夜明け前 [サスケサイド]



朝は重い。

深い群青がまだ天頂に留まり、ゆっくり何かが剥がれていくように明るんで
初めてその群青が透明であったことを知る。
街を見下ろす高みで、夜の間に鎮まったはずの色々が、そっと力を蓄えて太陽を待っているのを感じ、サスケは浅く息を吐いた。

修行と称した自分勝手な思いに、暗いうちから無理矢理カカシを付き合わせて、そのきつい合間にも、こんな自然の営みは確実に時を進めていた。
陽が射せば、一気に空中に舞い上がるだろうエネルギーが、今はジッとしている。

  「まるでお前らみたいだな」

いつの間にか隣に来たカカシが、そう言った。
カカシは、夜明け前の時間帯について、若さを比喩して言っただけだろう。
でも、サスケが感じていた、エネルギーを蓄えた朝の重さを言っているようで、
いつもより穏やかに反応した。
つまり、頷いて同意したのだ。

  「じゃあ、アンタは・・・・亥の刻あたりか(笑)」

どうせくだらないと言われることを承知で言う。
夜中の10時すぎ。相当の老境だ。

  「ふふふ・・・そうだったらいいねえ~」

が、カカシはそう言った。

  「はあ?どういうことだよ?」
  「はあ?じゃないよ。お前が言ったんでしょ」

相変わらずヌボ~として、眼下の景色を眺めている。
普段顔を隠してはいるが、もちろん、その下の顔も知っている。
7班に別人として接触したりして、遊んでいることも、サスケは知っていた。
素顔を知った驚きより、その顔が自身の心臓を跳躍させることに、サスケは驚いた。
男に惹かれる自分は・・・・しっくりこなかったが、抗えない・・・

サスケは、カカシを頻繁に誘って、修行というストレス発散を繰り返していた。
カカシに惹かれる自分への言葉にできない衝動を、そのままカカシにぶつけていた。
カカシはよく、付き合ってくれた。
たまに、サスケの技が決まることもあって、「やるなあ~」と言いながら、本番ではない気安さで、カカシが顔をしかめることがある。
やった!と思いながら、同時にしまった!とサスケは思う。
痛みに歪んだカカシの顔は、もっと、自分を打ちのめしたからだ・・・・

  「なんで、そうだったらいいんだよ?」
  「んん~?そうだねえ・・」

投光器が眼前にあるかのように、見る見る辺りが明るくなってくる。
カカシが、そっとマスクを下げて、顔を前に向けた。

  「隠居したいんだな、俺は(笑)それにこの俺が亥の刻まで生きてるってことは」
  「・・・・」
  「平和なんだろ、その頃の里は」

ふっと風が丘を撫で、朝日の輝線が空間を裂くように二人を照らす。
夕日より新鮮に赤い透明な光は、陰影を濃く映し、辺りを画のように彩った。
カカシがこちらに顔を向けて笑う。

  「な?そう思うだろ?」

それまでは、気がつかなかった
いや、感じなかったんだな、俺が
この人の普通に

写輪眼のカカシと聞いて、その目の来歴や、暗部での活躍で、
その事だけで俺はこの人を見てきた。

でも、こんなに普通で、真剣で、純粋で・・・
告白するよ
アンタは俺の復讐を、復讐心を
危うくする・・・・


頷けないサスケにそれでもカカシの空気はかわらない。

  「疲れたか?」

と優しく言って、その手でサスケの頭を撫でた。



2015/09/01