雨宿り 3




  「電気、つけてくださいよ」
多少咎めるように言う。
風呂から上がったテンゾウを待っていたのは、もう、暮れてきた一層暗い外と同じ室内の闇だった。
  「ん?あ、ああ、ごめん」
ベッドに座って、多分、窓の外を眺めていたカカシは、「気がつかなかった」と言い訳しながら謝る。
その姿が、いつものカカシに見えなくて、テンゾウは慌てて電気をつけた。
  「湯冷めしてないですか?」
パッと空間を切るように点いた灯りの下、カカシを見ずに、声をかける。
  「思ったより、夜は冷えますね?」
  「うん」
部屋に来てから、カカシは不機嫌だ。
それが、不機嫌と表現されるものかはわからなかったが、居心地の悪さを感じさせるものであることは確かだった。
風呂場で感じた好意とは、チグハグな空気に、テンゾウは深く息をつく。
風が、ガタつく窓枠を揺らし、その振動が低く唸るように聞こえた。
  「腹、減ってます?」
  「いや・・・・お前は?」
  「僕も特に」
カカシが食べたくないなら、自分も特に積極的な気分ではなかった。
  「先輩がイヤではないんでしたら、」
  「え?」
  「ベッド、お貸しします。使っていいですよ」
  「お前は?」
テンゾウは笑って床を指した。
カカシが、言葉を飲み込んで、テンゾウを見返す。
  「悪いよ、さすがに」
カカシが立ち上がろうとするのを、
  「先輩らしくないですね(笑)」
と、牽制すると、
  「お前もそう思う?」
とカカシが切り返してきた。

え?

テンゾウは無機質な明かりの下の、白く見えるほど顔色のないカカシを見る。
  「先輩?」
ああ、もうね、なんかさ、とカカシが堰を切ったように話し始めた。
  「お前の部屋に入った途端、」
  「・・・・・・」
  「なんかこう、2人っていうのを意識しちゃってさ」
雨はますます激しい。
ゴーッという屋根を叩くその音は、さっき風呂で感じた閉鎖的な、密度の高さを感じさせる。
カカシの言っていることの意味を、会話のテンポよりよっぽど遅れて、テンゾウは反芻し、考える。
  「2人・・・・」
  「は、俺、結構、往生際悪いね」
  「先輩・・・」
  「好きだ・・・・・」
  「え・・・・」
  「好きみたい、お前のこと」
強い風に、また、窓枠が鳴り。
こんな気持ちなのに。
カカシの髪は、蛍光灯の安い光でも綺麗だった。

僕は、不意に、ナルトの顔を思いだす。

  『カカシ先生が好きなんだ』

ナルト―――

  「迷惑か?」
カカシのスッとした鼻筋。
さっきは、そこに、天からの雫が伝っていた。
  「でも、俺、自信あったんだけどなあ?(笑)」
そう言いながら、自信なく僕をうかがって、頬を染めている。
  「お前に好かれてる自信・・・・って、勝手な思い込みだった?」
  「・・・・・・」
  「カッコわるいな・・・」
  「いや」
いや、と言ってから、自分の気持ちのありようを、
初めて、意識する。

ナルト―――

  「僕も・・・」
え?と、僕を見るカカシは、もう、写輪眼のカカシなんかじゃなかった。
ああ。
僕は、はたけカカシが・・・・
そう、思った瞬間。
ナルトへの罪悪感が消えた。
そう、決めつけて、僕は続ける。

  「僕も、好きです・・・・」

カカシがテンゾウを見る。
こんな状態でも、カカシは綺麗で。
暗い窓の外が揺れて、雨はやむ気配はなかった。







もうガキじゃない。

でも、と、
テンゾウは考えるフリをして、ついでに考える。
こんな自分の気持ちに気づかないほどには、
・・・・ガキだった。

狭い部屋で呆けたように立っていることに気づき、テンゾウはカカシを座るよう促した。
カカシも大人しく座る。
騒がしい戸外が、今は遠い。
  「よかったよ」
  「え?」
  「一方通行じゃなくて」
  「あ、ああ・・・」
こんな状況、過去にいくらでもあった。
でも、こんなにもどうしていいかわからないのは初めてだ。
相手が女の子なら、ぐっと抱きしめて、そこから加速をつけてスタートさせるのに。
相手が男なら・・・・がっついていいのかな?
いや・・・もしかして、すごいロマンチストだったら、どうしよう・・・・
  「でも、」
カカシの声にはっと意識が戻る。
  「お前のこと、困らせてない?」
ただの「はたけかかし」がこちらを見ている。
瞬間、姑息な考えが頭をよぎった・・・・
  「全然・・・困ってなんかいませんよ」
  「は・・・(笑)」



2009.06.28.

途中です。