鳴門の案山子総受文章サイト
時々、イルカ先生は、食べなくなる。
俺とイルカ先生が親密であることを知っているのは、ごく少数の人間だが、その中にはサクラもいて、俺はときどき、先生とのことをサクラに相談する。
俺は見事、サクラに「乙女認定」されているのだが、サクラが望むままに、俺と先生との色々を話して聞かせているうちに、「ちょっと違うかも」などと言い出した。
その決定打となったのが、イルカ先生が食べなくなる話だった。
この日、俺は2週間の任務を終えて、報告書を出しに来た。
2週間か。
イルカ先生の事を考えていたら、サクラが通りかかった。
さっそく呼び止めて、懸念事項を相談する。話を聞いているサクラが目を大きくして俺を見た。
「食べられなくなるのは、先生のほうじゃないんだ」
「は?俺?どうしてよ?」
そんなことを言うサクラが不思議だ。
サクラだって、内勤が多い先生より、俺みたいに実戦に駆り出される任務が多い癖に。
「食べないと、やっていけない仕事でしょ、俺たち」
「いや、そうなんですけど・・・・イメージが・・・」
はああ・・・写輪眼でぶっ倒れるのって、相当なインパクトなのね。
「俺の身体見たことあるでしょ?」
「ええ、まあ」
別にサクラと変なことはないが、俺の裸の上半身くらい、何度も見てるハズ。
「あの筋肉と良質な反射神経を保つのにどれだけエネルギーいるかわかるよね。しかも、任務によっちゃ、いつ食えなくなるかわからないんだよ」
「いえ、いえ、だから、あくまでイメージなんですってば」
「イメージねえ・・・」
「先生は、カッコイイ・・・というか、綺麗で、可愛いんですよ」
何とでも言って。さすがにもう慣れた。サクラが続ける。
「イルカ先生の浮気とかで、」
と、俺の憮然とした空気に気づいて、慌てて手を振るサクラ。
「違いますよ、たとえ話!たとえば、です!」
「・・・うん」
「そういうことで、カカシ先生が食べれなくなる、とかいうのなら」
「アリなの?」
「まあ・・・」
頷きながらも、サクラは、あのイルカ先生が、と何度も言っていた。
そうだよな、俺も、イルカ先生の初めの頃の印象って、ラーメンだもんな。
誠実そうだとか、優しそうだとか、カッコイイとかそういうのじゃないよ。
第一印象、ラーメン・・・・・
まあ、食欲不振とは無縁の人だ。
それが、なぜか時々食べなくなる。
・・・とか言ってるが、俺が気づいたのは、最近のことだ。
互いの仕事の都合で、長く会えないことも多いが、どうやら、その間、あまり食ってないらしいことに気がついたのだ。
あるときふっと、イルカ先生の顔がやつれていることに気づき、それから様子を見ていて、そのことに気づいた。
「悩みとか、あるのかしら?」
「わっかんないんだよねえ・・・」
「先生達はうまくいってるんでしょ?」
「うん・・・って俺だけがそう思ってるのかな?」
ちょっと気落ちして、俺が目を伏せると、なぜかサクラは元気になる。
「・・・嬉しそうだね、サクラ」
いやいやいや、と手を振って、
「先生、そこは、諦めてください。弱ってる先生って、素敵なんですもん!」
はああ・・・・・
「いえ、でも、心配ですよ。そこは、本心。私も何気にリサーチしますね」
「うん。お願い」
「まかせて、先生!」
気遣わしげに、しかし、元気にサクラが去って行く。
俺のファンクラブを作っていると聞いたときは、それなりに嬉しかったもんだが、最近はその内容がなんとなくわかってきた。サクラは優しいし、親切だし、俺には本当に親身だが、その代償として、そのクラブとやらで、俺がまな板の鯉になっている可能性もあるな、と最近は諦めている。
さて・・・・
俺は、これから家に帰る。
そのあと、先生の家に行く。
また、食べてないんだろうか・・・・
道を歩きながら、でも、こんな感覚すら、愛おしい。
俺が、俺以外の誰かのことを、こうして道すがら心配しながら歩くなんて・・・・
付き合っているという事実が、時々くすぐったく感じるのは、いつもこんな瞬間だった。