鳴門の案山子総受文章サイト
寝ていると思って諦めた俺を、去り際に見た先生の動きが裏切った。
肩が僅かに動いて、それは寝ている人の動きではない。
ホッとした感覚が俺の中を満たし、俺は声をかけようと、窓枠に手をかける。
窓ガラスに映る夏の空は吸い込まれるように深く、思わず笑みを漏らして動く俺の背後で、高い所にある白い雲がゆっくり成長する様が見えた・・・・・
◇
風のある午後。
食べ終わったアイスキャンディーの棒を咥えたまま、本屋に寄ろうとした俺の脳裏に、なぜか先生が浮かんで。
昨日の任務の報告書を出すときに、横で先生と他の上忍が話していたのを聞いていたせいかもしれない。
「今日、オフって言ってたな」
俺も今日は休み。
その一致だけが、印象に残った唯一ではないと、もちろん心のどこかではわかっている。
入りかけていた本屋の戸口で踵を返し、俺は、緑色の風が吹く中に飛び出した。
刻々と夏は近づき、日中の日差しは耐え難いほどだったが、今日は木々を揺らす風が吹き、走るだけで、何か特別な事をしているように気持ちがいい。
先生の家は、
「通りの向こうをしばらく行って、3番目の角を左に曲がって」
いつもは、屋根や電柱を伝って飛んでいくのに、今日はなぜか律儀に通りを走る。
「ここをちょっとだけ入って、右手に・・・・」
それは、走り急いで、手から取りこぼした何かを拾っているような、そんな感じだった。
何か落とした記憶も、取りこぼした記憶もないのに、あとから考えれば、そこには確かに意味があった・・・・
目の前に古いアパートがあらわれる。
2階の左端を目がけて俺は最後のダッシュをかけた。
カンっと派手に音を立てそうになったが、俺は慌ててそっと階段に着地する。
「ただ入っちゃおもしろくないな」
かなり大人になったつもりの俺だったが、それくらいのガキっぽさは残ってる。
そっと反対側に回って、壁をチャクラで上っていく。
下手な小細工はしない。ガチで勝負だ。
先生なら気づくだろうが・・・・・いや、どうかな。
俺だって結構やるもんな!
そっと窓から室内を覗く。
以前の俺なら、ここで先生の幻術を先に喰らって、狐につままれたような状況になるんだろうけど(留守だって思わされて帰っちゃうとかね)、もうそんなに初心くはない。
風にそよぐ街路樹の緑に合わせて、窓ガラスの向こうを見る・・・・
あ・・・・
窓際に置かれたベッドに、先生の姿があった。
寝てるってば・・・・
先生の寝ている姿を盗み見ている部下の図は、端から見たらおかしいだろうけど、俺はなんだか嬉しくてにやついていた。
だって幻術も喰らわずここにいるんだぜ?
気を良くして、そっと窓枠に手をかける。
が、これ以上、どうしようもない。
昨夜、チラ見した報告書じゃ、相当、難易度の高い任務だったようだし、すっかり安心して寝ている先生を起こすのは忍びない。
どうせ、チャクラも底をついているはず・・・・
諦めて、窓に映る空の青さに目を細め、俺はそこから飛び降りようとして・・・・
動いた・・・・
先生の肩が動いたのを見た。
それは、寝ている人の可愛らしい寝返りの類ではなく、明らかに起きている筋肉の動きだった。
なんだ、起きてる。
・・・・え・・・?
ところが・・・
俺が、再び、ほくそ笑むのと同時に、あり得ないものが目に飛び込んできた・・・・
◇
窓がベッドの頭の方にあったから、大きな枕で先生の身体と上掛けの薄い生地に隙間が見えていて。
俺は息を飲む。
その隙間に日が射して、先生の手が、丸いものを握っているのが見えた。
先生ってば・・・・
あんぐりとあいた俺の口からアイスキャンディーの棒が口から落ちる。それは俺のサンダルの上に落ちて、葉がざわめくほどの音も立てなかった。
コレってアレだろ・・・・
ひえええ・・・・・・
すっげえやばい・・・
丸く見えたピンク色のものは、先生のアレの先・・・
いや、先生だって人間だし、当たり前だろ!!
だって、エロ本読んでるし・・・
そう思いながら、でも俺は、エロ本がカモフラージュにしか見えなかった事に気づいていた。
あの人が、そんな事をすればするほど、エロ本はアクセサリーで、彼の精一杯の小細工にしか見えていなかったことに・・・
だから、こんな先生の姿を見て俺の心に生じたのは、いじらしいような切ないような・・・愛しいような・・・そういう庇護に近い気持ちだった。
そういう俗っぽいことから遠い人が、衝動に突き動かされて、手探りで、必死に自分を慰めているような、なんか、そういう気分が一気に押し寄せてきて、俺は胸が詰まった。
いや、もちろん理解している。
先生は俺よりずっと大人で、こんな事あたりまえで、多分、セックスだって普通にしてる、ハズ。
でも・・・・
俺の動揺は手の震えとなり、窓枠を微かに揺らした。
先生はそれでも気づかない。
手を動かしながら、きっと、イキそうになって、自然に顔を上げた・・・・・
俺と目が合う・・・・・
それはスローな映像をつなぎ合わせているかのようにぎこちなく、でも淀みなく流れ、本当に、先生は、俺と目があって、俺の存在に初めて気づいたようだった。
お見舞いのときにチラッと見た先生の素顔を真正面に見る。
その整った顔が、この事態にも、特に変化せず、ただただ俺を見つめるだけなのを確認して、あろうことか、俺は両手を離してしまった。
「うわああ・・」
無様に外階段の下まで落ちる。
無様なりに着地はしたが、身体の痛みよりも、このすぐ後からどうしたらいいかで、心と頭が大混乱していた。立ち上がり、ブツブツと自分でも意図しない独り言をつぶやきながら、服のホコリを払う。
アイスの棒も俺と一緒に落ちていた。それを拾って尻のポケットに入れる。
先生の部屋の窓を見上げる。
・・・・・反応がない・・・・
窓は開く気配がなく、ドアの方を見るが、そっちも気配がない。
「なんだよ。どうすんだよ、これ・・・」
俺は混乱した頭を抱えて、立ち尽くす。
だって、明日から、どうすんだよ。
先生のオナニー見ちゃって、俺、どうすりゃいいの?
・・・・いや、本当はそんなことじゃない。
あんなところを見ちゃっても、先生の無垢な感じが、実は消えない・・・・
そんな俺の感覚の方が問題だ・・・・