風が強い日




ちょっと風が強い。
太陽は十分すぎるほど暖かいのに、木の葉から漏れ落ちる光は強い風のせいでコロコロとカカシの上で遊ぶ。
腰掛けてみて、テンゾウがベンチを直してくれていたことを思い出す。
  「安心して横になれるな」
喜々としてカカシはそこに横になった。
大きな葉が茂っていて、それでも強烈な光は、その葉を淡いグリーンに透かす。

そういえばテンゾウも寝ていたな・・・

テンゾウがしていたように、キラキラする緑に向かって手を伸ばした。
身体が自然に伸びて、心地いい。
そして、テンゾウの言葉を思い出す。
  「俺が・・・」
なじんでる・・・・って。
そのときのシーンを思い出そうとして、ちょっと、目をつぶる。


明るい闇の中で、耳は、風が木々を揺らす音を聞いた。
ザーッと遠くで葉が鳴っている。


  「里の空気になじむ俺」
あえてそういってみたが、暖かな空気の感触に、今にも寝てしまいそうだった。
自分を取り巻くすべてが心地いい。
なじんでるって言われても、今の俺なら仕方ない・・・・・





  「あ、起こしてしまいました?」

不意に頭上で声がした。
はっと、飛び起きる。
気配が全く感じられなかった。
失敗したかもしれない状況に、カカシの心臓がドクンと拍動する。
  「寝ぼけてる(笑)」
喉に当てられた18禁本を、カカシの手ごと捕まえて、テンゾウが笑った。
  「バカ。俺ならこの本で、お前の喉、つぶせるよ」
  「最強なのは寝ぼけた先輩ですね」
本をカカシの手から取り上げて、テンゾウもベンチに座る。
遠くの風の音の中に、ベンチがきしむ澄んだ音が混じった。
  「ナルトたちにも注意しなくちゃ。危ないから、寝起きの先輩には近寄るなって」
  「お前なあ・・・」
テンゾウはパラパラと、カカシの本を捲(めく)った。
  「18禁といいながら、純愛ものだって聞きましたが?」
  「・・・・・」
カカシは応えない。
  「ずっとシリーズ、読んでるんでしょう?」
テンゾウはカカシを見て、返事を促した。


また、さっきまでの空気が戻ってくる。
穏やかで、暖かい。
強い風が雲を飛ばし、白く反射する道の上を、雲の影が走っていく。
カカシの目がそれを追った。


  「・・・俺に言わせんなよ」
ちょっと声に不機嫌を混ぜて言う。
テンゾウが黙ってカカシを見返すと、
  「純愛・・・とかそんな単語」
と、ふてくされたように言った。
テンゾウが目を丸くする。

・・・俺のセリフ、おかしかったかな?

カカシが言い訳しようと口を開いたとき、わずかにテンゾウが早かった。
  「先輩らしい」
  「え?」
  「安心しました」
  「は?」
テンゾウがいきなり立ち上がり、思わずそれを追った手に、テンゾウが本を押し込む。
何か言おうとして、でもカカシは、こちらを見ながら別のことを考えているようなテンゾウの様子にのまれて、なにも言えなかった。
強い風はカカシの髪を乱し、テンゾウは目を細めてこちらを見おろす。
  「ボクも買って読んでみます」
そう言うと、テンゾウは強い風を気にしながら、左の方に歩き去った。


大きく緑が揺れる。


  「お前、嫌いだ」
小さくなる背にそう言って、カカシはベンチに身体をもたれさせる。
太陽の位置だけ違っているが、穏やかな陽気は、ここに横になった時のままだ。
こんな日があってもいいだろう。
カカシは、またベンチに横になった。
いろんなことを抱えて悩んでいるテンゾウ。
彼の傍にいると、自分が老獪に思えてくる。

  「お前、嫌いだ」

テンゾウの笑顔を浮かべて、もう一度言った。



2008.04.23.