初恋かもしれない
初めてじゃない。
もう、何回か、抱いている。
でも。
今起こっていることは、確かに現実なハズなのに。
どうも、実感が伴わない。
空気がキンと冷たい。
夕食の食材を買って来て、それはダイニングのテーブルの上に置いたまま。
部屋を暖めようとして、隣の寝室に入った隊長を追って・・・・・
気づいたら、二人でベッドの上に座っていた。
挨拶のようなキスをして、伴わない実感を探していた僕の手が、ちょっとの間止まる。
と、それは隊長を不安にさせるらしかった。
「どうした?」
はっとして、隊長のシャツをたくし上げかけていた手に、力を入れる。
触れるのは、隊長の脇腹。
寒い室内で、その滑らかな皮膚は心地よく熱かった。
「いや、なんでもありません」
その口調はきっぱりとして、普通なら充分、説得力があったが、なにしろ、元からこういう口調だし、さらに表情も硬いとくれば・・・・
「本当?」
ダサイ(と僕は思っている)ヘッドパーツを取れば、僕と変わらないくらいな年齢に見える顔だ。
その顔で、「本当?」なんて聞かれたら、僕のなけなしの優しさを全部、アナタに差し出したくなってしまう。
「本当です」
僕は、無理をして、そう、無理をして、なんでもないというふうに、言い切って、もう一度隊長にキスをする。
もちろん、なんでもなくはない。
いつも、初めて触れた時のように、心臓が飛び出そうに拍動して、隊長に触れていないと、指先も震える。
でも、僕の震える唇が隊長のそれに触れたとき、隊長の方がもっと震えている事に気づく。
軽く触れて、もう、それ以上はできない・・・
唇の熱さを感じただけで、僕は唇を離す。
「サイ・・・」
そんな声、出さないでください・・・・・・
「サイ?」
ああ、僕を・・・殺す気ですか・・・・
「なんです?」
「寒いよね?」
僕も思わず頷く。
買い物の帰り道、二人の白い息が空気に溶けていくのを見た。
「ちょっと中断して、ベッドに潜りましょう」
僕がそう言うと、隊長はびっくりしたように目を見開いた。
「なんです?」
「え・・・いや・・・(笑)」
笑った?
「可笑しいですか?」
「いや・・・うん。中断だなんて・・・」
変なんだろうか?
「だって寒いんですよね?」
「うん。そうだよ。ベッドにはいろ」
隊長は笑いを含んだ表情のまま、僕の身体を押して、ベッドに入る。
なんだか嬉しそうで、つられて僕の空気も緩んだ。
「楽しそうですね?」
「うん。だって、なんかこういうの、楽しいよね」
たしかに。
大の大人が可笑しいが、でも、好きな人と、暖かいベッドに入っているというのは・・・・なんかすごくいい。
「ねえ、サイ」
「はい?」
「中断は終わりだ。続き、しようよ?」
かわいい・・・・
おくてなのを隠すためかと思うほど、普段はストイックに見えるのに、二人でいると、天然に素直だから、僕が実感を持てないのはそのせいかもしれない。
「隊長・・・」
「名前、呼んでくれよ」
ああ・・・・・
抱いて、我を忘れている時には平気だが、素に近い状態で・・・・
「ヤマト・・・さん」
恥ずかしすぎて、どうにかなりそう・・・・
「さん、は余計だよ。いつも呼び捨てのくせに(笑)」
うわ。
あの最中のこと言ってる。
本当に、初心いんだか、凄いんだか、分からない人だな・・・・
僕が独りごちて毛布を鼻まで被ると、隊長も一緒に被って、
「はやく暖まらないかな、部屋」
と言った。
2008.05.06./2009.12.22.
続きます