体温の盾


秋風が里を渡り、ゆっくり色が変わっていく

ススキを漕いで、野原で遊ぶ子供達の声がする

修行の合間のつかの間の休息を、ぼんやり味わっていたサクラは

見上げた高い空に、数年前の同じような日を思い出した

アカデミーの生徒だった時、よく、みんなで遊びに行った野原

みんなまだ本当に子供だった

いつも付き合わされていたイルカ先生も、今にして思えば、率先して遊んでた

ある日、ススキで酷く腕を切ってしまったとき、すぐに来てくれたのは先生だった

  「大丈夫か、サクラ」

他の子たちは、ずっと先に行ってしまっている

涙を目に溜めた私の頭を撫でて

  「サクラはこれから忍者になるんだから、落ち着いて行動するんだぞ」

と、言うことは教師然としていたが、素早く処置をしてくれた

  「あとで、ちゃんと診てもらおうな」

  「大丈夫だよ、先生」

いや、だめだ、といいながら、不意にイルカがサクラを抱き上げる

急に重力から自由になって、自分の髪がススキみたいになびくのを見た

いつも無邪気に抱かれていたが、今日はなんだか先生の体温が近い・・・

  「サクラは女の子だからな。傷が残ったら困るだろ」

  「忍者になるから大丈夫!」

  「いや、ダメだ」

くだらない会話を繰り返しながら、イルカはススキの中を行く

歩くリズムで揺れる身体が心地よく

幼いながら、先生は男だったと思ったことを覚えている

彼女いないの~?などど良くからかったっけ

うるさいと怒鳴りながらも、目の奥にはいつも私たちを見守る光があった

先生

先に進めるのは、支えられているから

力を発揮できるのは、守られているから

子供の頃にはわからない、そんな色々が

先生

私にはもう、わかるわ



高い空に、子供達の声が響き

本当は薄く残ってしまったあの時の傷に、そっと手を重ねて

サクラは、秋風にむかって立ち上がった


2015/08/30



9/26、拍手から下ろしました