初雪



凍った窓は曇りガラスのようで、外の景色がぼんやりと白い。
元気な俺の対極にあるような曖昧な色は、でも今は、心地よかった。
俺が元気でいることは、何かこう収まりがいいから元気にしているだけで、それが俺の本質ではない。
そう、俺は演技している。
俺自身のか、周囲のか、あるいは双方のかもしれないが、要求があるから演じている。
なくてももちろん同じコト。
ただ、俺にはそれが苦じゃないだけだ。

だから、カカシを見ていると、たまに切なくなる。
彼とは今でもしばしば逢っている。
不思議な関係だと、他人事のように感じることはある。
そして、その他人事の中に「自分」という主体を見つけて、驚くのが俺のお気に入りの時間つぶしだった。
驚くときでさえ「へえ~」的な、客観の態度は崩さない。
まあ、あれこれ言ってはみるが、
つまり、俺は、カカシが好きだ。

爪の先で、ガラスを引っ掻き、意味のない線を引く。
薄い氷は引っかかれるままに、白い繊維の様にガラスから剥がれ、それはカカシの髪のように綺麗だった。



  「寒い」
微かな声に、俺は振り返る。
彼が寒くないように、わざわざ俺が窓側に寝ているのに、それを知ってもこういうことを言う。
さっき見た、毛布にくるまっている状態のまま、暗闇に目だけ開けている。
  「まだ夜中だぜ」
  「うん。でも、寒くて目が覚めた」
いちいち、きちんと返事をするカカシに、でも、じんわりと自分たちの関係の深さを感じている。
  「俺はまた、足りないのかと思って焦ったよ」
別に焦ってなどいないが、熱血な印象をまき散らして、色事から距離を置いているような俺が、そういうコトを言うのを、カカシが面白がるから、言う。
案の定、ククク・・・と笑って、
  「それ、みんなが聞いたらウケるよねえ」
  「そう?」
  「体力バカを絞り尽くす俺って、一般的にどうなの(笑)」
  「一般的?」
  「木ノ葉の連中的にってこと」
俺はもう、たまらない。
数時間前に、一生分やり尽くしたと思ったのは、錯覚だったのか?
  「カカシ」
喉から名前が漏れて、柔らかい毛布ごと抱きしめる。
  「ガイ」
  「俺は謝らないぞ、お前のせいだからな」
言いながら、俺は自身の部分を寝具越しに押しつけた。
  「ははは・・・・」
笑いながら、もう、カカシの空気は俺を受け入れていた。
俺の脳裏にも、さっきの光景がフラッシュする。
すでに鎮まった夜の空気に、熱い空気を纏って喘いでいたカカシが重なる。
  「変態」
カカシが言う。
  「お前が、か?」
  「ホントだ・・・」
夜目にも白い顎のラインが動いて、そこから続く喉が、呆れたように吐かれた言葉と一緒に動いている。
でも、まさか、さっきの勢いでやるわけにもいかない。
  「音」
そう言った俺の言葉に、さすが、すぐに反応する。
  「ああ。ずっと前からだよね」
静かに冷たい部屋の外では、もう昨夜になってしまった時刻から、ずっと雪が降っていた。
  「初雪?」
  「ははは!お前、凄いよ」
カカシが心底可笑しそうに笑った。
  「何が?」
  「もう、何回も積もっては溶けてるのにさあ(笑)」
わかってないのはお前だよ・・・・
  「そうか」
俺は、そっと、でも強く、カカシを抱きしめた。
さっきの艶めかしいカカシも好きだが、俺はもっとその前を思い出している・・・・・






乾いた空気が、もの凄い開放感を持って、でも、ちょっと寒すぎる。
俺は寒空の下、なんの進展もない会議の後遺症でなまった身体を、伸ばそうとして、結果、身震いした。
灰色の空の向こうに、薄い水色が広がっている。
全部が色彩の彩度を落として、でもそのことが、より一層、景色を美しく見せていた。
  「お前、力、出ないだろ?」
カカシが後ろから、真面目な声で俺をからかう。
  「は?なんで?」
  「こんな寂しい季節じゃ、さ。お前には暑苦しい夏が似合うよね」
  「生まれたのは1月1日だけどな」
  「そっちはおめでたいから、それもお前にあってる(笑)」
軽く笑って、俺と並ぶ。
じゃあお前はどうなんだ、という返しは、カカシにはできない。
もう、すべてが儚くて(俺が基準だからそうなるだけなんだけど)




・・・・・・・

続きます

2012/01/09 2012/01/12