緑の起点 2

「今は、ココに詰めてるんだ」
賑わっている通りを三ブロックくらい離れた、住宅地の通りにある小綺麗なアパートだった。住宅地といっても、大きな繁華街の裏である。人通りは多かった。それでも、アパートの入り口は、塀を回した裏にあって、部屋の窓などの開口部も、内側を向いている。
静かだった。
外の喧噪は、どこか遠くを吹く風が森を揺らしている音に似て、心が落ち着く。理由はすぐわかった。窓から見える大きなブナの木だ。目に見える緑が、雑踏の音すら、柔らかくしてくれる。
「いい部屋ですね」
「うん。仕事じゃなきゃ、最高なんだけど」
言いながら、カカシが、途中で買ってきたペットボトルのお茶をサクラに手渡した。サクラは、さりげなく室内を見回す。ほとんど家具の類いが無い。クローゼットがあって、それだけで、収納は十分らしかった。ダイニングのセットと、キッチンに小さな食器棚があるだけ。奥の部屋が寝室らしい。
「ここって、いろんな任務で使われるんですか?」
「みたい。俺もよく知らない。借り主は、近所の飲み屋のオーナーらしいけど」
「飲み屋?」
うん、と言って、カカシが口にした店名は、誰もが知る高級なことで有名な店だった。
サクラはちょっと笑って、
「で、」
と話を続ける。
「で?」
「ええ。私、何をすればいいんですか?」
カカシについてきたのは、カカシの任務要請に応えたからだ。今のカカシの任務等、サクラが知っていい範囲で、把握しておくべき事もあるだろう。
「・・・・・」
が、またカカシが黙り込む。サクラは、返事を待って、カカシの胸元を見ていた。
静かな空間に、今度は本当にブナが風に揺れるザワザワとした大らかな音が流れ込んできて、ふっと、今していることを忘れてしまうくらいだった。
「今は、何もないなあ」
かなりたって、やっとカカシがそう言う。ん?と思ったが、それでも、不明を問い直す。 「えっと、差し支えなければ、任務の概要などを・・・?」
するとカカシは、ちょっと困ったように笑んで、
「敵を欺くにはまず味方から、っていうでしょ」
「・・・はい」
「ごめんね」
「いや、わかりました」
任務で、先生に謝らせるという状況がちょっとイヤで、サクラはあわてて、了解した。
「しばらくは普通に、生活してて」
「!・・・はい。あの、えっと、」
「ん?」
「先生とはどういう関係で・・・?」
その質問に、カカシが笑う。今までの、若干硬い空気が、それで一気に溶けたようだった。
「サクラはどういうのが良いと思う?」
まあ、状況に応じて装うということだろうけど、と思い、
「ええ・・・ま、恋人同士ですかね」
「じゃあ、それでいこうか」
「・・・わかりました」
サクラが頷く。
なんとなく、いつもと違う感じで、任務が継続中だ。

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続きます 2018/04/29
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