鳴門の案山子総受文章サイト
草丈が高い。
仰向けに寝てしまえば、隣にいるはずのナルトが遠くに行ってしまったように感じる。
昼間はあんなに直射日光が暑いのに、日が落ちるとこの寒さだ。
もっと時間がたてば、この草にも夜の雫がつくんだろう。
「さすがに冷えてきたな」
ナルトの声が近い。
見えない事を、普通の人みたいにちょっと不安に感じるオレは、やっぱり疲れているんだろうな。
「先生、寒くないか?」
その言葉だけで、オレは泣きそうになる。
ナルトの優しさが、どんな状況でも、どんな相手にも、微塵も揺らがないことをオレは本当に知っているから。
「ちょっと寒いな」
だから正直にそう言った。
ガサッと言う草の乱れる音は、ナルトに抱きしめられた後に聞こえた。
「ごめん、びっくりさせた」
オレより高い体温が、こんなに気持ちがいいことを・・・オレは思い出す。
「マジで冷たくなってる」
ナルトがオレを抱きしめて、その頬をオレの顔に押しつけた。
ナルトの拘束が僅かに緩み、オレは自身の両手を彼の腕から抜くと、ナルトを抱きしめ返した。
ナルトが驚いて、身体を少し起こしてオレを見る。
オレのナルトを慈しむ両腕は、あまりにオレの気持ちを雄弁に語って、ナルトを驚かせたらしい。
先生であることにこだわってきた・・・いや、そこから自由になれなかった正しいオレは、寝室以外の場所で、自らナルトに対してその感情を表出させたことはなかった。
驚きに大きく見開かれた目は、次にはちょっと細くなって、ナルトのありったけが籠もったまま、オレを見下ろしている。
「部屋に戻ろう、先生」
戻りたくなかった。
動いて時間を進めたくなかった。
だって、すべて、終わりに近づくだけだから。
返事をしないオレに、ナルトも言う。
「クソ、ずっとこのままでいてえよ!」
「ナルト・・・」
「ずっとこのまま・・・・」
オレは頷くと、ナルトの頭を優しく抱える。
オレの首筋にナルトの頬と唇が当たって、ついでそっと囓られた・・・
◇
ナルトの部屋に行く。
新しく建替えられたアパートに、里の英雄とじき火影になる人間の組み合わせは不自然だったろうが、まだ冷めぬ喜びの空気は、そんなこと意に介さなかった。
新しい建築資材の匂いがする暗い室内。
オレが壁の電気のスイッチを探して手を伸ばす。
が、壁に触れるより早く、ナルトがその手を掴み、オレを自分に引き寄せた。
ドンとナルトの胸にオレの肩がぶつかる。
まだ俺の方が背が高いが、ナルトの存在の大きさは、それを感じさせない。
「先生」
「うん」
「したい」
「・・・ああ」
「今すぐしたいんだ」
「・・・うん」
「いいの?」
「いいよ」
過去に何度か寝てる。
尾獣を持ってるから、ナルトは一般人とは関係を持てなかった。
たまたまオレが近くにいただけ。
そう思って、ナルトの気持ちを、受け流してきた。
そう思い込んで、オレ自身の気持ちを、見なかった。
ナルトはオレを解放すると、ちょっとだけ目を閉じた。
「どうした?」
ナルトは目を開くと、いつもの口角をグッと引っ張り上げる笑顔を見せた。
「先生の裸を見るのは俺だけで充分」
ああ・・・九尾か。確かクラマとか。
考えて見れば、オレの写輪眼もない。
オレもナルトも、今、本当に、ただの二人なんだ・・・
ナルトが再びオレを抱きしめる。
意志をもって動けば簡単に進んでしまう時間に、二人で必死に抵抗しているみたいだった。
「俺、人柱力で良かったと思ったことがいくつもあるんだ」
「うん」
「その中にはもちろん、カカシ先生とのこともあるんだぜ」
「そうか」
「俺が人柱力だから、先生とエッチできたんだろ?」
オレが反応しようとして腕に力を入れたが、それだけだった。
ナルトはビクともしない。
「聞いて、先生」
ナルトが言う。
「俺、先生の事がずっと好きで、好きで、でも、先生は先生だし、大人だから、諦めてたんだ」
ナルト・・・・
「でも、いつも一緒にいて、諦めきれるわけねーだろ?」
ナルトが安心したように息をつき、またオレを抱きしめる。
「人柱力がきっかけになってくれた。俺、先生を狙ってたんだってばよ(笑)」
暗い部屋にナルトのモノローグが溶ける。
でも、いずれこんな終わりが来ると知っていたオレは、本当にバカだったなあと、もうしないと決めたハズの後悔に、感情を握りつぶされそうだった・・・・