鳴門の案山子総受文章サイト
空気は必要だけど、なんの感情の跳躍も感じない空気になってしまうのは悔しかった。
時折の、ふっとした心の通う瞬間や、そんな事がもたらすじんわりとした幸せや、当たり前に相手の思いやりを互いに受け取って、そこになんの代償も生じない完璧な関係。
でも、違う。
まだ寒い空の下、久しぶりに里の中に足を運ぶ。
そんなに頻繁じゃないのに、ナルトとヒナタがデートしているのをよく見る。
本人達は、そこそこ上手く隠れているつもりのようだが、怒りや憎しみじゃなくったって、激しすぎるものは、それが愛情でも、もの凄いオーラをまわりに放つ。
寒風にまとわりつかれているのに、寒そうに見えないくらいだ。
最近の、心が下がっているテンゾウに、二人は目立ちすぎた。
イライラしている自分の事は自覚している。
その原因が、カカシとの関係にあることは自明だった。
一応、お付き合いさせていただいているので、と、僻んだ気分で、テンゾウは火影の執務室に出向く。しばらくの不在は直接言っておこうと思ったのだ。
「何コレ」
カカシが、ちょっとびっくりしてテンゾウが差し出した書類を見た。
「仕事ですよ」
「いや、わかってるけど・・・」
「明日からしばらく行ってきます」
「お前が行くような仕事じゃないでしょ?それに監視の方はどうすんの?」
「そちらは大丈夫。ご心配なく」
まあ、信頼してるけど、と言いながら、カカシが書類を脇に置く。
じゃ、と出かかるテンゾウを、カカシが呼び止める。
「テンゾウ、どうしたの?」
「はい?」
「なんか、怒ってないか?」
テンゾウは振り返ると、ニコリともしない。
「べつに怒ってなんかいませんよ」
空気に圧されて、カカシがゆっくり頷いた。
「なら、いいけど・・・数日かかるね?」
テンゾウも軽く頷いて、踵を返すと部屋を出る。
こんなに好きなのに、カカシを傷つけて、ちょっと溜飲が下がっている自分に、でも何も感じないくらい、ひがんでいた。
◇
カカシが言ったとおり、時間だけかかる難易度のかなり低い任務だった。
たっぷり数日はかかっていたが、全く疲れてはいないし、同様に気分も最悪を維持したままだった。
何のためにこの任務をぶっ込んだんだ・・・・
帰路の暗い道を行きながら、テンゾウは溜め息をつく。
気分転換、独りになって考える時間、カカシに冷たくして意地悪したい気分、それらを含んだ任務の時間だったハズなのに、まったく心の状態は変わっていない。
帰るのは明日でいいから、まだ時間はある。
もう少し、今の煮詰まった脳みそをどうにかしたかった。
テンゾウは立ち止まる。
道脇の枯れた草原に寝転がった。
2月の空は冷たく凍えて、黒い木の枝が、そこここから伸びて、星空を掴もうとしているみたいだった。
軽く息を吐いて、その白い影がゆっくり風に飛ばされるのを見る。
思い浮かぶのは、もちろんカカシの事だ。
「怒ってないか気にしてた・・・」
心配そうな優しい目をしてた。
火影室じゃなかったら、たぶん、手も伸ばしてボクに触れてた・・・
一方的に拗ねているのは自覚している。
でも、このまま彼の空気になるのはイヤだった
闇に慣れた目は、星明かりすら眩しかった。
輝く光は、よく見れば一つ一つ違う色で瞬いていた。
星は、もしかしたら誰も見てないかも知れない夜も、こうして輝いている。
「ずっと一緒だった・・・」
暗部の時の今よりとがった印象のカカシを思い出す。
それでも、その先は常に闘う対象に向けられていて、ボクらはいつもその思いに守られていたな・・・・
星の輝きを、吐く息に溶かして、ちょっとずつ気持ちが溶けているのを感じた。
星の動きをぼんやり目で追って、時間と傾きを無意識に照合して、
「14日・・・・」
と日付をつぶやく。
次の瞬間、テンゾウは飛び起きた。
「今日、2月14日か!」
考えるより先に走り出す。
自分こそ、先輩を自分の空気にしてしまってたじゃないか
火影の仕事で、真面目な先輩は、それを通常以上に激務にしてしまっていた。
そんな中で、色々、ボクに気持ちを向けてくれていたのに。
去年のバレンタインデーで、今更そんな日をいちいち記憶してないボクに、
「一応、そういう日だから」
と、なんでもないように、でも凄く照れて、お菓子の小箱をくれた。
「クルミすきだろ」
ああ、そんなことも言って。
小箱の中身は、クルミにチョコレートがかかった、高そうな菓子だった。
思いっきりジャンプして、高い視角から里の方を見る。
「クソ」
今日中に帰るぞ!と、それが何の解決になるのかわからないが、湧き上がった気持ちのままに行動して。
後ろに飛ぶように流れる星を見て、今はそれでいいと思った。