きっと優しい休みの日 1



[注意]この話は、「聖夜」の続きになっております。





本当は、ばっちゃんのトコに挨拶に行かなきゃいけないんだけど・・・


ナルトはぼんやりとベッドの中で天井を見上げた。
まだ薄暗い天井はいつもの色で、こちらを見下ろしている。
九尾に期待していたのに、一昨日の任務での怪我は、2日では治らなかった。
十分に距離は取っていたのだが、相手の何かの術で、味方の火薬が誘爆したのだ。
重傷を負った仲間に比べれば、自宅療養ですんでいる自分は、十分九尾のおかげなんだろうけど。
・・・・・
もう新年だ。
しかも、3時間も経っちまってる。
アカデミーにいたときは、イルカ先生に連れられて初詣に行ってたな。
深夜っていうだけで、いつもの景色が新鮮だった。
でもそれも、もう、遠い過去の様に感じるな・・・・


少し身体を起こして、静かな部屋の中を見回す。
年が変わったって、変わるモノなどなにもない。
と、冷たい空気の向こうに、鈍く光るモノが見えた。
暗さに目が慣れると、それが鈴であることが認識できた。
机の上に乗っている。
イブにカカシ先生が持ってきてくれて、そのまま今日までそこに置いていた。
  「カカシ先生・・・」
こんなかわいいことしてくれるなんて思いもしなかった。
でも、カカシ先生にいちいち「かわいい」という単語が出てくる俺もどうかしてる・・・・・・
ナルトは起き上がると、机まで行って鈴を手に取った。
チリンと小さな澄んだ音がして、久しぶりに聞いた音に、まるで無視したようにここに放っていた事を考える。
実際、無視していたわけではない。
ただ、視界に入れ、手に取るということは・・・・
  「こわいよな・・・・」
だってそれは、『考える』ということにつながるわけで。
そうすれば否応なしに、俺は俺自身の「本当」を見つめなければならなくなる。
  「しかも結果は出てるようなモンだからなぁ・・・」
始末に困る。

  「好きって・・・・なんだよ、俺も」

しかも、たぶん、抱きたくなる好きなんだ。
もうわかっちまってる。
すでに疑問じゃないし、もう確認もいらない。

  「だから困るよな」

どう考えたって無理だろ、んなもん。
身体の大きさは、まあ、俺もでかくなったきたし、そこら辺は問題ない。

  「いやいや・・・やることばっかだな、俺の頭」

まず・・・・・

  「先生が、俺をどう思ってるか・・・つうか」

なんにも思ってないよな・・・・
ただの元部下ってだけだし。
俺のオヤジが先生の師匠だったって自来也様に聞いたけど、それは単なる事実なだけで、俺とは関係ない。
修行中に好きだって言ってたけど、それだって俺のがんばりを評価してくれての発言だろ。

  「はあ・・・・」

里やサスケのこと、考えなきゃいけないのに、俺も情けないってばよ・・・・・

  「ナルト」

え?!

いきなり名前を呼ばれて、ナルトが振り向く。
窓ガラスの向こうからカカシがこっちを見ていた。
  「カ、カカシせんせえ・・・」
慌てて窓を開ける。フッと冷たい夜の空気が入ってきて、カカシがいつもの調子で「よ」と挙手した。
  「こんな時間にどうしたってば?」
  「正月だぜ。火影のドンチャン騒ぎから抜けて来たんだ」
  「あ、ああ・・・」
元気なら、俺も行くはずだった。
  「今は、お前のお見舞いだ。怪我したんだってな」
  「あ、ああ・・・でも、たいしたことない」
  「お前が2日間もだよ?たいしたことないわけないだろ?」
  「でも、もう大丈夫だってば」
  「(笑)ん。そのようだね」
任務ではないようだが、そのままどこかへ行きそうだったので、俺はあわてて引き留める。
  「どこ行くってば?」
  「ん?帰るだけだよ」
  「ちょっと上がっていって」
  「え?お前、寝なくていいのか?」
心臓は激しく動悸して、先生にも聞こえてるんじゃないかって心配になる。
  「もう、目、覚めたし・・・ずっと寝てて、退屈してた」
先生は俺をじっと見る。多分、俺の怪我の具合と相談してるんだろう。
  「大丈夫だってばよ」
飛び出しそうな心臓にもめげずに引き留めて、
  「・・・そうか」
・・・成功した。
  「さ、はやく入ってってば」
  「わかった」
先生が俺を見上げてにっこり笑う。
ああ、まだ普通だ。
俺たちの関係は、先生で部下で、それ以上ではない、楽しい関係・・・・
進んでいく何かを待ち受ける気持ちと、踏みとどまろうとする気持ちの両方を、確実に認識できたのは、このときが最初だった。
でも、転がる時間は、ただ俺を有頂天にする。

夜中の3時すぎに、カカシ先生が俺の部屋にいる。

心臓の大きな拍動が止まらない。
  「おじゃましま~す」
先生が間抜けな声で入ってきて、俺は笑って出迎えた。


2009.01.04.