違う色




  「あれ、テンゾウはいないの?」

銀色のボサボサ頭を、詰め所に続く小会議室にぬぅ~っと突っ込んで、カカシがサイの顔を見た。
サイは手元の紙を隠しながらカカシをにらみつける。そして、思いっきり不機嫌な顔で、

  「さあ~?誰です?その人?」

と言い返した。
でも、まだ表情をうまく操作できていなかったらしい。
カカシは、サイのトゲに気づかず、あるいは、コレがサイのスタンダードと思ったか、

  「あ、ごめん、ごめん。今はヤマトだったよ(笑)」

と言って笑った。

  「知りません!!!」

  「あ、そう。邪魔して悪かったね」

サイの勢いにも、カカシは、微塵も動じた様子はない。
片手をヒラヒラとサイに振ってみせて、そのまま去っていった。
カカシが去った方に、サイは「けっ」と毒づいた。
もちろん、知っているに決まってる、「テンゾウ」が誰のことかは!!
だって、あのおっさん、隊長に会うたびに「テンゾウ」なんて呼び捨てしやがるからね。
そのたびに隊長も「今はヤマトです」って、あきもせずつきあっている。
だいたい、あのカカシっていう上忍、僕によい印象を持っているわけがない。
僕の出処を知っているだろうからね・・・・・
いくら、ナルトやサクラが僕の変化に言及しようと、一度も一緒に行動したことのない彼に僕の何がわかる?
しかも、なんだか、隊長に絡みすぎだ・・・・・

  「やっぱりいないな」

うわっ!!!!
サイが驚いて振り向くと、いつの間にか、戸口にカカシが立っていた。

  「さっき確認したんじゃないですか?いませんよ」

気配殺してバカじゃないのか?

  「俺に気づかないくらい絵に熱中してたな」

うっ・・・気配殺してたわけじゃなかったんだ・・・・

  「どんな絵を描くの?見せてく」
  「お断りします」
  「・・・・あ、そう・・」

相手の言葉を切るようにガツガツと言い返しても、カカシは穏やかに受け止めている。
それが、ますます憎らしい。
無視して作業を続けていたが、カカシが立ち去らないので、仕方なく見る。
手持ちぶさたに頭を掻いていた。

  「隊長に・・・」
  「え?」
  「隊長に御用ですか?」
  「うん」

ななな・・・・・・頬を赤らめて笑っている!!
きっさま!!
その『用事』ってのは何なんだ!!
まさか、いかがわしいもんじゃ無いだろうなっ!!
親切に聞いて損した!!

  「なんの御用でしょう?」
  「え?だから君じゃないよ、ヤマトに用事だ」

じゃあなんでそこに突っ立っているんですか?と問い返すと、

  「絵を見せてもらいたくて・・・・ついでに」

と言った。

  「ついでに見せるような絵では無いんで」

イーッとばかりに言い返すと、カカシは、

  「それは失礼・・・・・あ、あそこにいた」

と、窓の外を見る。
つられてサイも見たが、それがカカシのイタズラであると気づいたときには遅かった。
カカシの手には、今までサイが描いていた絵の紙が握られていた。

  「卑怯な!!」

言いざま取り返そうとしたが、果たせない。

  「なるほど」

絵を見たカカシがそう言って、サイにその紙を返す。
ひったくってカカシをにらみつけたが、カカシは、

  「さすがに上手いね」

と言ったきりだった。
サイは、顔を赤らめて、カカシにらんだまま。
カカシも黙って見返したが、やがて、フッと緊張を解くと、

  「まあ、見たままってことで・・・・いいのかな?」

と笑った。
くっそぉーーーー・・・・
サイが歯ぎしりする。
サイが描いていたのは、ヤマト隊長の絵だったのだ。

  「どうぞ。一歩下がる気も、年寄りに道を譲る気もありませんが」

言い捨てて、カカシの脇をすり抜けた。
詰め所を出る。
かなり歩いたとき、後ろから、カカシの、本当に可笑しそうな笑い声が聞こえてきて、
サイは軽く舌打ちをした・・・・




2008.05.06./2009.08.07.