秘密 1
場所は忍具の保管庫。
上位忍者が使うような特別誂えのものばかりおいてある奥まった一室だ。
もちろんサスケは入れないが、カカシを追って無理やり入室したのだった。
「・・もう、いいだろ?」
保管庫に差し込む夕日が、立っているカカシの裸身をどぎつく照らしている。
カカシの足元には、脱ぎ捨てた忍服が散らばっている。
カカシはちょっとだけ寒そうに腕を組んだ・・・
◇
事の始まりは、ガイ先生の一言だった。
「下忍の罰ゲームはかわいらしいな」
そのころはまだみんな下忍だった。
ゲームで負けた子に、アイスをおごらせるという罰ゲームを、ガイは目を細めて眺める。
「じゃあ、上忍の罰ゲームはさぞ凄いんだろうな」
シカマルがつぶやくように言う。
「ああ。泣くね。比喩じゃないぞ。ホントに泣くんだ」
ブッと数人がふき出した。
「テキトーなこと言わんでくださいよ」
シカマルも苦笑する。
「馬鹿にしてるな、お前たち。俺は嘘は言わん。」
「んじゃ、どんな罰なんだよ?!」
そこにいた下忍が一斉に喰いついた。
ガイはなんてこと無いって顔で、
「うん。みんなで引ん剥いた」
と言った。
「「「「え?」」」」
アイスの罰より低レベルな罰に、特に女の子たちは一斉に引いていなくなった。女の子は興味が無いわけではなく、あくまで、レヴェルの問題だ。
他の生徒もつまらなさそうに散っていったが、サスケだけは違った。
『上忍だぞ』
『剥かれたのは・・・誰だ?』
『も・・もしかしてカカシだったら・・・』
サスケが立ち上がる。
「ん?なんだ少年?」と、ガイ。
「誰だ?」
「何が?」
「剥かれた馬鹿」
「我が永遠のライバル、」
最後まで聞かず、サスケは卒倒しそうになる身体をくるっとひっくり返した。
早歩きでみんなのもとを離れた。
サスケの脳内をガイの言葉が駆け巡る。
『剥かれて泣く・・・・ヤバイ・・・』
サスケの脳に、妄想が満ちる。
なぜカカシがあっさり脱がされるのか、その部分の疑問は残るが、シチュエイションがおいしいことには変わりない。
しばらくは、任務どころの騒ぎじゃなかった。
カカシが気になって仕方ない。でも一方のカカシは、当たり前だが、全くいつも通り。
サスケは、暗部も真っ青の情報収集マシーンと化した。
アスマ、紅、特別上忍、そして彼らが集まる待機所・・・・・
さりげなく、何気なく、あるときは、大胆に、サスケは「罰ゲーム」の真相を探った。
その結果、以下のことが分かった。ちなみに、ちゃんとノートに書き込んでいる。
■ 罰ゲームはホントにあった。
■ 裸にされたのは、カカシで間違いない。
■ その場にいたのは、カカシの他は、ガイ、アスマ、紅、ゲンマ、ハヤテの5人だった。
・・・・・・・
で不思議なのが、連中の反応だ。
いつものことだ・・・というような・・・いや、たいしたことないっていうような感じなのだ。
『カカシが脱がされてんのに・・・??』
サスケは、事の次第がはっきりしてくるにつれ、違和感を感じるようになった。
その違和感を解消してくれたのが、ゲンマだった。つっけんどんに見えて、その実面倒見のいいゲンマは、下忍にとっても、何かと頼りになる存在だ。
「ああ?カカシさんか?」
「うん・・・」
「なんて言ったらいいかな~」
千本がグルグル動く。
「そうだな、たとえばだ、俺、男だけどさ」
ゲンマが面白そうにサスケを見た。
「お願いしたら、あっさりやらせてくれそうなんだよね(笑)」
「(絶句)」
つまりさ・・・・ゲンマが続ける。
「気前がいいんだよね、カカシさんって」
目から鱗だった。サスケの違和感が消し飛ぶ。
『気前がいい』
そして、この瞬間から、このフレーズはカカシをさぐる、サスケの重要キーワードになったのだ。
◇
『気前がいい』
このフレーズで、勇気100倍のサスケは、もちろんカカシに強引に迫った。
下忍は特別保管庫には入れないが、カカシに続いて強引に入り込む。
窓の外には木が茂っている。
日差しが傾きかけて、葉の間から強烈な色を射していた。
カカシはまっすぐ左奥の壁に向かう。
サスケは黙って後に続く。
「何よ~サスケ・・?」
「みんなに見せてんだろ?」
「何を?」
カカシは振り返りもせず、棚をゴソゴソやっている。
「アンタの裸」
それでもカカシは振り返らない。
「俺の裸?」
「ああ。脱がされたんだろ?」
特殊な手裏剣を幾つか手にして、カカシが振り返る。
「ああ、罰ゲームのこと?」
やっぱホントじゃん・・・
「事実なのか?」
「うん」
この男、あっさり言いやがって・・・・
サスケは拳を握り締める。
なるほど、これでゲンマの台詞が信憑性を帯びてくる。
でも、拳は震えるほど硬く握り締められ、なぜか強い語気でこう言っているサスケがいた。
「アンタほどの男が、なにあっさり脱がされてんだよ」
「あれ、呼び捨てにするくせに、俺を認めてくれてるんだ、サスケ?」
「・・・ったりめーだろ!!なに負けてんだよ!!」
「ははは・・・本気で戦うわけじゃないでしょ」
手裏剣の刃先を指で触っている。
「時の運だってあるし」
「何のはなしだよ」
「え?大富豪のことだろ?」
「はあ?」
「は?違うの?」
結局、待機所でトランプゲームをしてて負けた・・・・と、そういうことらしい。
「勝負って・・・そんなことかよっ!!」
「いいじゃない、たまには息抜きも必要だよ」
「カカシ、俺が聞きたいのはソコじゃねぇ」
「なあ、サスケ。その話、長いのか?」
くっそぉ~!!!
「カカシ、てめえ・・」
「聞きたいのは俺のほうだ。何を怒ってんの?」
もう、うだうだ時間を無駄にはできない。
直球を望んだのはアンタだからな!!
「俺にも見せろ」
・・・・とうとう言っちまった・・・
「なにを?」
「アンタの裸」
一気にシリアスモードになると思いきや、カカシの雰囲気は変わらない。
「へ~・・・それって、どういう意味だ?」
カカシが、ゆっくりと口覆いをおろした。
『くっそぉ~・・・・やっぱりいい男だぜ』
素顔を見るのは初めてじゃない。待機所ではしょっちゅうおろして、能天気に笑っている。
「意味って・・・」
「裸を見て、俺に勝った気になるとか?」
ばか、カカシ。そんな小学生みたいなこと・・・俺がそんなガキに見えてんのか?
俺が黙っていると、さすがのカカシもちょっと驚いたように目を見開く。
「え?まさか、ホントに見たいの?」
仕方なく俺は頷く。
ああ・・・・最低の告白・・・・・
カカシは、驚く顔を引っ込めて、また冷静な空気に戻る。それが、俺の為だなんてそのときは思わなかったし、気づかなかった。
「俺、女じゃないよ?」
「馬鹿」
「サスケ、俺、」
「わかってるって言ってんだろ!!」
窓際まで、カカシを追い詰める。
焼けるようにどぎつく色づいた窓枠は、触れると氷のように冷たかった。
ピタと背を窓に着けたカカシも、衣服越しにその温度を感じたに違いない。
微かに身体を震わせた。
無意識に、俺を牽制しようと出された左の手首を、力を込めて握りしめた。
「サスケ」
それはただ言っただけ。吐く息に音が乗っただけ。なんの意志も無い。
「安いんだろ、アンタの裸」
言って、その顔を下から見上げる。
窓から射すオレンジの逆光で、銀髪がオレンジに染まり、カカシの表情は暗い。
「安いよ」
その暗い顔が言う。声から感情を読み取ることはできなかった。
「じゃあ、脱げ」
下から見る綺麗に整った顔は、覆面をしているときより酷く幼く見えて、サスケは心臓の辺りがキクンと痛むのを感じた。
相手は大人なのに、自分を楽々殺せるくらい強い上忍なのに、自分の方が悪いような罪悪感。
もしかしたら、この状況をも、誘導されたものではないと誰が言える?
「悪いのはアンタだ」
カカシが目を瞬いた。
「わかったよ」
カカシが喉の奥でそう言った。捕まれた左腕を振り払う。
「見たきゃ見ろよ。別に減らないしね」
俺を窓際に置いたまま、カカシは保管庫の中央へ歩く。
その足元に夕日が薄く延びて、カカシの全身が綺麗にオレンジに染まる。
ちょっとだけ、何かを考えているようだったが、いきなりクルりとサスケに背を向けると上着を脱ぎ捨てた。
アンダーも脱ぎ捨て、足元に落とす。
「!」
広い背中は傷だらけではあったが、とても美しく、サスケは息を呑んだ。
カカシは上だけ脱いでしまうと、肩越しにサスケを見る。夕日がカカシの目に入り、眩しそうに目を細める。
「全部見たいの?」
「ったりめーだろ」
「スケベだなぁ、お前」
「なんだよ、今更。他の連中にだって見せてんだろ?」
カカシは憮然とした感じで、黙ってしまう。それでもノロノロと、こちらに背を向けたまま下半身を脱ぎ始めた。
引き締まった尻が現れる。滑らかな陰影がついたそれは、サスケの喉を渇かした。
「もしかして、俺のチンポとかも見たいわけ?」
見たいどころか、舐めたり吸ったりしたい・・・・と思ったが、黙ったままうなづいた。
が、カカシはそのままそこに座りこむ。かすかにため息が聞こえた。
だからって、どうできる?このまま行っちまうしかないだろう。
「なんだよ、こっち向けよ、見たいって言ってんだろ」
「もう少し年上に敬意払えよ」
「ああ?」
「お前がこっちに来い」
カッチ~ン・・・・
フルチンで、なんでそんなに偉そうなんだ!!
でもいい。
そこに行きさえすればいいんだな。
サスケは短く息を吐くとカカシの方に足を向けた。
カカシの横に立つ。カカシは上体を後ろに倒し、両腕に体重をあずけている。
夕日をさえぎられて、カカシがサスケを仰ぎ見た。
銀髪が、衣服を脱いだ時のままに乱れ、先ほどの幼い印象のままだ。
『これがカカシか?』
カカシに見えない。
カカシから、忍者の属性すべてを取り去ったら、そこにはただの美しい青年がいるだけだ。
他の忍より、フル装備にこだわるカカシの心情がわかる気がした。
突っ立ったままのサスケに、カカシが言う。
「見ろよ」
「・・・・」
「見ていいよ、サスケ」
サスケは、カカシの正面に回るとそこに座り込んだ。カカシは、サスケに考える間を与えない。
「ほら、俺の」
カカシの身体に陰になって、股間が見える。
サスケが反応する前に、あっさり、立てていた右足を外側に倒す。色の濃い銀髪に根元を覆われた生殖器が見えた。
「でかい?」
馬鹿なセリフの割には、表情の無い声だ。
「さあな」
「お前のよりはでかいだろ?」
「馬鹿じゃねえの、アンタ。年下と比べて喜ぶなよ」
サスケの左手が、倒れたカカシの右の太腿の上に乗る。
「なに・・?」
カカシがまともにサスケを見た。
「触りたい・・」
「なんだって??」
さすがにカカシが気色ばむ。
「お前、おかしいんじゃないの?ストリップくらいなら遊びで済むけど」
「おかしいのはアンタだ。部下を挑発して」
「貴様・・」
カカシが奥歯を噛む。
サスケの手がすっと太腿の上を滑った。カカシが身震いする。
「もっと足ひろげろよ」
「サスケ」
「好きなんだ」
「・・・・」
「理由になるだろ?」
カカシはその瞳に怒りの感情を込めてサスケを見た。
怒りじゃないかもしれない。
ただ、それと間違うような激情だったことは確かだった。
膝をついたまま、カカシの方に上体を倒す。
カカシは物凄く逡巡していて、俺のキスを受け入れるかどうか、俺の唇がカカシのにくっつくまで迷っていた。
唇が触れる。
冷えた薄い皮の下に、上司としてのカカシを裏切る血の熱さを感じる。
思わず、貪るようにその唇を吸う。
カカシの頭が後ろに傾き、俺は、逃すまいとしてその頭部を支える。
柔らかい銀髪が指に絡まり、上背の割りに小振りで形良い頭蓋に、カカシの均整のとれた立ち姿を思い出した。
「好きだ」
キスしながら、相手の呼気を吸い込んで、訴える。
「好きだ」
好きだ、好きだ、好きだ・・・・・
カカシはキスに応えながら、でも、動かない上体は、消極的に俺を拒否していた。
「だからイヤなんだ・・」
カカシは息を継ぎながら言う。
「本気だなんて・・・っ」
その先を言わせない。きつく吸う。
『馬鹿だ、お前』
多分、そう続けたろうそのセリフごと吸い尽くす。
唇を離す。
血色の悪いカカシの顔は、唇とその周りだけ、血の色を浮き上がらせて、化粧したように扇情的だった。
目を閉じている。
俺を拒絶して、でも、その脳みそは、俺のことで一杯だ。
「まだ他に選択肢があると思ってんのか?」
カカシの髪を掴む手に力を入れる。カカシが目を開ける。
「お前・・・酷いよ」
「酷いのは自分だろ」
俺のセリフに逆らえないカカシの目が、整った形のまま歪む。霞むように色づく目の縁がその証だ。
「キスして」
至近距離で、カカシにねだる。
諦めたように俺の唇にちょっと視線を落とし、また見上げる。
・・・今のカカシの気持ちが知りたい。
・・・そんな目の向こうが見たい。
俺の手がゆっくりカカシを解放し、それを追うように、とうとう、カカシが口付けてきた。
もう保管庫はだいぶ暗い。
さっきまで、カカシの姿を彩色していた夕日も、窓の外の植え込みに完全に遮られてしまった。
キスはかなり長く続き、そこにウェイト置かない俺の若さはちょっと焦りを感じた。
一度唇を離そうとして、俺の視界にカカシの股間が入る。
カカシが勃起していた。
俺はびっくりして、完全にカカシから唇を離した。
「ぁ・・・」
急に離れた俺に、カカシが小さく声を上げる。俺の視線の行方を知って、一寸だけ、左の口角を上げただけだった。勃っているチンポを隠そうともしない。
俺の手が何のアクションも起こさないことを確認して、カカシは自分でそれを掴んだ。
そのとき初めて、俺も勃っていることに気づいた。荒いでいる息にも気づく。
キスだけで、俺は興奮していた、カカシみたいに。
2009.07.11.
2008.01.28./02.02.「妄想会議」より。一部修正。