かい作業が連続して、僕はいつもよりは疲れていた。
その任務が終わって、トボトボと帰路についていると、向こうから僕を呼ぶ声がする。
  「隊長ーーー!!」
サクラだ。その柔らかな外見と明るい空気に、僕の疲れは霧散する。
サクラが僕の所まで走ってくるのを待って、声をかけた。
  「サクラ。どうしたの?」
  「隊長、お願いがあるんです」
  「え?なに?」
  「それが・・・」
言いながら、サクラがプンと頬を膨らませた。
うわ・・・かわいい・・・・
  「最近、カカシ先生の機嫌が悪いんです」
え?・・・・・
機嫌が・・・・悪い?
また、僕が知らない先輩の一面だ・・・・
僕の驚きに気づかず、サクラは続ける。
  「たぶん、私たち(私とナルトね)とすれ違いだから、だと思う」
  「え?」
そんな理由で?
  「たまに会えても、お互い任務だからすぐ別れるでしょう?そうすると、拗ねるんです」
げ・・・・
あの人が「拗ねる」????
  「もう、子供みたいでイヤになっちゃう」
  「・・・・・そうなんだ・・・・」
  「だから、隊長、どうかしていただけませんか?」
  「え?僕?・・・・でも・・・」
  「先生と、もう長いお友達なんですよね?」
と、友達?・・・っていうか、主従関係に近いが・・・
  「どうにかしてください!!お願いです!!」
こんな可愛い子に、こんな目をされてお願いされたら、僕じゃなくても即OKだろう。
具体的な策もないまま、僕は「了解した」と言ってしまった。
お願いしまぁ~すと言って去って行く可憐なサクラを見送って。
さて・・・
どうしたものか・・・・





任務表と、その配分表を見て、僕は、待機所で待つ。
暖房費をケチっているのか、結構、寒い。
僕は、何をしているんだろうなぁと、ちょっとばかりブルーが入る。
サクラのため?
・・・・・先輩のため?
やがて先輩が入ってきて、僕を認める。
  「テンゾウ。お前も”お仕事”か?」
  「ま、そうなんですが、先輩は、僕と任務交代です」
先輩の凄いところは、こういういきなりなことをふっても、全く動じないことだ。
僕限定、ということらしいけどね。
実際、顔色一つ変えず、
  「どういうことなの?」
と言う。
  「火影様のご意向です。先輩には午後に仕事を頼みたいから、僕が先輩のかわりに、その3日かかる任務に行け、ということですよ」
  「ふうん。お前はそれでいいの?」
  「いいもなにも。逆らえませんよ」
  「了解。オレは火影様のお使いに行けばいいのね」
  「サクラが教えてくれます。じゃ」
  「気をつけろよ~」
先輩は早くも欠伸をして、椅子にどっかと座り込んだ。
さっそく、エロ本を片手にくつろいでいる。
ちょっとイラッとしたが、

でも。

その姿を見ていて、微笑ましく感じた。
この人が、ナルトやサクラと一緒に過ごす時間が足りないって拗ねるんだなあ・・・
僕には、感情の一片も見せないこの人が、子供達の前では、そんなに率直になるんだ・・・
  「先輩!」
  「ん?」
  「思いっきり気持ち良くなってください」
  「は?」
ポカンとしている先輩を尻目に、僕は、うんざりするような任務へお出かけだ。

火影様の御用事っていうのは、もちろん嘘。
先輩の任務は、サクラやナルトとの食事会だ。
癒されて、それで気分良くなってくださいよ。
部下思い、先輩思いの、お人好しからのプレゼントです!

自嘲気味に笑って、空を見上げる。
でも、なんだか清々しい、冬の昼下がり、だ。

それじゃ、いってきます!!!



2011.02.06


テンゾウあいしてる!!