淡黄色の。



コントラストを思い出していた。

いつか見た銀杏のそれは、灰色の中で、「生」なんかでは説明できないくらいの強い発光で。
生きているってなんて遠慮がないんだろうな、とつい思い、そのくだらない発想に、心だけで苦笑する。

その苦笑を感じたように、いや、明らかにそれと知って、カカシはサイを見た。
背後を振り返って。
乱れた数束の銀髪越しに視線を寄越して、今まで何事かを発声していた薄い色をした唇を僅かに開いている。
  「呆れてる・・・・のかな?」
ああ、なんて色なんだ。
あの、毒々しい光とは全く異質の柔らかい象牙色。
変色した傷痕すら、時間を経た崇高な宗教的装飾のようで、感嘆の「ああ」を音にして発してしまったことに、あとからゆっくり気づく。
でも、言い訳すら面倒くさくて、それは視覚に多くの神経が使われているということと、綺麗な人の可哀想な反応が見たいせいだと、本当はわかっていた。
  「嘘だ」
しかし、あっさりカカシは看破すると、その暖い発色の背中を起こす。
身体をこちらに向けて、
ベッドの上に胡座をかいて、
右腕をシーツの上に突っ張り、
左手をゆっくりこちらに伸ばしてくる、その一連の動きが、壊れてロールを止められないフィルムのように圧倒的で、サイは閉じられない目をそのままに、視神経だけ遮断したいように感じている。
  「うそ・・・って?」
  「考えてれば、呆れもするだろうけどさ」
  「・・・・」
  「何も考えてない顔だ(笑)」
そう見えるんだ。こんなに考えているのに。
でも、確かに、カカシに関する多くの情報のせいで、思考停止になっているのかもしれない。
  「考えていますよ、失礼だな」
  「そうなんだ」
そう言って、今までサイが見たことがないような笑みを浮かべる。
その笑みは、正確にサイの心臓に突き刺さり、はっきりと痛かった。

観念する。

この人の身体の全てを見たことより、
この人が、自分の動きに喘ぐ様を見たことより、
この人が、自身の声に羞恥して、それを抑える様より、
こんな素朴な、フッと漏れ出したような笑顔の方が、
僕に強烈な衝撃を与えるんだ・・・

好きという感情を、こんなに持て余すなんて思いもしなかった。
素直なこの人は、もちろん相手が好きじゃないとこんなことはしないとわかっていて、でも、互いにそれを確かめ合ってすら、どうしてこんなに切ないのか、本当にわからなかった。
  「つまらない?」
  「・・え?」
  「俺といると、いつもなんかうわの空だよね」
否定すればすむフレーズ。今のところは。
でも、それに、別な未来を感じている自分をまで、否定はできなかった。

こんなに好きなのに。
こんなに好きなのに。
こんなに好きなのに。

  「あなたに、」
  「ん?」
  「思い通りにいかないことなんてあるの?」
僕のこの想いみたいに。
年長者が年下を慈しむような目差しをするだろうかと、ちょっと意地悪な期待をしてみるが、カカシの声も表情も、決してそんな表現はしなかった。
同じ空間で、対等に心情を吐露する朗らかな返事。
  「あるよ」
触れてくるカカシの左手の体温が、自分より熱い。
ぐっとそれに力が入って、
  「一つは、君の頭ん中」
  「え?」
笑んだ形のまま薄く開いたカカシの唇が、そのままサイのそれに押し付けられて、慌てて鼻で息を吸う。
  「僕の、う、あっ・・」
何も言わせない勢いで、深いキスが続く。
カカシの右手が下にのび、今度はそっとサイを握った。
  「もう一つは、どうしようもなく君を好きな俺の頭、」
  「‼」
  「と、俺の身体(笑」
ゆっくり火が付く自分の身体と、
やっぱり大人なカカシの包容力と、
手にしているのに切ない激情。
  「ダメ?・・じゃないよね」
伺うように言いながら、カカシの手は煽るように動き、
サイは、切なさと完全にシンクロしてくれない、肉体的な愛おしさを持て余す。
この大人が可愛くて、可愛くて、それだけで勃起したいのに、どこか綻びているような捉えどころのない思いが、肉欲に混じってしまう。
尾骶骨を打つような、電撃のような快感が始まり出すと、もう駄目だった。
自分が楽になりたい、ただそれだけで、
  「あなたと出逢いたくなかったな」
そう言うと、今は組み敷かれたカカシは微塵も動揺せず、笑んだまま
  「そうか」
と言って、さらに笑みの深度を増させた声音で優しく
  「ゴメンね」
と続けた。
楽になるどころか、切なさが身体を突き破りそうになる。
滑らかに入る二度目の交合に、サイはもう、言葉を繋げない。
   「は・・あ・・・」
揺れるカカシの喉から、微かに漏れる純粋な想いの塊を、魂に刻むように記憶する。

でも。

どこか冷静なサイの一部分は、カカシの「ゴメンね」が、過去にあるのか、未来にあるのかをひたすら、考えていた・・



2012/12/15
もう、二次創作をはるかに逸脱。オリジナルですね。暗いし、色っぽくないし。
でも、初めて、悲恋ぽくなった。今までは、基本ハッピーエンドのみだったから。