04 無理矢理「感動させる」 [ガイカカ]




どうしてなのかはわからないが、なぜか俺が抱く方だ。
いや、あのね、普通に見てあたりまえだろ、とかそういう話じゃなく、だ。

でも、ま。
考えても、わかりようのないことなんだろうな。
それは、なにか普遍的なことなんじゃなくて、時間を共にする相手との一種化学反応で、
いつもあいつが抱かれる属性でないことは、俺はもちろん知っている。
だから、俺といるときは、そうだ、というだけの事なんだよな。

  「おまえさあ」

俺の声に、あいつが反応してこちらに顔を向けた。俺の小さな声は、でも、あいつには大きく聞こえるらしい。

  「こんなに近いのに、うるさいよ」

そう言って、また前を向いた。
何故か、俺とあいつの会話は、戦闘中が多い。
そのことに気づいて、瞬間的に思い巡らしたが、里にいる穏やかな時間を一緒に過ごした記憶はやっぱりなかった。
里にいるとき寝たことはもちろんあるが、それは殺伐とした出来事の前後だったりして。

  「ちゃんとチンポ使ってんの?」

カカシは振り返らない。前を見つめたまま、

  「俺たち、今、勤務中だと思うんだよね」

と言って、肩の筋肉をゴリッと鳴らした。
仕事はもっと暗くなってからだし、かといって日が落ちてから入り込める場所でもない。
結果、こうして早くに侵入し、日の高い今は、ひたすら時間をつぶすしかなく、俺のセリフも妥当だと思ったんだが。

  「任務で集中力を発揮するために、今は緩んだ方がいいんだよ」

  「使ってるよ」

ほんと、カカシらしい。
俺の会話を無視して、そう応えた。相変わらず、前を向いたまま。

  「へえ。どんなふうに?」

  「立ちションとか?」

  「性的な意味でお願いしまーーす!」

バカな会話ってことじゃ、俺だって負けてないよ。

  「あ、ごめんねえ。俺、性欲無いからわかんないや」

  「さすがだねえ。お前が俺とやってることは、『性的行為』にすら入らないんだな」

  「うん。あれは食欲だからな」

  「すげえ・・・・」

俺は素直にそう言って笑う。押し殺した笑い声が、俺の腹筋を震わせた。
と、カカシが不意にこちらを振り向いて、その手を俺の頬に伸ばす。

  「もう、やめてくれない?」

  「・・・・そう、か」

カカシの指が、俺の唇をゆっくりなぞる。微妙な感触がピリピリと俺を刺激した。

  「こんなところで、ちょっとでも職場放棄だなんて、さ」

  「・・・・・」

  「5代目を裏切りたくないよ」

  「悪い」

真面目だなあ、ホント。
空気ごと時間の流れを切り離すように、カカシが元の姿勢に戻る。
でも、俺の悪ふざけに、反応してしまったらしいカカシは十二分に可愛かった。

  「悪かった、カカシ。でも、これだけは聞いて」

  「なに?」

前を見るカカシの頬のラインを視線でなぞりながら、俺は懇願するように言葉を繋いだ。

  「明日だけは、俺に時間をくれ」

カカシが何か考えるように視線を巡らせたのがわかる。

  「明日?いいけど・・・・」

  「よかった」

カカシが再びこちらを見る。
何かを考えている隙のある表情は、最高だった。
ああ、その目も、鼻も、唇も、きれいな髪の毛も、全部俺のモノだったらいいのに。
いや、多分、お前は俺のもんだって言うだろうけど、お前を造って殺す神様からは奪えないよね。
そこまで、そんなくだらないラインまで、俺は完全にお前が欲しいんだ・・・・・

  「明日って・・・夏至・・・だよな?」

  「ああ」

  「夏至?・・・って?」

  「そう。一番、日の光に祝福された日に、ずっとお前を見ていたい」

  「・・・・・・」

  「日が出て・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・沈むまで」

もう、くだらないことはどうでもいい。
二人の間に起こる自然な化学反応を、ひたすら味わうだけ。
俺が欲しいなら、お前がストップをかけるまで、捧げるよ。
ああ、俺ってホントにキザだよなあ~~ははは!!

と、
俺の頭は思いっきりカカシに引き寄せられて、その腕に締め付けられた。
グッと喉から空気が変に漏れて、でも、慌てて吸った鼻腔からの空気は、匂いを消していたはずのカカシの愛しい匂いに満ちていた。

  「カ、カカシ・・・」

俺のつぶやくような呼びかけに、カカシはやっぱり応えなくて、俺の頭部を抱きしめたまま、

  「ごめんなさい、綱手様」

と言った。
どこまでも真面目なお前と、どこまでもキザでお前が大好きな俺。

  「ばか、ガイ」

その力は、俺が相手だからか容赦なく、でも、その強さと想いの強さをイコールに考えるだけの余裕はあった。

  「キザに感動しちゃった?」

  「うるさい」

  「お似合いだね、俺たち」

  「うん」

不意に素直な返事は、俺の心臓を跳躍させ、カカシは俺の髪に長いキスをする。
どうしようもなく湧き上がる甘ったるい何かに、俺もそっとつぶやいた。

  「すみません、火影様」

夏至直前の充分に長い昼の光は、見上げるカカシの銀髪を柔らかく輝かせ、
どんな状況ででも、幸せになれる人間の強さを自分の中に感じていた。

 

2012/07/08

夏至はもう過ぎましたが、私の一番好きな日なんです。
今は、刻一刻短くなっていく「日」を慈しむ日々です。