玄関から愛を込めて 1
立て付けが悪いモンだから、玄関に飛び込んで来た俺の背後で、俺が入ってからたっぷり20秒はかかって、ドアが閉まりやがった。
20秒!!
20秒だよ!!
俺が、馬鹿なドアの事を忘れるのに十分な時間だよ!!
もう、飛ぶように帰って来て、鍵を開けるのももどかしく(ちょっと壊した)、狭い玄関に飛び込んで、サンダルも脱がず、床に座り込んで、
「ああ、もう!!!我慢できないっ!!」
と、ズボンを下げた俺の後ろで、
ガチャンッ!!!
だと。
飛び上がったね。
任務で殺り損なった奴が、つけてきたのかと思ったね。
しかも、ガチャンの前に、油の切れたドアクローザーが「キエエエ・・・」と人の声みたいにきしみやがったからダブルで怖かった・・・・
怖かった・・・・写輪眼のカカシだけど。
「は・・・ははは・・・」
ドアね。
分かってるさ。
「大家さんに言っておこう」
蹴り壊したい気分だったが、まさか、ドア無しの玄関でマスをかくわけにもいかないしね、っと、室内に入って事に及ぶという選択肢が浮かばないほど、俺の下半身は人間の尊厳たる脳をその支配下に置いていた。
「長かった、長かった・・・」
本当に今回の任務は長かったよ。
いや、期間は短い。ホンの4日だったから。
でも、異様に緊張を強いられる暗殺で、お膳立てから何から、すべて、俺の隊(っつても3人)でやらなくちゃならない、面倒な奴で。もう、暗部じゃないのに、たまにあるんだよね、こういう仕事頼まれちゃうの。
んで、その凄まじい緊張感が、長期任務くらい俺の時間を引き延ばしてくれたわけよ。
相対性理論っていうんだろ?・・・違う?
景気よく、半分だけ下がっていたズボンを下ろす。
「いててて・・・」
引っかかった(笑)。
つまりだ、溜まってた性欲のフラストレーションは、任務終了の瞬間に一気に昇華されてさ、それで頭が満足しちゃうんだね。
言っとくが、人殺しで、エクスタシーになるわけじゃない。決して、殺人が気持ちいいんじゃなくて、任務が終わって、もの凄い緊張から解放されるから、ってことなんだけど。
んで、本当は、身体のほうは溜まってるという、不具合が生じて・・・・・
だから、玄関で緊急にしこるのは、こういう場面では、仕方ないことだ。
そ、スタンダードだもん。
「さ!!」
と、下着も下ろし、冷たい自分の手にビクッとして、俺は目を閉じる。
ああ、何もいらない。
オカズなんていらない。
もしかしたら、手もいらないかも。
「すげえ・・・今なら、俺もまな板ショーができる・・・」
手を使わずに射精する凄い奴がいると、アスマから聞いたことがある。
ああ、あの熊め、どっかから見てたらイヤだな。
でも、あのとき二人で試そうなんてことにならなくて良かった~~
んなわけないか(笑)。
「はっ・・・あ・・・・」
ああ、俺の手だけど、気持ちいい!!!
オカズいらないのに、ああ、勝手に頭に浮かんじゃう!!
あ、ああ、さっき見た八百屋の奥さんかよ!!
俺、結構、いけてると思ってんだけど、あの人、俺にそっけないんだよなあ、いつも。
気にしてたのか、俺!!
まあ、いいや、もう!!
ごめんね、八百屋のご主人、奥さん、貸して!!!!
結構、いいラインしてんだよね、腰の辺り。
それに、あのエプロンがまたさあ~・・・
ガチャ・・リ
おい!!
いい加減にしろよ、馬鹿ったれドアめ!!!
せっかく、奥さんが俺のモノをパクリと・・・・
あふん、と鼻息を荒くして振り向いた俺の目の前に、ドアを開けて立っているナルトがいた。
「せ・・・んせい・・?」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
終わった
なんか・・・終わった感たっぷり。
けっこう修羅場くぐってきたのになあ、俺。
こんな人生の終わり方って、ちょっと想像してなかった・・・・
こんなことなら、さっき、ドアを蹴り壊しておけば良かったよ。
いっそ、擦りまくって、勢いよく飛ばして、はあ~すっきり!!なとこまで、鑑賞されちゃえば、俺だって、諦めもつくさ。
「やあ、ナルトか、どうした?」
って、パンツ上げながら爽やかにね。
でも、どうよ、これ・・・・
ナルトが戸口に立っているせいで、玄関は薄暗く、しかもナルトの表情は逆光でよく分からない。俺は、もの凄い勢いで萎えた分身を、何気に手で隠し気味にして、口半開きでナルトを見上げた。
「先生、あの・・」
ななな・・・何も言うなあああーーーー!!!!
俺の心が死ぬう・・・・
なんで先生なんて引き受けちゃったんだろうね、俺。
中途半端に、四代目のマネなんかにときめいちゃったあのときの俺が恨めしいよ。
俺の人生にこんな間抜けな瞬間が訪れようとはなあ。
父さん、助けて・・・・
「先生、大丈夫?」
ナルトの変声期前のかわいい声が、俺の醜態にアクセルをかける。
なにやってんだ、俺は!!
なにが、「奥さん!!いいんですか、ご主人が・・・」だよ!!!
ナルト、俺は悲しい。
こんな自分が情けない!!
スタンダードだもん、の「もん」がすっごくイヤだ!!
「先生?」
「ナ、ナルト、いや、あの、これは・・・」
げえええ・・・・
すっごく声が掠れてる・・・・
しかも、もう、どうしていいか分からないよーーーー
言い訳しかできない・・・・・
「先生、俺、もうガキじゃないってば」
・・・・・・
・・・・・・え?
「ナルト・・・?」
ナルトが僅かにその足をジリと進める。
少しだけ空気が動いて、俺はちょっとだけ楽になったような気がした。
「先生のやってること、分かるってば」
・・・・・・
・・・・・・
楽になった、は、錯覚か・・・・
どうすりゃいいんだよ・・・・・
「や、ごめん、ナルト」
沸騰中の俺の脳みそとは関係なく、口が何かを喋っている。
「変なとこ見せちまった・・・・」
開き直ったか、俺の口!!
でも、使えない脳みそよりはずっとマシだ。
「俺も、急に来てごめん」
うわ、子供に謝られて、どうすんの?
いいや、一応、事態は動き始めたな。でも、なんとなく、動きづらいよ。
この、手、どうする?
今更、パンツにモノをしまうってのも、なんかできない。
死後硬直並に固まった俺を見下ろすナルトは、あろう事か、三和土にカタンと膝を落とした。
「え?え?」
度を失った俺の、哀れな「え?」など耳に入っていないかのように、ナルトがその手を伸ばしてきた。
「は?な、なに?」
「俺が・・・」
え?
ナルト?
ナルトの手が、俺の手に重なる。
弾みで、俺のペニスに俺の手が当たって、妙な感覚が湧いてくる・・・・
「俺が手伝うよ、先生」
・・・・・・・
・・・・・・・
ああ、イルカ先生!!!!
あんた、教育、間違ったよね!!!
誰か、夢だと言ってくれ・・・・・
2009.12.12.
Syndrome Maniaの復元作業。テーマと展開しか思い出せないので、ほとんど新作っていっていいと思います(笑)