風の色




根の時とは違う空気。
今でも自分は根の人間だけど、今までのように与えられる情報だけで、すべてを決めなくてもよくなった。
大きく手を広げ、深呼吸して、僕は考える。
いろんな人の、そう、みんなの肯定的な空気を取り込んで。
  「考えるんだ」


青い空。
その綺麗な色の下で、サイは、これまた綺麗な緑の上に横たわった。
透明な風が、身体の上を渡っていく。
  「気持ちいい」
外を歩いているときはいつも、こんなふうに風に吹かれていたはずなのに、今、身体に感じているような風は初めてのような気がしていた。
  「綺麗だ」
空の高いところで、雲がゆっくり流れている。
しばらくそれを見いて、サイはふっと気づいた。
絵筆を持っていない自分に。
  「忘れてきた・・・・」
唖然とする。
上体を起こして、無いとわかっている鞄を探した。
  「めずらし・・・」
今までにはあり得ない状況なのに、自然と笑みが浮かぶ。
命より大事な武器を忘れたのに、他人事のように笑える自分も初めてだった。

と・・・

  「珍しいね?」
背後から声がかかる。
上機嫌な自分を見られたかもしれない気まずさで、ゆっくり振り返る。
空を仰いで、透明な風の中に、ヤマトが立っていた。
  「ヤマト隊長」
  「天気、いいなあ~」
自分と違って、この人には、こんなひなたが似合ってる。
  「珍しいってなんのことですか?」
ああ、と言ってヤマトも、サイの隣に腰を下ろした。
  「絵筆も紙も持ってないからさ」
やっぱりわかりやすいな、僕の行動って。100人いれば、100人、同じ事を言うだろう。
うわ、座るともっと気持ちいい、と、ヤマトは大きく伸びをして、草の中に寝転んだ。
ヤマトの身体が草の匂いを巻き上げる。
  「お。横になると、風が身体のすぐ上を流れていくね」
僕と同じ事、感じてる。
サイがクスっと笑うと、ヤマトがその手を伸ばしてサイの腕に触れた。
図らずもドキッとしてヤマトを見る。
  「そんないい顔するんだね」
ヤマトの手は、そのまま離れて、彼自身の頭の下に組まれる。
  「僕だって笑います」
  「ん?・・あ、ごめん」
そのまま二人とも黙る。
二人の周りを風が吹き、その空気は、そのまま二人のおだやかな空気になった。


よほど経って、サイが言う。
  「寝たの?隊長?」
小さな声で聞いてみる。
  「いや。寝てないけど、寝そう(笑)」
サイがまた微笑んで、その笑顔に、ヤマトも笑んだ。
  「この景色、描ければよかったね?」
道具を忘れたサイに言う。
サイは笑って応えない。
描かなくても、心の奥底までじんわりしみこむ景色があることを、今、実感していた。
  「風に色がついてるみたいだ」
ヤマトがそんな事をつぶやく。
サイは驚いて、あたりを見渡す。

風に色がついている・・・・

絵を描く自分が、そのことに、ずっと気がつかなかった。
  「あ、変なこと言ったかな、ボク」
ヤマトが上体を起こして、サイを見た。
大きな黒い瞳がこっちを見ている。
  「絵心ないからさ、ボクは。とんでもないこと言ったかも」
なぜかサイは赤面して、大きく首を振った。
ヤマトは笑って立ち上がる。


遠くで、風が野原を渡る音がして。
サイがその遠くを見る。
気づいてしまえば、もう、そのささやかな音にも、
色が付いていた・・・・




2008.05.06.

あるサイト様の影響で、サイが気になってきています。いいポジションにいますよね、彼。