どっかの安普請のスタジオみたいに、射し込む光は、正しいオレンジ色だ。
冴え冴えとした朝の静謐な空気が満ちているか、そっと忍び寄るグラデーションを纏った夕暮れの濃いブルーでもあれば、もう少し、荘厳な色に見えたかもしれないが、今は、そのどちらでもない。
火影の執務室には、午後の淀んだ空気が漂い、カカシは締め切った窓を恨めしそうに見上げた。
「暑いか?」
三代目の低い声が、のぼせたカカシの耳に届く。
「はい・・・・・いや・・・・」
乾燥した室内の空気が、カカシの声を掠れさせて、三代目が目線を上げる。
どっちなんだ?ときいている。
「や・・・・大丈夫です」
言ってカカシは少しだけ太腿を動かした。
キュッと汗が滑る音がする。
裸の尻が、直接、机の上に密着していて、皮膚が引きつれた。
カカシの身体は、机の上にあって、椅子に腰掛けたヒルゼンに向かってその脚を開いていた。
下半身だけすっかり脱がされて、右足がヒルゼンの椅子の手すりに上がっているから、人に見せることのない排泄孔まで、今は、オレンジに染まっている。
「まさかと思うが」
ヒルゼンの指が、尻の肉を押し広げる。白い皮膚の奥に、綺麗に染まった褐色の穴が剥き出され、その、すでに充血したようなぽってり盛り上がった部分を、無骨な指が撫でる。
「・・・・んあ・・・・」
反応するカカシにかまわず、机の上にあった怪しげなアンプルの首を折った。ある程度の粘度をもった液体がカカシの太腿に落ちた。
「なんです?」
カカシが、純粋に、その成分を知りたがった。
「お前のためじゃない」
いいながら、その液体を指で掬う。次の行為が当たり前に予想され、カカシが左足も上げる。
ただ、今度は椅子ではなく、尻がのっている机の上だ。
「まさかとは思うが」
ヒルゼンが最前の言葉を繰り返す。拡げたカカシのアヌスに、液体をゆっくりと塗り込める。
「んっ・・・・・あ・・・・」
仕込まれた身体は、それだけの刺激で、反応する。
「お前、ガキは相手にするなよ」
「・・・え・・?」
カカシが目の前のヒルゼンを見ると同時に、ヒルゼンの指が湿った音を立て、カカシの体内に押し込まれた。
「あっ・・・・・や・・・・」
カカシの上体が後ろに倒れる。
ガサリと書類が音を立て、数枚が床に落ちる。
ヒルゼンはかまわず、横になったカカシの太腿をさらに開き、指をそっと奥に差し込んだ。
「や・・・ん、火影様・・ぁ・・・・」
ゆっくり押し込み、カカシの様子を見る。
最奥にあるような場所も、その姿勢と柔らかい開脚で、むき出しになる。
カカシは息を詰め、腰を僅かに動かして、指の動きを誘導した。
「もう、欲しいのか?」
その口調は、いつもより若干厳しく、カカシはヒルゼンの言葉を繰り返す。
「ガキって・・・・7班の?」
返事をしない。その無言に肯定を感じて、カカシが言い訳した。
「私がなんで、そんな・・・・部下を・・・」
「ふん・・・口先だけじゃワシは誤魔化せんぞ」
「いえ、火影さ・・・・ああっ・・・」
乱暴に抜かれた指に、カカシのセリフが途切れる。
抜かれた指は、綺麗な光を纏っていて、カカシの身体から糸を引く。
ヒルゼンがカカシの股間に顔を寄せて、さすがにカカシが上体を起こしかけた。
「いや、やめてくださいっ」
「なぜ?」
もう、それは聞き返す意志もなく、ヒルゼンの舌がカカシのアヌスを舐めた。
指なんかより余程隠微な感触が、カカシの粘膜を刺激する。
「やっ!!汚い、からっ!!」
ヒルゼンは容赦なく、音を立てて、アンプルの液体ごと、そこを吸った。
場違いなほど大きな吸引の音がして、カカシが喘いだ。
「ひ・・・ああ・・・んん・・・」
無意識にカカシの手が自身のペニスにのび、それを掴むと、
ヒルゼンが初めて笑った。
「我慢しろ」
言われて。
黙って手を離す。
◇
アナルだけでイカせようだなんて悪趣味だ、と思いながら、言われれば唯々諾々として足を開く自分も、同じだと俺は天井を見上げる。
豪奢な建築装飾が、オレンジに隈取られて、ロマンチックな陰影を見せていた。
「あっ・・・・ふ・・・んん」
もう、ずっと前からの関係だから、三代目は、俺の身体のこと、知り尽くしている。
頭の中身がどんなことを考えていても、気持ちがどんなにささくれてしまっていても、与えられる快感は、俺を素直に喘がせる。
もし、俺の身体が開発されているならば、それはこの人によるものだ。
暗部の任務の頃は、きつい任務の前や後に、必ず三代目に抱かれていた。
暗殺が主な仕事だったから、お膳立てができたところへ特攻するだけ。
短期な仕事ばかりだった。
それが、俺が暗部を降りた後の新しい環境は、俺と三代目から、逢うタイミングを奪った。
すごく
すごく自然だった。
そう。
疎遠になっていき、何も残さずゆっくり忘れてしまう、忘却のすばらしいサンプルみたいに、俺は、三代目とのセックスを忘れていった。
かといって、別に付き合う相手がいたわけでもない。
俺は夢中だったんだ。
命令という範疇を超えて、ナルトやサスケ、サクラの可能性に、飲み込まれていた。
「あん・・・・あっ・・・」
三代目の舌が、俺の中に侵入して、尻を掴む指がきつく食い込む。
チラと見た自分のペニスから、透明な糸が腹に垂れ落ちている。
気持ちいい・・・・・
俺はまた目を上げる。
天井は、低くなりつつある陽光の動きと共にその印象を変え、俺は、教会のど真ん中で犯されている気分になっていた。
光が絹のような質量を持って、斜めに射している。
俺は、性器から離した汚れた手を、その光の帯にそっと伸ばす。
いるなら、神様、俺は・・・・・
でも、
気持ちいい・・・・・
俺がナルトに、ある感情の萌芽を感じたことを、たぶん、三代目も気づいていたんだろう。
彼らを部下にして間もなく、俺は、三代目に呼ばれた。
本当に久しぶりで、俺は、三代目の用件が、俺とのセックスだなんて思いもしなかった。
俺の中に、付き合っているという意識もなかったから、当然、そこに、普通の恋人同士にあるような、別れも何もかも、一切そういうものの存在を考えたことがない。
だから、逆に・・・・
拒む理由もなかった。
「うつぶせになりなさい」
いきなり思考が中断される。
「あ・・・・はい」
いつもの手順。いつもの快感。
俺は素直に机から降りると、今度は机を抱くようにうつぶせになった。
硬くなったペニスが机を擦って痛む。
ベッドの上でなら、たぶん、正常位で抱いたろう。
単純に体格的な問題だ。
「お前は反抗的だからな」
そんな事を言って、大人しく言いなりの俺にのし掛かる。
なんでも飲み込んで素直に従う俺が、なぜか反抗的に見えるという。
ちょっと弄られて、やがて、濡れた粘膜が擦れる音がする。
「はっ・・・・うう・・・」
大きい。
三代目のモノは、大きくて、入れられる瞬間は、息を詰めてしまう。
力を抜けと、ギチュッといきなりペニスを掴まれた。
「ああ・・あっ・・・・」
「カカシ、抱かれ方、忘れたのか?」
「そ・・・火影様、そんなっ!!・・ああん」
ぐっとまたえぐられて、俺の粘膜が悲鳴を上げる。でも、俺はそれに唸って反応する。
「んんっ・・・あっ・・・はあ・・・」
痺れるような快感が背中を走り、腹の底に全身を鳥肌立たせるようなもう一つの快感の塊が生まれる。
俺は、机の端を掴んで腰を動かし、三代目のモノを、奥まで受け入れる。
三代目の手が、俺のペニスを離れ、でも、もう俺は後ろだけで口の端から唾液をダラダラと落とした。
「うっ・・・ふっ・・あああ・・・」
滑らかに出入りする感触は、暗部時代に抱かれていた頃に俺を引き戻す。
いつもは尻を打つ乾いた音も、今は汗にちょっと鈍い音になっている。
年に似合わない勢いなんだろうけど、火影だからと、そこら辺に対する感覚は、俺も里の人間と同じレベルだ。
「あん・・・・あっん・・・ああ・・・」
俺は机に顔を押しつける。落ち損なった書類を至近で眺めた。
俺の涎で、インクが滲んでいる・・・・
「あ・・・気持ちいい・・・あっ・・・はあ・・・・」
そのリズミカルな動きを維持して欲しくて、俺はありふれたセリフを吐く。
「いいのか?」
「あ・・・ああ・・・気持ちいい・・です・・・・」
ちょっと上げた顔は、執務室のドアを見て、さっきは閉じていたそこが僅かに開いているのに気づいた。
どうでもいい。
いままでにも散々、覗かれていただろうし・・・
「カカシ」
三代目が俺を呼ぶ。
「はっあ・・・は、はぁ・・い・・」
「カカシ」
腑抜けた返事じゃダメらしい。
「は、はいっ・・・・」
「ナルトは」
それは、あとに何かの文節が続く発声で。
そのまま中断されたので、反射的に俺が振り向こうとしたら、瞬間、思いっきり突っ込まれて動けなかった。
「ひっ!!」
俺の喉が悲鳴を上げる。
三代目の左手が俺の髪を掴み、右手が俺の腰を掴んだ。
その力はもの凄く、俺の身体は固定される。
「ぎっ」
変な声が漏れる。
そのまま、何度か、乱暴に出し入れされて、中に思いっきり出された。
「ぐっ・・・・はあ・・・」
体内に熱いものをリアルに感じて、その気分的な圧迫感に、俺の目から涙が落ちた。
こんな強姦みたいなフィニッシュは初めてで、俺は「ナルトは」といった三代目のセリフを脳内で反芻する。
こんなことしなくても、俺は、なんにもしないのに。
泣いた事なんて、ガキのころからなかったのに、俺の身体は、泣き方を覚えていた。
「ふ・・・ううっ・・・・」
喉から、抑えようもない嗚咽が漏れて、肩が自然に揺れる。
どんなに環境が変わっても、やっぱり優しくして欲しかった馬鹿な俺と、ナルトにこだわった、互いの想いの純度の低さと、何かが変わっていってる、そんな怯えが、俺を苛む。
すべてを相手に晒すセックスは、やはり特別な行為だ。
三代目の思惑はわかっていても、甘えて快感をねだる対象に、乱暴に扱われたことに、俺はやっぱり傷ついていた。
「カカシ、すまん」
三代目にそう言われて、また一層、涙が溢れた。
机に伏せたまま、目を上げる。
もう傾いた日差しは、濃いオレンジ色で、執務室のドアに窓の桟を投影していた。
・・・・閉まっている。
セックスを見られたことより、乱暴に扱われて泣いてしまったのを見られたらしいことが恥ずかしかった。
「お前、まだじゃろう」
三代目が俺の尻を撫でながら、言う。
俺は鼻をぐずぐずさせて、それでも三代目に身体を向けた。
仰向けで身体に入れてもらいながら、ペニスを弄られるのが、俺は好きだ。
俺は素直に頷いて、三代目に口付ける。
窓を背にした三代目の表情は、逆光でちゃんと見えない。
「ナルトに手なんか出しません」
俺は後ろを伝い落ちる三代目の名残を感じながら、優しく・・・そう、優しく言った。
「ふん」
三代目はたぶんニヤっと笑う。
「言ったじゃろ。お前のことは信じてるよ。でもな」
三代目は、俺のペニスを握った。
「お前は反抗的だから、な」
そう言って、もう笑ってはいなかった。
◇
雨の中、カカシはずっとナルトを見ていた。
暗い雨滴の中、金髪は鈍く輝き、それはとても美しく見える。
葬列は、ノロノロと進み、それは何かと決定的に決別することを恐れる里のみんなの気持ちのようだった。
「俺も怖い」
火影様、とつぶやき、曇天を見上げる。
もう、誰も俺を止めない。
もう、誰も俺を責めない。
墓石の前に立ち、見えない多くの呪縛を利用して、俺は、先生でありつづける・・・・・
「カカシ先生」
群れる人の中から、ナルトが手を挙げた。
「あ、ああ・・」
カカシは曖昧に言って、こちらに来る少年を、ぼんやり見つめた。
2009.07.12