1 イルカ先生、メガパフェを食す

[chapter:イルカ先生、メガパフェを食す]

なんとなく気にはなっていた。
だって、カカシ先生は、これから火影になるんだし、そんな状況じゃ・・・・

私は目の前にいるイルカ先生を見る。
かつて、私の大好きな、先生と言うよりはお兄ちゃん的な存在の先生。
その先生は、今、でかいパフェを頬張っている。
こちら側にあるイチゴが落ちそうだけど、なぜかタイミング良くスプーンに乗っかって、先生の口に消えていった。
「あと何分だ、サクラ?」
私は壁の時計を見上げる。
「まだ15分残ってますよ」
「そんなにか!こりゃ、楽勝だな」
先生は、大きく口を開けて笑うと、しかし、クリームを口に運ぶ手の動きは少しも緩めず、せっせと消費していく。

戦争が終わって、ようやく木ノ葉は一息ついたところ。
通常会議が招集され、もう、特殊な状況ではない。散らばったり、壊れたりしたものが、それぞれ、元の位置に戻って、元の形に戻って、そしてちょっとだけ変わっていて。
国境付近や、大国からの依頼で、忍びの世界自体は、相変わらず殺伐としていたが、平安を取り戻し、その時間を維持している火の国の街に出れば、こんなオシャレなお店が沢山あった。
ホッと息をつくのは、人間も同じ。
たまには、と買い物と息抜きをかねて、火の国に遊びに来ていたサクラは、このカフェの前に立つイルカとばったり会ったのだった。ピンクとオレンジが基調の、華やかな外装。さすがのイルカ先生も、ちょっと入りにくかったようだ。
イルカが食べているのは、お店からの大食いチャレンジの一品、メガ盛りイチゴパフェ。あと15分で食べきれば、お代はタダである。サクラの前にある普通サイズのパフェは、もう食べ終わり、これはイルカ先生が払ってくれる約束で、一緒に入店したのだった。
「この企画の、そもそもの設定が、一般人向けよ、先生」
「だな」
どうでも言いように返すと、イルカは最後の白玉を口に入れた。アイスの下の方に、結構な個数が入っていたようだが、そんな抵抗、先生の前に意味は無い。
「さ、食べたぞ。案外、ちょろいな」
笑う先生に、私はぴしゃりと言う。
「お腹すいてたんでしょ」
「え?」
頬がこけているのは、見ればわかる。
火影になるカカシ先生に、もう以前のような里外任務は無いから、こんなに頬がこけているイルカ先生の考えられる理由は一つ。
「会えてないのね」
「う・・・・あ、まあ・・・」
お前は相変わらず鋭いな、と言いながら、顔を盛大に赤く染めて、イルカ先生は横を向いた。
「誰が見てもわかるわよ」
「・・・・・」
「ねえ、先生、」
私の気迫に圧されて、先生が、目を見開いてこちらを見る。
「そんなこと、カカシ先生は望んでないのよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「い、いや、わかってるけどさ・・・・」
「・・・・・」
「気後れする俺の気持ちも」
「・・・・・」
「わかって欲しい・・・・」
無言の私に、それでも抗って、イルカ先生はそう言い切った。
十分、わかっていた。
私は、先生の向こうにある大きな窓を見上げる。
水色の空が、綺麗な四角に区切られて、イルカ先生の顔を逆光気味に格好良く見せていた。
すっごくよくわかるわよ、そんなこと。
私は、軽く息を吐いて腕を組む。と、お店の店員さんがやってきて、おめでとうございます、と記念撮影が始まった。
まあ、流れだったので、私も一緒に笑顔で映る。
店員さんが放った、お父さん、凄いですね、というセリフに、イルカ先生が仰け反った。
私は大笑いして、違いますよ~~と言ったが、それ以上は言わなかった。
だって、絶対、今度は店員さんの方が仰け反るでしょ?
お互い、彼氏がいて、会えばいつも、悩み相談会なのよ、ってね。

そのお店を出て、さて、とイルカ先生が私を見る。
「俺はもう、特に用もないんだけど」
「え?先生ってば、今日、これだけのためにわざわざ出てきたの?」
「そうだよ」
まあ、確かに、食べることとカカシ先生のこと以外、興味なさそうだし。
「じゃあ、先生、今度は私につきあって?」
「うん。いいけど・・・?」
「コーヒーがおいしいお店、しってるのよ。長居できるし」
私の、「長居」に敏感に反応して、先生は軽くうなづく。
「よし。じゃあ、そこへいこう」
「うん」
私は、イルカ先生の腕をとって、歩き出す。
こうしてみると、親子に見えないこともないかも、と思いつつ、大股に歩いて空を見上げた。
意味もなく見上げたなのに、それがとてもきれいに高かったので、なんだかちょっと切なくなったけど。
【続く】
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