鳴門の案山子総受文章サイト
「お前さあ~・・・」
カカシの呆れた声が俺をギリギリと痛めつける。
まだ薄暗い森の中で、俺は朝から説教だ。
つまり。
アレが幻術?
へええ~、アレが幻術・・・
あ、そう。
アレが、幻術なんだってさ!!
その人間の心の底の欲望を増幅するとかいう、アホで、どんな利用価値があるんだという幻術だ。
「なんだよ、そんな意味ねえ幻術!!」
悔し紛れに怒鳴るが、カカシは落ち着いたモンだ。
膝丈の石に腰掛け、俺を見下ろしている。
「はあ?意味あるだろ?少なくともお前はその間、俺の手裏剣の的だったね」
「うっ・・・」
確かに。
草のそよぐ音だと思っていたが、アレが幻術の入り口。
それ以外にも、今思えば、覚醒のチャンスはたくさんあった。
カカシはまたまた心底呆れた声を出す。
「っていうかさ~~」
語尾を延ばすなっ!!
「俺がお前を誘うわけないでしょ!」
ううむ、確かに。
「その前に、俺がガキの前でマスなんかかくかよ」
・・そうだ。
ああ、ああ、その通りだよ。
カカシの言い分は、常識的で、当たり前で、俺に一分の理もない。
でもなあ、相手がアンタじゃなきゃ、俺だってすぐに気づくよ。
・・・・ん?
それって、どういう・・・
「なあ、サスケ。俺っていう人間をちゃんと観察してないからだぞ」
「はあ・・・」
あんなに観察してたのになあ~・・・
アンタの事は、もう、全然わかんない。
振り出しに戻っちまったな。
「お前は、人間分析が甘いね。まだまだ及第点はやれない」
くっそーー・・・・
「そういうトコ、敵に突かれるんだよ」
ていうかさ、アンタだって変だろ!!
だって・・・
「カカシ」
「ん?」
「どうして止めなかった?」
「あ?」
「俺に・・・あ、あ、あんなこと、されたんだぞ」
「そうね、お前ってば、すっごくエッチだよね」
グッ・・・否定できない・・・でも、でも、
「止めればいいだろ!!」
「まあね」
言いながら、カカシは立ち上がって、白み始めた森のむこうを見る。
「止めないよ」
「はあ?」
「止めるわけ無いだろ」
「どういう事だよ?!」
俺も立ち上がり、カカシを見上げる。
でも、カカシは応えない。
「わかんねえよ。はっきり言え!」
俺はカカシの前に回り込み、その高い位置の胸ぐらを掴んだ。
カカシは顔色一つ変えない。
ただ、はあ、と嘆息するとこう言った。
「サスケ、お前ってほんっとーにバカだな」
「はあ?」
俺が怒りにまかせて、カカシを突き放す。
が、それより先にカカシに両手を掴まれた。
「そんなコトしたら」
「は?」
「またしたくなるって言ったよね?」
え?
ええええ???
「か、カカシ・・・」
カカシはいきなり、さっきまでの色っぽいカカシになって、俺を見る。
あ、あ、・・・・え?
「どうすんだよ、俺を本気にさせて」
あ、あ、え?
俺は両手首を掴まれたまま、唖然とカカシを見上げた。
カカシが俺に顔を近づけてくる・・・・
あ、キス・・・?
・・・・と、いきなりカカシは俺の手を放すと、
「な?お前、もう、幻術使わなくてもコレだもん」
・・・・はい?
「もう、帰ろうよ。修行は終わりっ!!」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
うわあああ・・・・・・
◇
とまあ、俺の情けないカカシ観察はこれで終わりだ。
賢いつもりでも、逆にそこを利用されて、バカスパイラルに陥ってしまう。
ああ、マジで情けない。
ただ、色々な術を習得する過程で気づいたことはある。
幻術の特性だ。
今思い返せば、カカシは本当に悪い大人だったってこと。
俺の幻術の流れを止めなかったのは、カカシも同意だったし、快感も共有していたんだ。
悪いと断罪するのか、そこに感情があったのか・・・いや、大人だから罪だよね。
そして、これがカカシじゃなかったら、やっぱりこうはならなかったという俺の確信がある。
カカシに対する「不可解」は、俺がカカシを理解したい、つまり、カカシの事が好きだということの現れだったんだなあ。
この期に及んでも、まだカカシの感情にこだわるなんてね・・・
俺は、今でも、時々、あの幻術の中のカカシを思い出す。
幻術のイメージを共有していたのだ、という事実と共に。
やっぱり、俺は、カカシを可愛がったんだ。
確かに、俺は、カカシを抱いた。
・・・・・
でも、あんな流れで、あれが敵の術中だったら本当に致命的だし、修行としてはマジに苦くて有り難いものだった・・・・
と、最後は、綺麗にまとめておこう。
ま、そこは俺のプライドだ。