秘密 2
「サスケ」
と、諦めの悪いカカシのセリフが、俺の鼓動の邪魔をする。もう、どうにも誤魔化せない道を歩き始めてるんだって、さっき確認したはずなのに、カカシは「サスケ」と声で俺を諫める。だったら、立ち上がって服を着ればいいのに、俺の身体を押しのけて「おもしろかったね」と言い放てばいいのに、カカシはそのまま動かない。勃起したモノを隠すように掴んで、でも逡巡しているカカシは・・・・・強烈に俺をそそった。
「馬鹿じゃねえの?先生のくせに、ガキに裸にされて」
俺の侮蔑的なセリフに、カカシの眼がキッと俺をにらむ。
カカシの手を掴んで、チンポを晒させる。
今まで見た、どんなモノより、綺麗な形だった。
俺のセリフと、自身の後悔に萎えて、それはちょっと形を変えていたが。
「諦めろ」
俺は何となく優勢に感じ、カカシのそれを掴んだ。
ビクと僅かに反応し、それでも、俺が握るまま、カカシは俺を黙って見ている。
冷え始めた保管庫で、カカシのそれは熱を持っていた。
不意に感じる、生きているカカシの身体。
暖かい血が流れていて、
俺と同じ人間で、
ちょっと先に生まれただけで、
部下にいいようにされるほど馬鹿な・・・・愚直な。
「ごめん」
俺の一言に、カカシが「?」という目差しを向ける。
「先生って言ってごめん」
「許すわけないよ」
カカシ・・・
俺の耳には、カカシの言葉の意味よりも、カカシの息の色だけが聞こえて、それは決して、否定的ではなかった。
俺の手が、グッと下がってカカシのペニスをこする。
カカシが何か言いかけて、その言葉を飲み込んだのを見た。
俺の目がカカシの唇を読むように視線でなぞる。
「・・・・やめろ・・」
同時に動いた腰が、言葉どおり俺を避けるように移動した。
「俺に言うな。アンタが逃げろよ」
何も考えずに発したセリフが、カカシを捉えたようだった。
グッとつまり、歪めた唇が微かに震えている。
それは、まるで女の子が泣くのを耐えているような眺めで、俺の芯は後ろめたい喜びで満たされる。
「許さないって言ったろ・・・」
突き出された唇はその表情を幼くし、もしかしたら、俺は今初めて、カカシの「何か」を見ているのかもしれなかった。
「好きっていう自己中な気持ち、アンタ、わかんないの?」
「・・・・・」
「許されなくたっていいんだ」
「・・・・・」
「アンタを手に入れて、アンタの記憶に俺が刻まれれば」
「・・・・・サスケ・・・」
「酷いだろ?でも、好きなんだ」
カカシを傷つけるとわかっていても、俺は、素直である方を選んだ。
自分でもコントロールできない滅茶苦茶な気持ちを、そのまま吐き出す。
好きで、大事で、でも、セックスで征服したい。
バラバラな方向が、いっぺんに成り立つことがあり得るのか・・・・・
でも、嘘だけはつきたくなかった。
もうすっかり暗かったが、徐々に暗くなっていく室内に慣れた目は、互いの体温すら視覚的に感じていた。
カカシの眼の色が、暗さに溶けて、その意志の強さだけになってサスケを見る。
そして、沈黙を破ったのは、カカシだった。
「ガキだねえ」
カカシは笑うような口調でそういったが、目線は全然笑ってなかった。
カカシの手が、俺の手を払う。
「確かにガキだろうさ」
負けねえ。
俺は続ける。
「でも、世間では俺みたいなのを純粋っていうんだ」
ちょっとだけ、カカシの空気が緩む。多分「純粋」っていうらしくない単語に反応しただけ。
「いろんなモノに縛られた大人なアンタにはできねえことが、俺にはできるんだよ」
が、カカシは本当に笑った。
「一人でやってろ」
と言って。
それは、流れとしては無粋極まりない発言だったが、今は有効だった。
カカシは大きく腕を動かしながら立ち上がり、その動きは沈滞した空気を掻き回す。
結果、俺を拒絶して。
立ち上がって、暗さの中で衣服を拾い上げると、俺の視線を振り切るように、目の前でカカシは消えた。
俺の制止も、言い訳も、何もかも拒絶して。
「結局、アンタが一番ガキじゃねえか」
俺は、カカシがいた空間の空気を精一杯吸い込んで、残り香すら残さないカカシが、憎らしい。でも、なぜか心はすっきりしていた。
そう。
全く手が届かないわけじゃない・・・みたいだな。
時間つぶしの悪戯に過ぎなかったとしても、俺の挑発に乗ったカカシが、新鮮だった。
俺の挑発・・・・・
俺の・・・挑発・・・・
うわ・・・・俺、カカシを裸にしちゃったんだ・・・・
硬直した時間が流れはじめると、一気にいろんな認識が押し寄せる。
しかも、アレを・・・・見たどころか、触った!!
ひええ・・・・
脳みそが湧いた無敵の俺、万歳!!!
すげえな、俺!!
さあ、取っ掛かりは掴んだぞ。
あとは・・・・・
あとは、いつ、また同じ状況に持ち込めるんだろ・・・・??
「罰ゲームだ」
気前のいいカカシなら、また必ず乗ってくる。
もう、いいや、すべて未来の俺に丸投げ。
今は帰って、この感触が新鮮な内に!!!
若い俺に乾杯、だ。
2009.07.11./10.25./2011.11.06.