妄想道 2




 「最近なんか変な感じなんだよね」
カカシが言う。
女の子相手のファッション関係のテナントがたくさん入ったビルの屋上は、
流行のオープンテラスのカフェで、隣のビルの影に入るあまり眺めの良くない一角に
俺たちは座っていた。



火の国の中心街は、タイムスリップしたみたいで、素朴な木の葉とは何もかもが違う。
女も男も、もちろん忍びとはかけ離れた格好だし、一般人が里のことをどう思っているかも、およそ見当がつく。
だから、その雑踏の中にカカシを見つけた時は、びっくりしたと同時に嬉しかった。
  「サスケか?」
近づこうとしたら、振り返ってそう言われた。
薄い寒色のシャツを着ていた。
目の傷がない。
  「傷・・・?」
と言いかけて、何かの術であることに気づく。
  「さすがにあんな傷じゃ目立つからな」
そう、素顔で笑む様は、「こいつが俺のもんだったら最高だ!!」と、叫びたくなるくらい、いい男だった。
  「なんでこんなトコにいるんだ?」
並んで歩きながら俺が聞くと、
  「報告書と・・・契約関係の書類」
火の国の中枢へのお使いみたいなものか。
  「その格好で行ったのか?」
  「まさか。いつもの格好だよ。でも、街の中は、なんか気楽な感じでさ。こうしてブラブラしてるわけ」
  「サボりか?」
  「(笑)そうだね。もう仕事は終わったからいいんだ。火影もそういうニュアンスだったから」
カカシはそう言って、楽しそうに歩いている。
神経を削らなくてすむ時間は、任務の日々ではないに等しい。
カカシの気持ちは十分よくわかった。
  「サスケはどうしてココにいるんだ?」
俺はグッと詰まる。
イベント参加だなんて言えるわけがない。サクラに売り子としてこき使われていたのだ。
もちろん、体力馬鹿の分身と、変態木分身もいたがな。
でも、いくら、メンバーになったとはいえ、さすがに議事録まで売られてるなんて、カカシは知らないだろうなぁ・・・・
カカシが仲間か・・・・
その妄想は、俺たちの爛れたものとは一線を画し、憧れの人に心も身体も愛され尽くすという、かわいいモンだった。
ああ、カカシ、本当に愛おしいな・・・・
  「サスケ?」
  「あ、ああ、俺はちょっとした買い物だ」
俺としたことが、紙の手提げ袋しか持ってきてなくて、たっぷり買い込んだカカシ受の本が、今にも破れ落ちそうになっていた。
カカシが「そうか」と言って、俺の紙袋に視線を走らせた時は、生きた心地がしなかった。
で、サボり足りないカカシと、カカシと一緒にいる時間を長くしたい俺は、カフェへと足を運んだのだった・・・・





  「はやく本題に行けよ」
俺がムスッとして促すと、
  「優しくねえな、お前。いいだろうがよ、回想に浸るくらい!!」
はあ・・・・
時間がないとできないね、妄想は。
  「おとなしく聞いてろ!!」
はいはい・・・・





アイスコーヒーの氷が崩れる爽やかな音がした。
カカシがそれをストローで掻き回す。

そのカカシの指が、男の無骨な指にしか見えていなかったガキの頃の俺が情けない。
整った綺麗な指だった。
男の生殖器の色々が、指でわかってしまうなんていう俗説を信じるとすれば、カカシの愛しいアレもたぶん、綺麗な形だ。
  「変な感じってなんだよ?」
俺の妄想を気取られないように話を繋ぐ。
  「みんなが俺に優しいの」
ぶっ・・・
俺は心の中で大いに吹き出した。
や、やさしい、だと?
ああ、なんて無自覚はかくもスケベ心をくすぐるのか。
これがリアルじゃなかったら、俺は、確実にカカシを抱きしめていた。
  「い、い、いいじゃねえか」
噛みまくる俺を不思議そうに見る。
  「あ、あ、あれだ、みんなが優しいってのは、好かれてるってことだろ?」
う~ん、と首を傾げながら、
  「ならいいんだけどね・・・」
と煮え切らない。
  「そ・・そうだな、誰が優しいんだ?」
一応聞いてみる。ま、想像はつくがな。
ナルトはもちろん、ぶっちぎって『優しい』のは木遁だろう。
サクラも、サクラなりの独特の愛し方で愛してるみたいだからな。

俺だって、口は悪いが、優しいぞ、もちろんお前限定で。
  「五代目」
ぶっ!!!
・・・・・
ちょ・・・ちょっと待て。
予想の範囲を超えすぎだろうが!!!
五代目とは、な。
  「あとね、」
ああ、『みんな』って言ってたな。
  「サイ」
・・・・・
・・・・・
なんなんだ、この冷や汗は・・・・・
俺の知らないところで、何かが進行しているのか?
急に深刻になって空をにらむ俺に、カカシも釣られて眉間に皺を寄せる。
  「変だろ?気持ち悪くって」
よっしゃあ!!
何はともあれ、『気持ち悪い』っていうオチは歓迎だ!!





  「サスケ・・・お前、器が小さいな」
なんだよ、最後のコメント。
  「な、なんだよ、いいだろ・・?」
  「サクラちゃんなら、そうは言わないよ。仲間かもしれないだろ?」
  「な・・・仲間・・?」
  「っていうか、デートってこのことか?」
  「あ、ああ。そうだよ。一緒にお茶したんだ(喜)」
サスケ。
今日日、小学生でももっと進んでるよ。
ういヤツめ。

2009.06.06 アップ
2013.02.16 サルベージ