妄想自慢 1


場所は、いつもの・・・・・ってか例の、アカデミーの教室。
時刻は思いっきり放課後。
なんとなく、時間に空きが出来た俺が、懐かしむようにアカデミー内を歩いていたら、同じく、任を終えたサクラちゃんとばったり。
で、懐かしい話で盛り上がろうと、俺たちがかつて学んだ教室に来たというわけだ。
  「久しぶりね、火影候補!!」
俺のことをそう呼ぶくらいに、そう言う意味では、サクラちゃんもこなれてきた。
  「懐かしいわね」
  「この間、ばっちゃんと歩いているのを見たってば」
  「あら、どこで?」
と、まあ、互いの近況報告も兼ねて、楽しくオシャベリしてたわけだ。
当然、今はいないサスケの話題も出る。と、くれば、当然、恐怖の「妄想会議」の話題も、だ。
「妄想会議」かぁ・・・・
ことあるごとに、この話題が出るんだよね~。
ラストは確かに強烈だったけど(俺も勃ったことは認める)、そこに至るまでの産みの苦しみがくてさ~、サクラちゃんのスパルタがメインで、むしろそっちの方が記憶に刻まれてるんだよね。
  「でもあれよね」
あれってなんだってば・・・
  「もうここまで来たら『自慢大会』よね?!!」
なに、その決め付け!!
まあ、時間の経過は、無条件に俺たちを生物学的に成長させるわけで、その結果、あれほどたちを追い詰める議題だった「妄想」が、主婦の井戸端のような「自慢」に、ある意味昇格といのも、わからないではない。でも、「100人切り自慢」とか、「コマシ自慢」ならわかるけど、あくまで基本スタンスは『妄想』なだね、サクラちゃん・・・・・
ただ、現実世界は、思いの外忙しく、自慢できるほど妄想する余裕なかったてばよ。
っていうか、「てば」って入力するたびに「手羽」って誤変換されて直すのが大変。なんだよ、こ辞書・・・・・・・・まあ、いいや。
  「サクラちゃん、でもまさか、また、トラップとかはってあるんじゃ・・?」
導かれたように、『妄想』に帰着した以上、疑うのは定石。
  「なによー、トラップって?」
  「前回の『妄想会議』のラストだよ。マニアックフォーにカカシ先生が含まれるとかいう・・・」
そうなのだ。「妄想会議」では、俺とサスケとサクラちゃんだけの、カカシ先生をエサにしたエロ議だったのに、あろうことか、途中からカカシ先生本人が乱入するという・・・・まあ、サプライズあったわけだ。俺たち的には、サプライズじゃすまなかったけどね。
  「ああ、あれね。でも大丈夫よ、今回は紙媒体だから、変な隠し(トラップ)なんてないから」
確かにそうだが、にやっと笑うサクラちゃんを、信じろという方が無理だってば。
でも、さすがに今回は寂しさを感じるよ。
だって、二人だよ。
あ、違う、違う、サスケがいないからってんじゃなくて、この状況で、二人でいい感じっていうより、あくまで、「妄想」というファンタジーに固執するサクラちゃんっていうところに、ってことだけど。まあ、一本筋が通ったものを感じるけどね。
  「でもさ、妄想に負けるリアルな俺っていう、究極に情けない事態だってば」
  「はぁ?馬鹿じゃないの、ナルト」
おっと・・・・・来たよ。
これだよ。
これが、サクラクオリティ・・・・
  「リアルが妄想に勝てるわけ、ないじゃない」
  「そ・・・そうか・・・だな」
  「アンタ、男でしょ。チラリズム、わかってんでしょ?」
君は女だけど熟知しているね・・・・・・・俺はそう思いながら頷く。
  「今まで何やってたのよ、成長してないじゃない」
何って・・・・忍術の修行だよっ!!
・・・・でも、口応えなど、一生無理。
  「ま、精進するってば」
無難な返事だ。別な意味で成長したな、俺・・・・
しかし、二人じゃ、展開も一方的になるってば。修行三昧の俺なんかに、ほとんどネタはないしな。と思ったら・・・・
  「よう」
と、窓から覗く馬鹿がいた。
  「!!!!」
里抜けして、重要マーク付のサスケがあっさりと目の前にいる。
瞬間的に、俺は多重影分身化して、螺旋丸にチャクラを込めた。
  「てめえ!!サスケっ!!!!」
俺の怒りも無理もないだろう。
俺たちが、何のために今までやってきたと思ってるんだ!!
お前のために苦労し、お前のために修行してんだぞ!!
それを、それを・・・・何が「よう」だ、このっ・・
  「なにしやがる、ウスラトンカチ」
しかし、サスケは冷静そう言うと、手の先からバチッ!!!と火花を散らした。

  「ちょっと、アンタたちっっ!!」

!!!うへぇ・・・迫力だ。
サスケも、思わず、唇をひくつかせてサクラを見る。
シーンとした、その一瞬に、「ぺち」と、雷切が微かな音を立てたのには、笑えた。
  「くだらない事にチャクラを使うんじゃないよ!!」
  「くだらないって、サクラちゃん、これは」
  「何のためにここに集ってんのよっ!!!」
は・・・また、始まった・・・
いつの間にか、すべてが枠にハメラレテしまう、サクラマジック。
  「え?俺はただ、時間が余って・・・」
  「はーっ、情けない。この偶然に何も感じないの?」
  「あ・・・・いや・・・・・」
  「ロマンのない男ね、ナルト」
くーーーーっ、クソミソ。
あれ・・・・・でも、なぜか、これが心地よかったりする。
俺も、サスケのこと、言えないよな。これがMってやつ?・・・まさかな?
  「でも、サスケはなんでここにいるんだよ?!!」
サスケは窓から、ひょいっと教室に入ると、俺を見る。
  「俺は影分身だ」
  「な・・・」
  「こんな大事な、俺たちのルーツとも言える会議を、俺が逃すとでも思ったか?」
は?ルーツ??
  「でも、どうしてわかったてば?」
  「俺だって馬鹿じゃない。お前たちの動向は常にマークしている。不穏なチャクラを感じたのでな。至急、駆けつけた」
じゃあ、こんな時に出てこねぇで、先生が暁と苦戦してるときに出て来いや!!!
どうでもいいけど、すっげー馬鹿だな、サスケ。
底抜けだよ、お前・・・・・
  「さすがはサスケくん!!!」
へ?サクラちゃん・・・・・・・いいの?いいの?この展開!?
サスケは俺をチラっと見て、勝ち誇ったように、笑った。
そして、俺の耳に囁いた。
  「ナルト、くだらない事こそ、全力だ」
・・・・・・う~ん・・・さすがだってば。
やらなきゃいけない事ってのは、誰もが一生懸命やる。だからこそ、どうでもいいような事がポントになるんだ。モテル奴ってのは、やっぱりどっか違う。
  「努力だよ、何事もな」
はあ・・・・差を思いっきり見せつけられて、今夜の会議も始まるってばよ。
さ、読者の皆様、準備はいいですか?



  「うう・・ん、今回は、自慢・・・なんだな?」
さすがのサスケも、ちょっと戸惑っている。
なにも知らない状態だったら、あるいは、恐れもなく参戦していただろうが、何より俺たちは、前の『妄想会議』でサクラちゃんに徹底的に惨敗している経緯がある。
サクラちゃんの何に負けたのか、はっきりしないが・・・・・
ま、きっと、常識の殻を破れない、ノーマルな自分自身に負けたんだろう。
こう改めて書けば、負けて良かったような気がするのは・・・・・・何だろうな。
  「なるほど、妄想のなんたるかのレクチャーは、前回で終わったと」
  「もちろん、そうでしょ?」
  「え?・・・・・ああ・・そ、そうだな」
そこでよ、とサクラちゃんが生き生きと喋る。ああ、中身はともかくとして、やっぱりかわいいし、もう、今は、とても綺麗だよ。名前の通りサクラ色の唇が、俺の♂を刺激する。
あ~あ、こんな会議じゃなきゃ、俺だって、もっとカッコイイトコロ、見せられるのになぁ・・・・
  「ナルト?」
  「・・・・え?あ、はいっ!!」
  「聞いてるの?」
  「き、聞いてます、きてます!!」
サスケが噴き出す。
  「きてます、だって(笑)」
  「うっせーぞ、『ぺち』」
途端に、また空気が淀む。サスケの殺意で、戸外の木がざわついた。が、それを上回るチャクが、すぐに教室の空気を圧迫する。
  「二人とも」
  「「・・・・・・(汗)」」
  「またやったら、今度は容赦しないわよ?」
ああ、たぶん、もう永遠に俺たちは仲良しだ、なぁ、サスケ。
  「ところで、テーマは、何にする?」
  「カカシでいいだろう」
サスケ、即答。
  「「・・・・・・・」」
・・・・・・・・・・・・・・
お前、ホントに、カカシ先生のこと、好きだな。
もう、別な感情に昇華しちまってんじゃないだろうな?
  「愛してるんだ」
あ~、言っちまったよ。
  「サスケくん、ほんと一途よね~」
  「熱いってば」
  「じゃあ、カカシ先生でいくけど・・・・・いい?ナルト」
  「ま、俺も好きだし、異論はないよ」
『サクラちゃんで』なんて、とても言えないしね。言ったら、本当の即死を体験できるよ、きっと。
  「でも、自らテーマを決めちゃうくらいだから、自信あり、ってところかしら?」
  「う・・・いや、カカシでは、もう脳みそが爛(ただ)れるほど妄想したけど・・・・」
うっ・・・聞いてて恥ずかしい・・・・
  「でも、もう、愛してるから、綺麗にまとめちゃうんだよね」
お前、どっかの同人作家か?まあ、いいけどさ。
  「でも、サクラちゃん、そういうのってダメだって言ってたよね?」
と、ここで俺が疑問を呈する。『妄想会議』で、まくし立てられた過去があるのだ。
未読の皆様のために抜粋しておこう。

(以下サクラまくし立てる)
そりゃ、恋愛自体、妄想パラダイスよ。必要条件でもあるわ。でもね、そんな甘い妄想、いまどきお子ちゃまだって日常茶飯事なのよ!!私たちの一体感はエロでしょう??大人のエロスなのよ!!妄想の中でしか出来ないことがあるでしょう!!思いっきりカカシ先生を泣かして、イヤって言うのを無理に開かせなきゃだめじゃないの!!恋愛して、優しく愛し合ったら、楽しいのサスケくんだけじゃない!!              
                    以上『妄想会議』[4]より、抜粋
  「ああ、そうね、確かに言ったわ」
サクラちゃんが頷く。
  「じゃあ・・・」
サスケも心配そうにサクラちゃんを見る。
  「でも、今回は、違うわ」
  「「え?」」
  「今夜のこの集いのテーマは何だったかしら?」
つ・・・つどい・・・・・
  「「妄想・・・・自慢・・・・・?」」
  「そうよ。自慢なの」

(以下サクラまくし立てる)
いつまでも同じトコに意識があるって、どういう事かしら?以前の私たちは、妄想それ自体を理解する必要があったわ。でも、そんな時期はとっくに過ぎたって確認したじゃない?次なのよ!次!!いい?時間は常に流れている、だから、いくらクオリティが高くても、そこに立ち止まっている限り、周りには後退しているようにすら見えるのよ!!そんなの、このすばらしい7班にあっちゃいけないわ!!!

・・・・・・・・・・・・
ごめん、サクラちゃん・・・・。
やっぱり、俺、なんとなく、もうついていけねぇってば。
誰が、俺たちの妄想を、「後退してるよ」とか言うわけ?
妄想のクオリティ・・・・ってどういう基準なんだってば・・・・
もうダメだってば・・・俺・・・・・
と、俺の背に、サスケの手がそっと置かれた。
俺はびっくりしてサスケを見たが、サスケはサクラちゃんを見つめたまま言う。
  「わかったよ、サクラ、つまり・・・」
サクラちゃんが厳しい目でサスケを見返す。
ひいい・・・・・お・・俺だったらびびるって・・・
でも、サスケの手のひらが温かい・・・・
  「俺たちは、もう自身の熟成した妄想を披露するだけでいいんだよな」
サクラちゃんの顔が明るくなる。
ホッ・・・・正解だったようだな、サスケ。
  「今までのように、協力して一つの妄想を作り上げる必要はない。自分の妄想で、相手の世界観を圧倒し、自らの作り上げた世界に誘(いざな)う」
  「凄いわ・・・その通りよ」
  「そして、そのテクの習熟として、『妄想会議』があったわけだ」
サクラちゃんがにっこり笑う。
サスケが俺を見て、黙って頷いた。
きえ~~かっこいいな、サスケ!! 俺の窮地を救ってくれたんだな!!
サクラちゃんが、これから長丁場だから(な、長丁場!!ぞ~~っ・・)といって、飲み物を買い行った。俺が行くって言ったけど、
  「トイレにも行きたいの。気が利かないわね」
と言われてしまいました。テヘッ!!
俺はサスケを振り返る。
  「サスケ、助けてくれたんだな、わりぃ」
  「いや、お前のためじゃない。俺自身のためだよ」
  「?」
サスケはサクラちゃんが去った暗い廊下を見た。
  「前回から俺たちがどれだけ妄想的に成長できたと思う?」
  「いや・・・・全く・・・だ」
  「だろう?でも、お前はいいよ、ずっとカカシと一緒だもんな。俺なんか、いくら復讐のためはいえ、大蛇丸だぜ・・・・・・」
自業自得だろう。それに大蛇丸なんて、ある意味、最強だろう・・・・・俺は絶対イヤだけどな。
  「ま、いいや。とにかくだ。サクラ相手に、妄想で俺たちが勝てるわけねぇ。協力できるとこはしていかないとな」
  「共同戦線か」
  「ま、そんなにたいしたもんじゃないけどな」
サスケ~~・・・・・おまえ、そんなにいい男だったのか?
おれもちょっと惚れそうだぜ。・・・・・嘘だけど。
戻ってきたサクラちゃんが俺たちに缶コーヒーを渡しながら言った。
  「さあ、サスケくん、もちろんトップバッターでいいわよね?」
  「ああ。もちろんだ」
サスケは俺を見て、頷く。
  「俺の、カカシに対する愛は、もう、半端ね~からな」
え?トータル・テンボス?
  「楽しみだわ」
サクラちゃんの言葉を受けて、サスケが目を閉じる。
そんなトコは、変わってないってば。
自己陶酔サスケ・・・・・・。
  「あれは、俺が里抜けしようと心に決めたときだった・・・・・」
サスケが、その妄想を語り始めた・・・・・・