鄙の一日 4




受付に元気よく報告書を出したテンゾウの顔はツヤツヤしていた。
だって、カカシ先輩と悲願の同衾だよ!!
あり得ないよね!!
いや、あり得たんだけどさ、やっちゃったんだけどさ!!
  「ひゃっほ~!!」
あ、心の叫びを音声化しちゃった・・・・
気づくと、両手も万歳している。
抗えない身体の動きってあるもんだね~・・・・
と、
受付にいた事務員が、テンゾウを見上げていた。
しかも、たいていのことには動じない受付が、ちょっと引いている。
  「あ、ごめんなさい」
一応謝っておく。
  「は?・・・いえ、別に」
・・・・・・
すっげーむかつく。
でも、まあ、いいよ、許してあげるよ。
なんてったって、僕、今、幸せっていうモンのまっただ中にいるからね。このハッピー、お裾分けしてあげてもいいと思ってるんだ。
テンゾウに少しでも冷静さがあれば、速攻で「いらねーよ」と言われる類のモノだという判断はできたはずだが、
  「僕に何があったか聞きたくない?」
などと、自ら地雷を踏みに行ってしまった。
テンゾウをガン見していた受付は、チラと報告書を見て、
  「木の葉建設の土木作業でしょ?しかも、Dランク」
と言い捨てた。
  「あのねぇ、Dランクって言っても、僕の技術があっての任務遂行なんだよ?」
  「次の人の邪魔になってます」
・・・・・・
仕事熱心でいいことだね。
テンゾウは独りごちて、後ろにいた強面の中忍に「すみません」と頭を下げるとその場を去ろうとした。
と、
  「隊長!!」
戸口から呼びかけられる。
そこにはナルトがいた。
  「ん?ナルト、どうした?」
  「遅かったね。今朝には戻るって言ってたよな?」
  「あ、ああ・・」
そうなのだ。
1日はやく任務を切り上げたはいいが、結果、あはあ~ん(はあと)なことになっちゃって、正規の今朝の帰還予定を、半日オーバーしてしまったのだ。
朝の寝乱れたカカシの姿が、これまた股間にズキュンときて、また抱いてしまったなんて、言えるわけないだろう。さっきの受付には言いそうになっちゃったけど。
  「いや・・・ちょっと大人の事情でさ。へへへへ・・・」
  「!!・・・気持ちわりいってば」
  「その暴言、今なら許すよ。で、何の用だい?」
  「あ、そうそう、カカシ先生が呼んでるってばよ」

どきん

  「え?カカシ先輩が?」
  「どうしたってば?なにびっくりしてんの?」
  「い、いや。カカシさんは、任務じゃないの?」
  「はあ?ずっと里にいたぜ?」

え?

もう帰ったのか?
あそこから、僕の足でやっとさっき帰ったのに。
やられまくったカカシさんが、僕より早く着いてる・・・っていうか、ずっと里にいたってどういうこと?

  「そういや、ばっちゃんとも話してたぜ。なんかやらかした?隊長」

ちょっと待て。
わからん。
わからんぞ。

  「火影室にい「火影室?!」

  「セリフ、かぶせるなよ。火影室で待ってるよ」
  「・・・・・」
  「隊長?」
  「・・・わ、わかった。でも、ナルト、君が見たのは本当にカカシさんだろうね」
  「は?意味わかんないってばよ」
  「・・・・ははははは・・・ごめん、ごめん」

僕の鋭い直感が、僕自身に訴えている。
これはヤバイと。
何が何だかわからないけど、これはヤバイにおいがする。
天国から一気に地獄だ。
行きたくないな~~・・・・
学生の呼び出しじゃないんだから、火影室とか勘弁して欲しいよ・・・・

テンゾウは、入ってきたのとは打って変わった重い足取りで受付を後にした。


***


火影室の戸を叩く。
  「ヤマトです」
  「おう、入れ」
  「失礼します」
おそるおそる入室する。
いたあ~~・・・・
カカシ先輩・・・・・
ついさっきまで、この人を抱いていたなんて、信じられない。
  「おう、テンゾウ」
ああ・・・この声で喘いでいた。どきどきどきどき・・・・・
カカシはしばしテンゾウを眺めると、五代目に
  「大丈夫そうですね」
と言った。
  「そうだな」
  「え?なにが・・・ですか?」
すると五代目が、
  「もう報告書は出したか?」
  「え・・・あ、はい」
  「任務でなにかアクシデントはなかったか?」
  「え?・・・・いえ・・・特には・・・」
カカシ先輩とのことは任務外のことだし、先輩も見事なポーカーフェイスで通してるみたいだからな。
それに、この空気・・・もしかすると、ヤバイものではないようだぞ。
カカシがテンゾウに言う。
  「ま、それならいいんだ。実は、お前の任務とは別に、土木現場の付近で別の任務があってな」
え?
それって?
  「先輩が?」
  「え?いや、俺じゃない。その任務で、他里の忍と小競り合いがあったみたいなんだ」
  「はあ・・・」
  「で、その相手が特殊な忍術を持ってる奴で」
・・・・・・特殊・・・
  「その忍術のせいで、土木現場まで混乱したんだよ」
  「僕がいたときは、なにも・・・ただのおとなしい土木作業現場だったし・・」
  「うん。混乱は、時間差で発生した」
と、今度はまた五代目が引き継ぐ。
  「その小競り合いで、分が悪いと判断した敵忍が、特殊な術をかけてきたらしい」
  「はあ・・」
  「しかも、その特殊忍術が音波を利用するらしくて、ちょっと離れた土木作業員までやられたんだな」
  「どんな・・・忍術?」
  「発動モードつきの幻術だ。ウチの忍、よっぽど手強かったんだな。目の前の敵が、自分の大事な人間に見えてしまうという馬鹿げた術だよ」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
それじゃん・・・・
・・・・・・
ぼー然としているテンゾウに、カカシが言う。
  「馬鹿げた術だろ?(笑)。敵が自分の大事な人間に見えるってんで、戦意喪失を狙ったものらしいけどなあ~」
  「・・・・・・・」
  「戦闘でいきなり好きな人が現れてもなあ。あまり効果のない術だよね」

効果、十分ありました。

  「実際、ウチの忍が、あっさり撃退。ただ、一般の作業員に影響が及んでしまって・・・」
  「せ・・・先輩、発動モード付きって・・・」
  「ああ。そのせいで、土木現場の混乱が時間差で生じたんだけど、」
  「はい・・・」
  「よっこいしょって言わないと、術が発動しないんだってさ。大受けだろ?変な術」

僕的には、まったく受けません。

  「忍がよっこいしょなんて言うわけないよな」

言う人もいます、ここに・・・・
(「1」に戻ってみてください。この人、言ってます)

  「でも、場所が作業場だからさ。言う人もいるだろ、きっと。結構混乱したみたいだぜ」

では、あの、僕が抱いた権蔵さんって・・・・
権蔵さん、そのものだったというオチでしょうか?

と、ドアがノックされる。
  「なんだ?」
ドアが開き、顔を出した受付が、
  「ヤマトさん、お客さん来てますよ」
  「僕に客?」
  「はい。権蔵さんって方」

ぶつっ

何かが切れる音がして、テンゾウが昏倒した。
その後のことは推して知るべし。
テンゾウの、あり得ない「押しの一手」に、ころっとやられた権蔵さんがテンゾウを追って、会いに来たらしい。
ついたあだ名が「権蔵キラー」。
ときどきカカシに、
  「そんなに惚れられるなんて、いったい何があったのよ?」
と呆れられながら聞かれるが、「命大事に」モード設定中のため、のらりくらりとかわし続けているという。
ちなみに、もちろん権蔵さんはカカシには全く似ていない。
あえて言うなら対極に位置するルックスと言っておこう。



2009.01.04.