鳴門の案山子総受文章サイト
「今日は教室じゃないんだな」
風に飛ばされるサスケの声は、それでも俺の耳に柔らかかった。
遠くに里を見る丘で、俺たちは並んで立つ。
すべてが灰褐色の濃淡なのに、どうして人間はそこに芽吹く前の命を見ることができるんだろう。
春はまだ先だが、それでもひそんで目には見えた。
「右手が痛てえ・・・・」
それ自体が生きているかのように大きくうねる風に、俺も言葉を乗せる。
どんなに寒くても、肌がどんなに凍てついても、肺の後ろ側がむずがゆいような、不思議な勢いを感じる。
俺の中にも、芽吹くなにかがあるんだろうか。
「うるせえぞ。俺も同じだけ左が痛いんだ」
サスケが憮然として返して来る。はあ。またいつもの展開だ。
俺は寒風に鼻を赤くして、どこかピュアなままのサスケに嬉しくなって、でもそれを隠して、俺の方がどんだけ痛いかの説明を、ぶつ。
「あのなあ、サスケ。本当なら、痛いのはぶっ飛んだ右腕の断裂面だけだ。でも、俺の場合、九喇嘛もいるからな。九喇嘛の奴め、俺の欠けた肉体部分にも、今まで通りチャクラを流しやがるから、俺の右腕は、どう頑張っても幻肢の激痛から逃れられないんだ。つまり、サスケ、お前より、痛いとこが多いんだぞ!」
サクラちゃんがいたら、ばっかじゃないの!の一喝で終わる会話も、男同士の俺とサスケじゃ終わらない。痛みの面積の多寡は、サスケにとっても重大なポイントなんだ。グッと言葉に詰まるサスケにトドメを刺す。
「それにな、たまに手のひらがかゆい」
「へ?」
「無いはずの右の手のひらがやたらと痒くなるんだぞ」
どうだ凄いだろ、という俺の表情に、ふ~んと複雑な顔をしたまま黙り込んだサスケが愛おしい。やっぱ俺たち、ずっと友達だね!・・・・絶対、言わねえけど。
俺が友情に浸っていると、サスケがボソッと言った。
「手にも水虫があるんだな」
ぶっ!!! [← ナルト吹き出す音]
あのなあ・・・・
まあ、愛しさはかわらない。というか、ますます、愛しいぜ!!
と、風に優しい匂いと気配が混じる。
「サスケく~ん!・・・・とナルト!」
我らが女王様の登場だ。
「さすがのヒーロー達も、こんな寒空の下じゃ小さく見えるわよ」
まあ、遠くから見たら、まず間違いなく連れション状態ではあるな。
と、余裕で振り返った俺は、サクラちゃんを二度見した。
一月の枯れた景色の中で、サクラちゃんの周りだけ暖かく見えたから。
年頃の女の子が輝いて見えるっていうのは、本当なんだ・・・・
俺は横目でサスケを見る。
サスケも唖然として輝くサクラちゃんを見ていた。
この唐変木は、俺よりこういうことに疎いから、本当にこれがサスケの初恋かもしれないな。
「ていうかさ、なんでこんなトコに集まってんの?俺ら?」
定番はアカデミーの教室だよね?と、俺が言うと、
「自業自得じゃない。あなたたち、師匠の受診を先延ばしにしてるでしょ?義手を作ってくれているのに。師匠、怒っちゃって、里内どこにいても追っ手がかかるわよ」
なるほどね。状況はわかった。つまり、本当はサクラちゃんもその追っ手の一人なんだろうけど、この最後の会議のために、見逃してくれてるってことなんだよね。
そう。
多くの犠牲と、とんでもねえ展開で、やっと一息つける状況になったわけだが、実は俺には、たぶんまだやり残したことがあった。
もちろん、サスケとの決着は俺の前半生の一大イベントで、それが終わったってことは、俺の第一の青春が終わったってことで、やり残したことなど、一片もない、と、少年漫画的に終わりたいところだが、俺の内側の炎は、実はまだくすぶっていた。
つまり、会議だ。
それも、妄想を主体とした、変態会議。
その変態会議に、決着がついてねえ。
決着とはなにか、と言われても即答できないが、でも、当時の俺がサスケとの対決のその後を具体的にイメージできてなかった結果、この中途半端感がある、という説明は成り立つ。
時間がこんなに容赦ないなんて、俺はわかっているようでわかってなかった。
俺がこうして、ズキズキする右の幻肢を持てあまし、すっきりしないモヤモヤを抱え込んでいるのに、時は冷酷に、そう、きっちり一秒ずつ俺の余生を刻みやがる。
それは、他の二人も同じだったらしい。
俺は、すべてが変わってしまう前に、ケリをつけたかった。
サスケは、多分、たった今、変わってしまった自分に気づいたはずだ。そして、奴も、自分の第一の青春に別れを告げるときだと、再確認したに違いない。
サクラちゃんは・・・・・あれ、サクラちゃんはどうなんだろう?
「もう、時間が無いのよ。本当に時間ってのは残酷よね」
お!俺と同じところで悩んでいるんだね!!
「締め切りがすぐなのよ!!」
・・・は?締め切り・・・?
「ろくな準備も無い癖に、イベントに参加するっていうから!!」
え?えええ?
戸惑う俺とサスケを思いっきりにらみつけると、サクラちゃんは言った。
「もう、タイトルだけは決まってるの。『妄想崩壊』よ」
ああ・・・妄想本ね。
はあ・・・さすがだね、サクラちゃん。
もう、ロマンもへったくれもない。あるのは現実のみ!!
また、警戒心のない里の人たちに売りつける気らしい。
「さすがだな、サクラ。そういうしっかりしたところがいい」
・・・・・サスケ。
一瞬で、脳みそがサクラ色の春になったな、ホントに。
いや、それはさておき、「崩壊」か。
「妄想崩壊、ということは、あれかな、もう、妄想自体を崩壊させようって勢い?」
俺が無理に笑顔を作って言が、声が盛大に震えていた。
だって、凄く寒いんだ、ここ・・・・
「いや、違うな。やっぱり現実がすべて、というオチだろ?妄想と現実をぶつければ、崩壊するのは妄想のほうだ。うん、最後の会議にふさわしいな」
サスケ、カッコイイこと言ったぞ!鼻水が盛大に垂れてるがな。
あ、舐めた・・・・・・サスケ・・・・
「どっちも違うわ」
「「え?」」
きっぱり否定しておきながら、その憂いを帯びた顔・・・・
ホント、女の子は複雑で優雅で、俺らの一歩も二歩も先を行くよ・・・
「いや、逆にある意味、どっちも合ってるかもしれない」
「ど、どういう意味だってば?」
サクラちゃん、以下、静かにノンストップ・・・・
『最後、なのよ。いよいよ、本当に、最後なのよ。原作という表舞台がどうあれ、会議の私たちにも、どこかにいらっしゃる物好きな読者の皆様方にも、青春の時間が流れていたことは間違いないわ。もちろん、このまま、なにもしないまま、次の人生の時間に足を踏み入れる事もできる。でも、それが到底できないって事は、全員、ここに集まったことで証明された。全員が同じ気持ちで、最後の会議に臨んでいるということよね。そう!無理なのよ。このまま終わるなんて!!!思えば、カカシ先生の何とも言えない魅力の前に、私たちは妄想を繰り広げることで抗って来たわけだけど、ここで、どうかしら、自分の時間を振り返ったら?カカシ先生を単なる妄想の対象にしてきたように見える私たちだけど、本当はソコに、もの凄く大事な事があるんじゃないかしら?』
「ちょっと・・・ちょっと待って、サクラちゃん」
俺は息継ぎするためにサクラちゃんを止める。っていうか、若干、失礼があったってばよ・・・
「なによ、ナルト」
「俺たちが心の底まで一致団結してるって部分は俺もOKだ。でも、振り返るって・・・なに?」
「そうだな、サクラ。カカシを愛でることと、自分を振り返ることと、どう繋がるんだ?」
愛でるって、サスケ・・・・・・まあ、いいや。
『私たちはずっと七班で、これからも七班よね。それはそのまま、カカシ先生との時間も含んでいる、いや、そのものよ。それで、ここで、思い出してみようと思うの。カカシ先生との時間を。まだ若すぎた私たちは、それこそ飢えた狼みたいにがっついて先生を○○したわ・・・・・』
○○って・・・・・サクラちゃん・・・
五十音の五番と六番が連続して入るやつかな?
『若すぎる人間にとって、時間は目の前にしか展開しないものだった。だから、それは仕方ないことだったと思う。でも、次の時間に進むべき今、原点に帰ろうじゃないの。孤独のグルメも、余計な小芝居が減って、また以前の素朴なおもしろさに戻ったわ。大事な事なのよ。そして東京のB級グルメがやっぱり鉄板よ』
孤独の・・なに?・・・・
俺はソコに引っかかったが、サスケは優秀な聴衆だ。そんな修飾部分はスルーし、きちんと本質を突いた疑問を口にする。
「げ・・原点とは?」
サスケが乾いた声で言った。その声はちょっとばかりびびっていたが、それは仕方がない。もしかしたら、そんなこともわかんないの!と怒られる可能性がある質問だからだ。
でも、今日のサクラちゃんは優しかった。まるで、時間に追われて書きながら自分の執筆方針を確かめる同人作家みたいに、懇切丁寧に説明してくれる・・・・
『先生との時間を思い出してみて。どうして、私たちは先生が好きになったのかしら?どうして私たちは、先生にエッチなことをしたくなるのかしら?・・・・絶対、答えはあるはずよ。私たちが先生と過ごした時間の中に。そして、それらは単なるきっかけで終わらない、先生との大事な大事な時間と思い出よね。妄想は互いにぶちまけたけど、そういうふとした心がギュッとなるような出来事、私たちは誰にも話さないで心にしまっているんじゃないかしら?』
「それを、話すのか?」
「そう」
俺は唸った。
それってある意味・・・・大人になりかけの俺らには、エロより恥ずかしいことなんじゃないか?
淡い思い出・・・・だって??
ひえええ・・・・・
「なるほどな。ある意味、過去の思い出や出来事は現実。そしてそれは、やっぱり究極で妄想を凌駕する、ということで、どっちも合っているとも言えるな」
事の重大さに悶絶する俺をよそに、サスケがフツーに納得する。
俺は思い出す。
そうだった、こいつには、カカシ先生に関しては完全に「羞恥」という概念が欠落していたんだった。
カカシ先生のためなら、全米が羞恥しても、お前は平気だもんな。オヤジギャグをJKの前で連発する荒技も、お前ならできる。食堂のおしぼりで脇を拭くのも朝飯前、爪楊枝でシーハーも可能だろう。
でも、大事な事が抜けてるぞ。「妄想限界」でカカシ先生本人も、この会議の参加者になったハズだ。それに、あの変態木遁も仲間のはず。
「ところで、カカシ先生とヤマト隊長はどうするってば?まあ、今回の会議の性質上、俺らだけでいったほうがいい気もするけど」
「そうだな。原点回帰ってことで、オリジナル七班でいいんじゃないか?」
シーハーサスケも同意だ。
「そうね。カカシ先生には、今回は内緒ね。今頃、猛烈に忙しいだろうから。隊長は、頭数には入れなくていいと思う。でも、まあ・・・・結果的にはどうなるかわからないわね」
最初は隊長を排除したが、サクラちゃんは思い出すような目差しで、曖昧に付け足した。
そりゃそうだ。ヤマト隊長の透き通った変態ぶりは、特筆すべきものがある。サスケとはまた違ったベクトルだ。会議にかける情熱も並々ならぬものがある。
「ま、参加したければ勝手に来るだろう」
サスケも言い足す。カカシ先生が多忙なら、たぶん、隊長も同じくらい忙しいハズだけどな。
「ま、来るだろうけど」
そう言った俺のセリフが風に飛ぶ。
「ってか、いい加減、寒いんだってばよ・・・・」
「そうだな・・・」
まだ、一月の下旬だ。極寒といっても過言ではない。
「やっぱり、あいつを呼ぼう」
臆面もなく、鼻水を風に飛ばしながらサスケが言い切る。
すげえ伸びて飛んだぜ。きたねえなあ、もう!
俺もサクラちゃんも顔面蒼白で同意。もちろん四柱家目当てだ。
サクラちゃんが式を飛ばす。
任務以外の式はよろしくないが、まあ、もはやこれは任務だ。
俺たちは、灰色の空を仰いで、隊長を待つ・・・・が、結構すぐに、サクラちゃんだけに呼び出されたと盛大に勘違いした隊長が、喜々としてやってきた。
「やあ、サクラ、ボクに用事って、」
そこまで言ってから、俺とサスケに気づいて、あからさまに態度が急変。
ホント、アンタは自由で、うらやましいよ。
「なんだ、サスケ。君までいたのかい?」
「いたからなんだよ、変態」
う~ん、サスケもいきなりストレートだ。でも、そんなことでひるむ人じゃない。
「ボクが変態なら、君は単なるノーマルだね(笑)」
「なにい!?どういう意味だ!!」
普通は安堵すべきポイントで、サスケは怒る。つまり、言葉の意味より「負け感」に我慢ならないのだ。さっきの「痛み面積」と一緒。自分で言うのも何だけど、男はホントしょーもない・・・
「だって、カカシ先輩のこと、結局その程度ってことだろ?」
「うぐぐぐ・・」
「常識の範囲内でおさまる程度の執着ってことさ」
「ぐぐぐっ・・・」
おいおい・・・妄想なんて、常識の範囲内に収めてくれよ。っていうか、悔しがるサスケがとっても新鮮・・・
「ボクは、変態と言われても全然平気だよ。むしろ嬉しいさ。先輩のためならね。世界中のノーマルを敵にまわしたってボクは最後まで闘うさ!!」
細かいことを気にしなければ、なんだかカッコイイセリフではある・・・・
「てめえ、言わせておけば・・・」
「隊長っ!!!!」
ひっ・・・・サクラちゃん・・・・
凍った空気も割れそうな大声でサクラちゃんが叫んだ。
ヤマト隊長は、サスケの方を見たまま固まっている。
耳元で炸裂したサクラちゃんの声に、一瞬、世界が閉じたようだ。
数秒後、耳鳴りから解放された隊長が、ゆっくり振り返る・・・・
ぶっ!!! [← ナルト吹き出す音]
目は、大きく見開いたままだった。アンタはウサギか!
「・・・な・・・なに・・・サクラ」
「早くしてください!!」
「・・・え?・・なにを?」
「四柱家の術に決まってるでしょっ!!!」
ぶっ!!! [← ナルト吹き出す音]
ま、確かに、寒さも限界に来てるけどね。
しかし、四柱家云々の話は隊長にはまだ話していなかったはずだが、こうはっきり言い切られると、悪いのはグズグズしている隊長の方な気分になるから不思議だ。言ったもん勝ち。
サクラちゃんの一撃に心底怯えた隊長は、さっそく四柱家の術で、超豪華な教室様の建物を建ててくれた。
「アカデミーっぽいな」
サスケが耳に指を入れながら、若干大きめの声で感想を吐く。
お前も、耳、やられてんじゃん。
「それに似せて作ったからね。だって、このメンツじゃ、そういうことだろ?」
「変態にしちゃ、いい勘だな」
「ノーマルに褒められてもね。嬉しくも何ともない」
「うるせえな、俺も、変態だっていってんだろ!!」
おいおい、ついに、変態宣言かい。決してよそ様に聞かせられない会話だな。
でも、サスケ、お前は変態じゃない。全米もびっくりの羞恥レスだ。
隊長が変態の先輩であるかのような余裕の態度で、サスケを上から見る。
「ふん、そんなことはね、
「さ、みんな、早く入って!!」
サクラちゃんのさらなる一喝で、隊長のセリフは吹っ飛び、俺たちは豪華な疑似教室へと入っていった。
◇◇◇
「いつもは、テーマが決まってたと思うんだけど・・・今回は?」
さっそく隊長が第一声だ。
「お前が来る前にそこら辺は済んじまった」
「で?なんなんだい?」
「妄想崩壊だってば・・・」
その瞬間、隊長の顔が生き生きとおぞましく輝いたのを俺は見た。
うわ~~・・・・
マジでこの人、危ないよ。
ってか、本当に、先生のためだけに生きてるんだなあ。
「妄想を、崩壊させれば、いいんだね(喜)」
なに、その五七五の俳句みたいなセリフ!!
が、生き生きと話す隊長にサスケが釘を刺す。ブッスリと。
「フン。わかって言ってんのか?変態め」
「わかってるさ。今までの妄想を崩壊させるほど凄まじいてことだろ?」
ま、ふつーはそうなるよな。しかし、その発想で生き生きしてるってことは、それくらいの妄想があるってことだよね、隊長・・・・・
「ばっか、ちげーよ!!もっと原点だ!」
「あら、何を話しているの?」
と、ここで、四柱家に入ってすぐ、トイレに行っていたサクラちゃんが戻ってきた。
「隊長!!すっごく素敵なお手洗いね!!」
「あ、ああ。女性はそういう類の要求レベルが高いので日々研究してるよ」
それを聞いたサクラちゃんが笑顔のまま、俺に小声で耳打ちした。
「きもっ!!ほんとの変態じゃない・・・」
サクラちゃん・・・・はい、アンタが一等賞!!!
「で?何の話?」
俺が今までの流れを説明する。で、サクラちゃんがまた長々とレクチャーして、と流れて、やっと二回目が終わったところで、サスケが顎をクッと上げる。
「というわけだ、ヤマト。ま、多感な成長期にカカシと過ごした俺らとは違って、貴様にはそういう思い出はないだろうがな」
「はあ?見当違いも甚だしいぞ。ボクこそ、貴重な青春の数ページを先輩と過ごしたと言っても過言ではない」
ひ・・・ここにもいたぞ、羞恥レス!!!青春の数ページだと???
さ、寒いいいいーーー!!!
うわ、サスケ、悔しそうにすんなや!!
あああ、今回も先が思いやられる・・・・・・・
「ま、どういう結果になるかはお楽しみね」
サクラちゃんはニッコリ笑うと、立ち上がってみんなを見回した。
「じゃあ、今日は、私から行こうかしら?」
うん、それがいいってば。まず、モデルがあればやりやすい。
「あったことを話せばいいんだから、簡単よね?じゃ、心して聞いてね」
うん。
でも、ついつい、忘れそうになるけど、これはカカシ先生をエサにしたエロ会議だよね。
いや、もちろん、心して聞くけど!!
さ、いよいよ、最後になりそうな妄想会議。
さっそくスタートと行くってばよ!!!
【続く】