鳴門の案山子総受文章サイト
月の光だけで、肌の質感まで見える
体脂肪率を極限まで落として、それなのに
セックスの時は筋肉の上に柔らかな皮膜を纏ったように柔らかく滑らかだった
戦闘の時は、男の頼もしい広い背中なのに
剥いてみれば、硬い若さを残す白い背中になる
浮き上がる肩胛骨が、いじらしく、何度もそこに口付けた
僕の前にすべてさらけだして
安心して喘ぐこの人が
本当はその内面のどれほどをさらけだしていたのだろう
見切れない人間の複雑な内面は
それが重なって奥深くあればあるほど、僕は喜んだ
身体だけじゃない
心もストリップさせることは、倒錯的かも知れないが僕の楽しみだったのだ
でも、僕が計算違いしていたのは、
それは、あくまで昨日も今日も明日も同じ関係性が続く前提での話
突然僕の前からいなくなって、消化不良を起こすなんて
想定外だった
◇
真夏の日差しの下で、久々に見る先輩は
僕の知っているはたけカカシじゃなかった
実際、心底ビックリしている
ままならない人生に対する色々を仕事にぶつけて
軌道内だけで無軌道に振る舞う器用なストレス発散をしていた先輩
それが、今や、角の取れた・・いや、角のないボールみたいになっていた
無邪気に先輩に笑いかける子供達をしみじみと見る
この人の、本当を知らないんだなあと
子供達は、ぼんやりした風情の先輩にかなりキツイ突っ込みをいれたりと
昔の先輩なら考えられない状態だ
いろんな気持ちが混じった溜め息と共に、僕がしていることといえば・・・
からかわれている先輩の後ろ姿を見ながら
以前抱いた彼のヌードを、そこにトレースしていた
もちろん彼自身の生き方の芯は変わってはいないだろうが
人当たりは確かに180度変わっていて
それでも僕は、そんな彼を以前の様に抱けるだろうかと夢想する
彼が、急に異動になって
時にはもちろん死に別れる運命だから、異動がきっかけで、
それまでの関係がプツンと音を立てる事なんて日常茶飯事
まして、こっちは隠密だ
他人に起こるそれらが充分理解できていたはずなのに
まさか、それが自分に起こるとは・・・
それだけ、僕と先輩のタッグは、強力で里に不可欠だと信じ切っていて
実際そうであったと思うのだが、僕は、多分増長していたのだ
僕の前から姿を消した先輩は、その実、僕らより重大な任務を負っていたが
そのときの僕に知るよしはない
頭でわかって、でも僕の身体は納得しない
家畜だと自嘲する自分を支えてくれた唯一を失って
それでも僕は腐らずにすんでいた
僕も、里には不可欠な存在になっていてしまっていたから
ただ時々は無性に恋しくて
そう、先輩の身体が恋しくて
それでも、僕らしい我慢で、他人を代用しなかった
それが
それが、こんな展開で再会が叶うとは
若くて、若さを持てあまして
それは本来なら恋愛や異性を慈しむために使われるエネルギーだったのに
僕らは、大儀の下に、人殺しと儚い関係の維持に消費した
子供たちと笑う先輩を見る
先輩は、僕との過去を、どう思ってるんだろう・・・・
◇
いずれ、僕が7班に合流することは初めから決まっていた
ナルトがいる以上、そこに別な選択はない
先輩が倒れてしまう事態までは、具体的に想定されていたわけではないが
いずれ合流の時期に備えてと、時間ができれば、そっと遠くから見ていた僕に
いきなり着任の命令が下ったのは、そろそろ秋に入ろうかという時期だった
あの、180度変わったはたけカカシと対面する
再会の場所が病室だったのは、ちょっと切なかった
僕が控えていて本当に良かった、と自画自賛だが、事実だから仕方ない
窓の外の木に、程良く光が遮られ、沈殿したような静かな空間に先輩は寝ていた
ベッドに近づくと、その目で僕を追っている
「テンゾウ」
名前を呼んだ
「先輩、お加減いかがです?」
「調子よく見えるんなら、お前、相当目がいいな」
おっと・・・・
角どころか、トゲだらけじゃないか・・・
でも、僕はちょっと笑んでしまったらしい
「気持ち悪いな。一人で笑って」
いやいや、カカシ先輩、こんな嬉しいこと、ないでしょう?
だって、アナタ、全然変わってない・・・・・
「目が良くて良かったです。だって本当に元気そうに見えますよ」
「イヤミもあんまり堂々と言われると、イヤミに聞こえないから不思議だ」
いいながら、視線を窓の外に飛ばす
それは、あの頃のカカシ先輩のままで、むしろ、深い陰影を伴ってよりかっこよく見えて瞬間見とれる
でも
僕は、なぜか悟っていた
この人、多分、7班の事を聞きたがっている
報告書は、先輩にも回っているはずだから、そういうことじゃない
24時間、7班の事を考えていたいだけだ
自立していた、それが例え錯覚だとしても、自立していると思っていた彼が
今は、支えを必要としているなんて・・・
やっぱりどこか、先輩は変質していて、それは僕も仕方なく理解する
でも、2人しかいないときに、他者の介入を許すほど、僕は大人じゃない
僕は、絶対、ここで7班の話はしないし、ここでは先輩の変質を認めない
手を伸ばせば
戦地で何度も夢想した先輩の身体に手が届く
思っただけだと思ったら、本当に僕の左手は先輩に伸びていた
先輩は横顔を見せたまま動かない
その頬に指が触れ、
不躾に鼻筋を撫で、
唇に乗り、
我慢できなくなって右手が、先輩の髪に指を差し込む
病人に何を・・・と自分に突っ込もうとしたら
「俺、入院中なのに(笑)」
と先輩が笑った
一気に時間が戻る
不思議だった
いきなり、空間がねじ曲がって、あの時代に戻ったようだった
先輩が、寝具の下から手を出して、唇に触れる僕の手をそっと握る
化け物の僕と、写輪眼の天才
思いなんか、本当に化学反応だ
あれだけ、7班の話はしないと張った意地も、もう微塵もない
先輩の気持ちのカケラが、僕の試験管の中に入って、一気にその性質を変える
この愛しい人のために、逐一すべてを話したい甘い感傷が僕を満たす
ごめんなさいと口の中でいいながら
先輩に口付けた
時間が戻ったのは、僕だけじゃなかった
先輩も、僕の口中に舌を差し入れてきて
静かな病室に、楽観していいなら「前儀」になるだろう音が響く
何度も唇を吸って、僕は懇願するように言った
「ダメですよ・・・ダメ・・・」
「テンゾウ」
「身体に触る・・・」
微塵も説得力がないセリフに、先輩が笑う
「チャクラをちょうだいよ。多分大丈夫」
先輩も、僕としたいんだ
それだけで、その事実だけで、ネガティブまみれの僕の人生は
あっさり勝ち組になる
身体を離して、脱衣する間
先輩の口元が唾液で濡れて光っているのを見た
そのときだけは、僕の思いが先輩を壊してしまわないか、恐怖した・・・
◇
偶然にも、窓から射しはじめた月明かりは
いつか見た風景の様に先輩の背中を照らす
ああ
ああ
ゆっくり流れる時間と、それに伴って展開する行為の刺激に
僕は何度も喉の奥で嘆息した
同じだ
あの時と同じ
髪が首筋にかかっている様子も
身体を支えて、肩胛骨が動く様も
ちょっと待ってと身体で語るのも
全部、あの時のまま
背中から抱きしめて、首を吸い、きつく噛み
唾液で濡らして、皮下出血で色をつけて、両の乳首を撫でて声を上げさせる
シーツの上に解放し、突っ伏したままのそこに指を入れた
「んっ・・・ああ・・・」
息を飲み込んで、僕の行為を助けようとする
馬鹿な発想だろうけど、そのいじらしさは、彼自身の生き方をも投影しているようで
僕は月明かりの中、涙が出そうになっていた
7班に嫉妬して、先輩を変えた7班に嫉妬して
そんな子供じみた独占欲を燃やすくらい、この人が好きだ
でも、今は・・・・
「も・・・いいよ、テンゾウ・・・」
苦しそうに先輩が言う。
「大丈夫です?」
「うん・・・・俺、もうずっと我慢してたから」
「!」
「はやく欲しい。ごめんな、ムードなくて(笑)」
月明かりなのに、すべてに色がはっきりついて、そのまぶしさに目を細める
背後から抱き直し、彼が望むままに、自身をつなげた
先輩の声より先に、自分の呼吸混じりの呻きが聞こえてビックリする
それほど挿入感が良かった
「誰も入れてない?」
下品な言い方で、でもそれしか思いつかない
「まさか・・・あ、ああんっ・・・」
ゆっくり最後まで入れた
しっぽを掴まれた猫みたいに、挿入の深度のままに先輩の喘ぎがクレッシェンドする
先輩の身体から、緊張が取れていくのがはっきりわかる
別の生き物みたいに、僕にまとわりつき、柔らかく刺激する
「お前だけ・・・お前だけだよ」
震える声で、僕に伝わるように一生懸命話している
ああ、もう、どうにかなる
白い先輩の背中越しに、僕は多分7班も抱きしめていて
今はもう、それで良かった
先輩の中に、彼を構成する要素として7班があるなら、僕はそれごと愛する
「ああ・・・はっあ・・・」
「カカシさん・・・」
「うん・・・気持ちいい・・・」
僕にトゲを立てるその声で、今は泣くように甘えている
前に回した手に、先輩を握る
触れた瞬間、可哀想なくらいビクッとして、僕の愛撫を待つ
体液で滑らかに手は動き
僕はゆっくり腰を押しつけて、僕の感じている息を、先輩の耳に聞かせた
「いい・・・」
「先輩」
「あっ・・いい・・・」
先輩は何度もいいと言った
そんなこと、全身で触れていればわかる
でも、言葉で僕に伝えることで、彼は彼なりに、長い空白を埋めようとしているのだ
あの時みたいに、幕営の汚いテントも、血の臭いがする脱ぎ捨てた装束も、互いの身体の新鮮な傷もないけど、でも、つかの間の平和の中のセックスは、なぜか、あの時よりも切なかった
◇
もう少し若かったら、躊躇無くやったろうなと思う事
先輩の所に影分身・・・・・
ナルトやサイやサクラとの道中、やっぱり思い出す先輩に
僕は馬鹿な想像をしてみる
もちろん、そんなことをしないのは、体力的に、というわけじゃない
若い時みたいに、そこまで馬鹿じゃないからだ
「まあ、逆に、我慢できる程度に欲が落ちたとも言える・・・・」
どうせ聞いてやしない、聞こえるはずもない僕の独り言
呆れるくらいの喧嘩を繰り返して、3人は前を行く
その後ろ姿に、居住まいの悪い感じがした
先輩を7班ごと抱いて、僕なりに解決したつもりだったが
7班の子たちの先生を抱いたという側面には、今まで気づかなかったのだ
暗部ではなんのひっかかりもなかった行為が
普通の生活では、途端に色々な問題をはらんでしまう
里を背負って生きていくその背に
僕の嘘は・・
「隊長!」
ナルトが振り返る
「なんだい?」
「今日も豪華な奴、頼むってば!」
「(笑)・・・四柱家ね」
僕は嘘を突き通す自信がなかった
照りつける秋の日差しは、時に夏より強い
影がくっきりと地面に刻みつけられるのを見ながら
別な空間にいる先輩を考える
あれが最後・・・てことになるんだろうな
月明かりの白い背中
そのイメージを、静かに脳裏に沈ませる
なんか、墓標みたいだ、と思って、その的確な感じに
僕は慌てて頭を振った