綺麗にカットされたケーキが、サスケと隊長の小競り合いで、互いの顔に激しくヒットした以外は、まあ、誕生日のパーティーは静かに終わった。
俺とサクラちゃんは、さっそく後片付けを開始した。
最後の最後まで、「サプライズ」というやつへの未練を断ち切れない隊長だったが、サクラちゃんが「そらっ」と、飾り付けを容赦なくはぎ取ったとき、ようやく諦めがついたようだった。
「僕は用事が・・・」
と逃げようとするサイに、隊長が声をかける。
「サイ!!」
顔にクリームをつけたまま、ほんとうにいじらしいヤマト隊長ではある。
「なんでしょうか?」
「もう、やめてくれ、あの、・・・」
「チャクラ筆?」
「そうそう、それ。総務課にまで注意受けちゃってるんだぞ?」
「じゃあ、カカシさんの絵、いらないんですか?」
「や・・・その・・・・・」
またいじめてるよ。
「わかりましたよ。メモを置かなきゃいいんですよね」
「そうだ、僕の名前は出さないで!!」
「じゃ、ただ置いておきますよ、チャクラ筆」
「ああ、そうしてよ」
隊長・・・・認知された後じゃあ、メモがなくなっても、意味がないって気づかないの?
「隊長、壁にケーキがベッタリなんですけど」
食器を片付けながらサクラちゃんが言う。
「うわ・・・どうしよう・・・」
「大変そうだな。ま、がんばれよ」
サスケが笑って姿を消す。
「あ、こら、サスケ!!お前も同罪だろ!!!」
サスケが消えた虚空に、隊長の声がむなしく響いた。
「隊長、ここはカカシさんの家ですよ。こんなに荒らしたままですと・・・」
と、サイ。
「あ、そうだよね。うん、僕、片付けるよ。カカシさんの部屋だもんな」
あ~あ・・・言っちゃった。
今日はアナタの誕生日なんですが・・・・・・・・
「お願いします」
サイは隊長をたきつけると、僕は帰ります、と言ってかえろうとした。
「サイ、君も手伝えよ。サスケは逃げちゃったし」
「隊長、独りでやれば、時間がかかります」
「?」
「時間がかかれば、それだけ、帰ってくるカカシさんとの遭遇チャンス、アップです」
「なるほど!!!わかった、ゆっくり僕一人でやるよ」
ささ、サクラもナルトも帰って・・・・って、アンタ・・・・
「大丈夫ですか、隊長?」
「あ、うんうん、大丈夫!!もしかしたら、泊りかもしれないなあ(喜)・・・でも、大丈夫!!」
全然大丈夫じゃないってば・・・・
「おい、サイ、やっぱ、お前、いじりすぎだよ」
「わかってるよ、ふふふ・・・・僕なりの愛の形だ」
恐ろしいことだよ。
俺とサクラちゃんは一緒に片付けようとしたんだが、すっかりサイにだまされた隊長は、いいからいいから、と、俺たちを追い出した。
外に追い出された俺たちは唖然と玄関に突っ立つ。
中から、隊長の楽しげな歌声が聞こえてきて、さすがにサイが、
「悪かったかな?」
と言った。
そのセリフに、真のサイヤマを感じて、俺の心はシカマル並みに、
『ああ、めんどくせえ』
とつぶやいた。
◇
サイと別れて、帰り道、二人並んで歩く。
気づくと、サクラちゃんが時々肩を震わせている。
「どうしたってば?」
「いや・・・やり過ぎってのはわかってるんだけど、こんな誕生日、って思ったら」
「うん?」
「かわいそうなんだけど、笑っちゃうのよね~」
本当にいじられキャラなんだから、ヤマト隊長ってば。
でも、それは、俺たちの愛情の裏返しだ。
「でも、一番、隊長をいじってるのは、カカシ先生だってばよ」
「そうよね~」
両思いなのにね、とサクラちゃんが続ける。
そうなんだ。
本当の鬼は、カカシ先生だ。
抱かれるほうのクセして、カカシ先生はドSなんだってばよ。
というのも、2週間前・・・・・・
ヤマト隊長の誕生日に、カカシ先生とのデートをセッティングしてあげようとした優しい俺たち7班の前に、その計画を阻止しようと立ちはだかった人が、何を隠そう、カカシ先生その人だった。
「ちょっと・・・・テンゾウとデートだって?」
「だって、先生、好きでしょ?隊長のこと?」
サクラちゃんが聞き返す。
「うっ・・・・はっきり言うなよ」
「どっちなんですか?」
「・・・・・嫌いじゃ・・・ないよ」
とまあ、この会話だけでも、俺たちは爆笑なんだが、先生はさらにこう言ったのだ。
「もう、俺の方で、着々と計画は立てているのに」
え?すっごいマメなんだな?
「どういう計画なんです?」
「・・・・テンゾウの誕生日に、俺の任務を入れた・・・」
なに、それ?
「はあ?・・・・あ、先生ってば・・・」
サクラちゃんが、笑いながら先生の背中をドンと小突いた・・・・だけなのに、先生は激しく咳き込む。
「なんだよ、サクラちゃん?」
「かわいいのよ、もう。焦らしてるのよね、先生!!」
俺はびっくりしてカカシ先生を見る。
うわ・・・・顔、真っ赤。
そんなかわいいことするんだな、このおっさん・・・・
「じゃあね、私たちで、かわいい隊長をプレゼントしましょうか?」
「え?」
「サクラちゃん、誕生日なのは、ヤマト隊長だよ?」
「もうどっちでもいいじゃない。それで隊長も喜ぶんだから」
「まあ、そうだね・・・」
でも、かわいい隊長って、どういう隊長?
「ああ、それはね、」
と言ってサクラちゃんが微笑む。ゾッとするくらい魅力的だったってば。
「おもいっきり苛めて・・・」
「い・・苛めて?」
「そのあとカカシ先生にバトンタッチよ」
はああ・・・なるほど・・・
「そうすれば、多少、カカシ先生が鬼畜でも、隊長は、もう、すべてオッケーになるでしょ?」
理屈はわかるが、やくざのイチャモンの手口みたいだってばよ・・・・
「あの、サクラ!!」
と、カカシ先生。
「なんですか?」
「お願いがあるんだけど・・・」
「?」
「その・・・、テンゾウを苛めてるときの様子・・・・」
「はい」
「隠し撮りして俺にも見せて」
・・・・・・・
・・・・・・・
割れ鍋に綴じ蓋ってこのことだよ。
さっそく俺たちは、色々とセッティングをして、カカシ先生の部屋には、サイがチャクラ筆を改良した「チャクラ筆改」をセッティング。
おもいっきり隊長を苛めて、その様子をチャクラ筆改に録画した・・・・という次第。
サイから預かった「チャクラ筆改」を手に、眺めながら俺も笑いをこらえる。
本当に、面倒くさいおっさんどもだってばよ。
「んで?本当は、先生、もう帰って来るんでしょ?」
俺が聞くと、
「今は・・・10時ね。もう、戻る頃よね」
「クリームまみれの部屋で、いやらしいオッサンどもだってばよ」
「ふふふふ・・・・」
「ん?どうしたってば?」
サクラちゃんが、今度こそ、我慢できないといった感じで笑い出す。
「サクラちゃん?」
「ナルト~・・・私が、こんなチャンス、みすみす見逃すと思う?」
え?何いってんの?・・・・??
「筆は2本あるのよ!!」
「・・・・・それって?」
「そうよ。チャクラでばれないように、私のダンボールに仕込んであるわ」
「まさか・・・改のほう?」
「あたりまえじゃないの!!(笑)」
「げええ・・・・」
「サイも共犯よ。ねえ、ナルト、私って最高に冴えてると思わない?」
「サイってば、サイヤマじゃねえのか?」
「だからこそ、でしょ?男心は複雑よね~」
・・・・・・。
もう、誰の誕生日かわからないくらい、愛憎入り交じって、最高だな。
今頃、カカシ先生と、いいことしてんだろうなぁ~・・・・
録画されてるとも知らずにね!!
ま、いいや。
とにかく、ヤマト隊長、誕生日おめでとう。
来月のカカシ先生の誕生日、ものすごっく不安です・・・・
2009.08.13.
終わりました。一応、幸せですよね。盗撮されてますが(笑)