黄色


いつもハッとさせられる。

通り過ぎかけた足を止め、サイは自分の巡らす首の速度を、なぜか意識しながら、目をそれに向けた。
冬至を目の前にした短い日中にあって、銀杏はそれ自体が発光しているかのような、眩しい色になっている。
背景の暗く沈んだ灰色の中に、時折、雲間から射す陽光を集めて、場違いなほど鮮やかだ。

数歩進んで、民家の板張りの塀に背をもたせかけた。
  「あ、」
あったかい。
確かにそこにも日の光はあたっていて、灰色の舞台の上で、銀杏と自分が対極のスポットにいるかのようだった。
視線が対角線の様に二つを結び、その安定した構図に気持ちがどっぷり浸かっていく。
・・・・と、
  「さすが、芸術家だね」
不意に横から声をかけられ、ドクンと跳ね上がる自身の心臓に、ちょっといらつく。
目を向けると、そこには、暖かな銀杏の色とは違う髪の色をしたカカシが立っていた。
  「芸術家?」
  「そう」
  「・・・って?」
て?って、と笑いながら、
  「塀に寄りかかるポーズと、背景を含めた構図がイイ感じ」
と言って、その目はサイの背後の民家の佇まいを見て、銀杏の事は言わなかった。
風が緩く流れて厚い雲が動き、同時にカカシから、微かに任務の匂いがする。

血と・・・・・

  「任務帰りですか?」

血の臭気と・・・・

  「・・・わかるんだ」

入念に跡を消したつもりだったのだろうか、ちょっと驚いたようにカカシが言う。

  「わかります」

そりゃあ、あなたの事が好きだから。
どんな些細なことも、僕には些細じゃない。
だから。

  「カカシさん」

  「ん?」

先に僕に会っていたら・・・・・
そう、本当に言いかけて、でも、諦めるのは簡単だった。
ふっと銀杏に視線を流し、その鮮やかな黄色で視界を染める。

  「血以外の匂いもしてますけど」

え?という表情の後に、ははは、と笑って、

  「そういうこと言うんだね、君も」

と、サイを初めて見る人のように見返している。
ちょっと風が強く吹いて、カカシの髪が綺麗に乱れた。

  「相手までわかるの?」

ちょっとだけ心配そうにそんなことを言うカカシは、憎らしくて、可愛くて、今度はサイが笑う。

  「さすがにそこまでは」

匂いからじゃわからない。
が、僕は、あなたが誰と付き合っているかは知っている。

  「先に僕に会ってよかったですね。早く帰ったほうがいいですよ」

悔し紛れに言った願望も、初冬の乾燥した空気に、滲むように溶ける。
が、そこで終わる会話だったのに、意外にカカシは、サイに肩をぶつけてきた。

  「いいよ、今更。それより、なにか食べに行かない?おごるし」

壁から背を離して、歩き出そうとしていたサイは、マジマジと、カカシを見る。
全部、全部、負けているのに、今、カカシと時間を共有しているのは自分。
負けどころか、勝負にもなってないのに、こんな状況で顔がにやつく。

  「いいですよ。おごりならね」

  「もちろんだよ、俺が誘ったんだからね」

自然に並んで歩き出して、最後にちょっと目の端に入れた銀杏は、くすんだ背景に溶け込んで。
光がなければ、黄色くはなかった。



2012/11/18    カカシのお相手は適当に・・・・