鳴門の案山子総受文章サイト
太陽が燃えている。
頭上から射す光線は直角に地面に刺さり、オレはその重圧に、顔を上向かせる事すらできない。
自分の影に汗が落ち、もう一滴落ちる頃には、さっきの跡はもう乾いている。
秒速で喉が渇く。
太陽の質量は10の30乗kgだったか。
重いはずだ・・・・
今に空気が燃え出すぞと思って、しかし、体感が正しければ、それは冗談じゃない。
オレはちらと背後の大人を伺う。
オレよりは水分の少ないはずの大人が、どうやって太陽の重さをしのいでいるか見たくって。
でもオレの目は、遠く大地の染みのように立つ木とその影を認めただけだった。
木陰に二人、燃えるような空気に抱かれて、気分だけ涼んでいるに違いない。話しているのはオレの事か、里のあれこれか。
ふっと、一陣の奇跡のような風が吹き、木陰から隊長が出てこちらに来るのを認めて、オレは前に向き直った。
目を閉じて、うだるような空気の中、チャクラを練り直す。
休憩は、終わりだ。
◇
発情する大人なんて、何人も見てきたし、そんな場面にも何回も出くわしたから、アカデミーに入ったからって、なにかお上品に、オレの人生が変わった訳でもない。
一人暮らしの気安さで、いや、本当は寂しかったりするのが理由なんだが、叱る大人のいないオレが、深夜寝そびれたままふらつく場末の飲み屋の裏路地でだって、そんな狂態は日常だった。
ほどほどに成長し、生意気ぶるのに十分なくらいは、いろんなことを知ったと思っていたオレは、それでもまだ、現実に打ちのめされることがあるんだと思い知る。
先生だ。
暗部にいたことは知っているし、そこが常識とはかけ離れた世界であることも知っている。
それに、先生が、どこでどう生きてこようと、それは今のオレには全く関係ないことだし、もちろんあれこれ考えるような発想すらなかった。
オレと先生の間にはズレて存在する、人生という時間の大きな隔たりがあって、そのせいで、オレにとっての先生は、たとえて言うなら、居酒屋のオヤジに類するような連中と、なんら違いがなかったと言える。つまり、忍者であることや、任務や修行があることを除けば、オレと先生は「無関係」「無関心」の間柄だったわけだ。
そんな真っ白い紙の上のような関係に、一点黒々と穿たれたのが、隊長だ。
先生と同じ暗部にいたが、先生より若い。
隊長の存在は、オレと先生の間を変質させた。
隊長を媒体として、先生の色々が生き生きとオレに流れ込んでくる。
先生の息づかいが不意に聞こえそうに近くなって、オレは初めて、「先生も人間なんだ」という馬鹿な気づきに唖然とする。
ガキが、親に親以外の属性を感じない未熟ぶりを、先生に対して発揮していたことにやっと気づいたのだ。
「先輩はボクのこと、齧歯類だと思ってるよ」
人類じゃなくてね、と隊長はたまにそんなことを言ってオレを笑わせた。
「どういう意味だってば?」
「ボクが木遁を使って、クルミが好きだからじゃないの?」
「はははは・・・発想としてはわかる、というかわかりやすいってば」
「単純だよね」
と言って、内緒、のジェスチャーをする。
三人の修行の日々は、新しく知る先生のことや、隊長も含めた大人の事で、オレには新鮮だった。
退屈だったはずの大人やその世界が色をつけてオレの前に立ち現れる。
なんだ、オレと同じだ、と何度再確認したことか。
それでも。
心に深い亀裂を生じさせるような、耐えることしかできない現実もあるんだ、と。
それをオレに教えたのも先生だった。
◇
多重影分身による修行は、オレからすべての身体エネルギーを奪い、オレをぶちのめす。チャクラの無謀な分散と統合は、本当にぶん殴られているかの様だった。それでもたぶん、いつ暴走するかわからない九尾に備えて、神経をすり減らす隊長の方が大変だったと思うが、そこは子供の発想で、大人だからできていると、どこかで甘えて片付けていた。
でも、同時に大人の二人も、オレを年齢だけで類推して、判断していた部分はあったんだと思う。
じゃなきゃ・・・オレがいるのに、ああいうことはしない。
オレがそういうことを理解しないガキか、いや、中途半端で正確に判断できないと踏んだか、いやそれも違うな。単純にそれだけオレが疲労していると思っていたんだ。
自分の物差しでしかものを見られないのは、大人も子供も同じだ。
オレのチャクラ量がものすごいとわかっていながら、先生たちはわかっていなかった。あれだけチャクラを使えば、夜はぶっ倒れて当たり前・・・・・それは、普通の人間の判断で、オレが例外であることをあれだけ理解しているはずの先生が、リアルにはわかっていなかった。
事実、オレは起きていた。
いや、正確には、寝ていたが、回復が早く、夜中に目覚めたということだ。
隊長も疲労しているので、木遁の家などは望めない。空き地の一角に、三人並んでシュラフで寝るのだが、ふっと気づくと、隣の二人がいない。
特になにも考えはなかった。
どっか行ってんだろうと、その程度だ。二人とも里の要だし、それに大人だし、オレの知らないことや、任務があってもなんら不思議ではない。オレはそのまま、また目を閉じかけたが、そういや小便がしたいと、起き上がった。行く先は決まってる。隊長が作った土遁壁の下の、木が生い茂った部分だ。
かなり遠くから、オレは気配に気づいていた。
たぶん、この地形で死ぬほど修行をしているということと、チャクラが増大して、オレ自身かなり敏感になっていたせいだと思う。
それ以外に、彼らがオレに気づかなかった理由がない。
◇
たぶん、時間は止まっていた。
あるいは、一瞬が相対的に永遠に感じられた。
先生が、目を閉じて、隊長につかまっている。
隊長が動くたび、半テンポ遅れて、先生の上体が揺れた。
初めはその動きの意味がわからなくて、しばらく向かい合って押し合うような二人を見ていたが、すぐに隊長のボトムが少し下がっていて腰が見えて、先生の向こう側の足が持ち上げられていることに気づく。
先生の下半身に至っては、その着衣はすべて足首まで落ちていた。
ああ・・・・
セックスしてるんだ・・・・
眉間に皺を寄せて目を閉じて、背筋を駆け上がる神経の跳躍に、感じている。
あの先生が、ずっとオレより大人の先生が、快感に神経を集中させているその様に、オレは脳髄を貫かれたように感じていた。
先生は、先生じゃないんだ・・・・
その閃きにオレは打ちのめされる。
場末の路地や、いかがわしい建物の中に連れ立って入る、上品じゃない大人。
先生は先生であって、それ以外の顔はないと思い込むガキの理屈・・・・
深夜に少しだけ冷めた空気は、茂る木々の葉を揺らし、オレは理解していた。
多重影分身で修行していたオレは、こんな事への理解も、複数を同時並行しているようだった。
つまり・・・・
先生が、先生じゃなくてただの人だったこと
先生と隊長はそういう関係だってこと
先生もエッチで感じるフツーの身体だってこと
先生もあんな声を出すってこと
オレもいるのに、こんなことをしてること
だとしたら、
もしかしたら我慢できなくてエッチしてるのかもしれない
オレがオレのコレを持て余すように、先生もそうなのかもしれない
先生も、セックスに振り回される人なんだ
先生の気配が生暖かい
オレはオレが興奮しているのを認める
オレは自分自身を掴む
いつの間にかオレのソコがたてる濡れた音が
先生の喘ぐ姿に重なって
オレはすべてをあっという間に理解する・・・・・
◇
ずいぶんと久しぶりだったが、挿入は滑らかだった。
そのことを、尋ねても特に関係になんの影響もないとわかっているが、でも、尋ねる気にはならなかった。
もう、先輩はすごく感じてくれていたからだ。
「あっ・・・んん・・・」
たぶん、もう、どこをどう触っても感じるんだろう。ボクが、考えなく首筋や頬を舐めたりキスしたりしても、先輩の気分が途切れることはなかった。
「・・・いい?」
わかっているが敢えて聞く。
「ん、ん、・・・・」
浅い呼吸の合間に、細かく頷く。こんな大男がかわいいなんて。
ボクは、入れて戻すを、先輩を見ながら、繰り返した。
ボクの鼻腔から息が漏れて、粘膜の擦れる音がして、その音が明らかに先輩を刺激している・・・・
「いいんですか?」
不意に言ったボクの言葉も、先輩には正確に伝わる。
ちょっと乾いた喉に顔をしかめながら、はっきりと返してきた。
「いいんだ。もう子供じゃない」
・・・・・ボクとしては、もちろん大歓迎だけど。
負ける気はしないが、牽制も必要だ・・・・
「あ・・・も・・・」
ボクは先輩との接触部分を見せつけるように動いた・・・
2016.01.24に参加した「全忍集結2」で発行したコピー本の作品です