胸に抱く




先生はずっと大人で、アカデミー生時代の私からすれば、親と同じレベルのオジサン。
いや、おっさん。
ナルトに至っては加齢臭がするとまで言ってた。
若干・・・そういう匂いがしないでもないけど( ごめんね先生、でもホントだもん )、でも、私も、もう子供じゃないこの年齢に達すればわかることもある。
たとえば、先生が、完全無欠な大人じゃないてこと。
今回も、私は、新しい目標に向かってがむしゃらに突っ走り始めたけど、
気づいたら・・・・・
先生のほうが、落ち込んでいた、みたい。
そのことに気づいたなんて、私も、ほんと大人になった!!って思ったわ。





  「先生!」
ぼんやり通路を歩く先生に声をかける。
  「ん?サクラ」
サスケくんもナルトもいない里で、今、カカシ先生は、私の唯一の特別な仲間。
先生にとってもそうだよね。
  「今日は早く終わるんですけど」
  「けど?」
  「一緒にご飯食べません?」
  「!!」
先生はびっくりしたように・・・・いや、明らかにびっくりして、私を見下ろす。
  「先生も、報告書で終わりですよね」
  「え・・・あ、ああ」
何で知ってるの?という目をするから、
  「師匠から聞きました」
  「あ・・・そう」
  「明日、非番なのも知ってます」
  「え・・・そうか」
とまあ、なんて煮え切らない態度なんだろ(笑)
そりゃ、7班で食べに行くことはあったけど、私と二人きりっていうのは無かったものね。
  「先生、教え子が可愛くないんですか?」
  「え?あ、や・・・かわいい、よ」
  「あ、もしかして彼女とかいたりします?お邪魔?」
いないのはリサーチ済み。
  「え?あ、いないよ・・ははは・・」
  「じゃあ、決まりですね」
何を躊躇してんだか、突っ立ったままの先生にたたみかける。
  「ん・・・晩飯、ね・・・」
  「そうだなあ・・・・鍋とかいかがです?」
  「鍋?」
  「暑いときに熱い物を食べるって、気分いいですよ?」
  「・・・・いや、いいけど、そんな気の利いた店・・・」
  「店?」
  「いや、俺が知ってるのは、品がないトコだから(笑)・・・サクラはなあ・・・」
  「あら、先生の家でいいですよ」
ええー??!!と驚いて首を突き出す。もう、話がスムーズにいかないったら。
先生が美形だなんて嘘だわ、きっと。
確かに整ってるっぽい感じはするけど、それって、「雰囲気」も格好良くないとだめじゃない?
先生、全然、ボーッとしてるんだもん。
ボーッというか、ヌボーって感じ。
  「お、俺の家?」
  「はい。縁側がある、大きな家ですよね。夕方とか涼しそう!!」
  「あ、う、大きくはない、一人暮らしには充分ってだけで・・・」
  「私、材料そろえて行きますから!!」
もう、面倒くさいから、勝手に決めてしまへ。
  「あ・・・ああ、わかった」
  「6時半に行きますから!!」
  「う、うん、わかった」
先生は、必死に頷いてる。
なんかかわいい!!
じゃあ、あとで、と私が背を向けて走り出すと、すぐに追いかけてきた。
  「サクラ!」
  「はい?」
  「これ」
先生が私に何か押しつけた。
  「え?」
見ると、先生の財布だった。
  「あ、先生、」
顔を上げたら、もういない。
そんなに私とご飯食べるってこと、ストレスなのかしら?
なんだか、本格的にいじめたくなってきちゃったわ、これ。
あれ・・・・先生を励まそうとしてたんじゃなかったっけ、私・・・・?





元気をつけてもらおうと、肉を買って行く。
本当は魚介の方がよかったのかもしれないけど、そこまで枯れられたらこっちが困る。
ナルトがいたら、これの3倍は必要だったなあ、と、夕暮れの道を、歩き出した。
あちこちから夕餉の匂いがして、独身の先生を気遣ってあげてなかったことに、ちょっと後ろめたさを感じた。
みんながいなくなって、先生はいつもこの空気の中を帰ってたんだ。
私、自分のことばかりに夢中で、先生の気持ちまで、考えてなかったなあ・・・・
逆だったら、カカシ先生は、きっと、そっと励ましてくれたに違いないのに。
  「ご飯で元気でるかな?」
でも、先生のお金だった(笑)
途中のスーパーで食材を買い足して、私は先生の家に向かった。


  「先生!!」
古い木戸を開けて、声をかける。
あれ・・・涼しい・・・
  「サクラ、汚れるよ」
庭に打ち水がしてあって、地面が濡れている。
  「ああ、涼しいですね」
と、縁側の先生を見た私は固まった。
げっ!!!
なに、先生・・・・???
  「お金、足りた?」
  「そんなに高い肉買ってません・・・・って、先生?!」
私は、素直に驚いた。
なんとなく素顔の予想はついていたが、
でも、だって、とにかく、ぜんぜん、加齢臭じゃないんだもの!!
おっさん??
ちがう、お兄さんだよね。
えっと、29歳・・・・か、30歳。誕生日来てないから29か。
お兄さんか?お兄さんの範囲か?
でも、雰囲気ぜんぜんヌボーってしてない。
それに、なに、その爽やかな顔!!
  「いや、どうせ見られるしね(照)」
照れてんじゃねえよ、色男が。
  「先生、服、持ってたんですね」
  「なに、その確認(笑)」
ただのTシャツにジーンズだったが、素材がいいと、オールオッケーなのね。
一般民衆に成り下がった私は、きっと、素顔を見た人に百万回は言われただろうセリフを脳天気に放つ。
  「どうして顔、隠してるんですか?カッコイイのに」
先生は、私が教え子で、私と一緒に過ごせるのがたぶん嬉しかったから(見てたらわかる)、手垢がついた質問にも笑顔だった。
  「忍者だもん」
  「・・・・・」
  「あ、いや、ね、なんか、からかわれちゃうの、俺の顔って」
  「からかう?」
  「うん。色々ね」
ふう~ん・・・そうなんだ。
それって、大人な意味だよね、きっと。
男に混じってる女の子が、もううんざりするようなからかわれ方したりっていう・・・・
  「大変なんだ、先生」
  「ははは・・・そうでもないよ。でも同情してくれるんだな、ありがとう」
先生が笑って手招きした。
いつものように、縁側から部屋に入る。
何故か、私もウキウキしてる。
なんだろう。
思ってたより、楽しい・・・感じがした。





台所使わせてもらいますね、と勢いよく宣言したにもかかわらず、たかが鍋ごときに苦戦して、普段の生活を露呈してしまった私だったが、先生は、別にそのことに意見はないらしく、普通に手伝ってくれた。
っていうか、私の家事能力を、先生は正確に評価していたってだけだけど。伊達に、先生やってないね、この人。
  「ご飯炊けるんですか??先生!!」
釜で普通に炊こうとしている先生に唖然。
  「え?できるよ(笑)」
しかも慣れてる。
  「せんせ~・・・家庭科、得意だったの?」
敬語も何気にスルーして、言ってみる。
  「家庭科?そんな科目あったかな(笑)」
言いながらも手が動く、手が動く。
私は、ここで見ていた方が、スムーズにいきそう・・・・
  「モテるでしょう、先生」
  「え?なんで?」
ニコニコしてる。
ああ、来て良かった。
先生の息抜きになってるんだ・・・・
  「だって、料理が上手だなんて、彼氏にしたい№1だと思う」
  「へえ~・・・そうなんだ」
  「ね、モテるでしょ?」
  「そんなことないよ。だって、こんなふうにご飯つくってあげるとこまで行かないからな」
あ、なんかドキっとした。
  「そうなんだ」
  「よかったよ、サクラで」
な、なに言ってんのよ、このオッサンが!!
なんか、ドキドキすんのよ、そういうセリフ!!
  「な・・・なんで私で良かったの?」
  「ん?かわいい教え子とご飯一緒で(笑顔)」
うれしがりすぎなんだって!!
なに、その手放しの喜びっぷり!!
そういうとこに、年齢感じちゃうわ、ホント。
それに、なんで、オッサンにドキドキするんだか、私も。
オッサンだよ、四捨五入して30歳だもの。
  「サクラは食器用意して」
  「あ、はい」
結局、見てただけだった・・・はははは・・・
っていうか、私が彼女になりたいよ。
こんな楽ちんな彼氏、最高じゃない。
・・・・って、相手は先生だって。
あり得ない。
・・・・・
14歳差。
あり得るな。
・・・・うわ、何考えてんだろう、私。
サスケくんの方が、いろいろお得だって!!
でも、料理できるのかな、サスケくん・・・・
いや、最低、私。
そんなことで、男を選別するなんて。
でも、男だってそいういこと平気で言うじゃない?
料理が上手で、家事が得意でかわいくて、とか。
  「先生、どんなタイプの女の子が好きなの?」
不躾な質問の時は、自分がまだ教え子の気分で聞いてしまうことにしている。
  「ええ~?タイプって・・・ないなあ、特に」
先生が煮えた鍋を持ってきた。
  「ないの?こう、ね、五代目みたいなグラマーとか、紅先生みたいな色っぽい感じとか?」
スケベ親父か、自分。
  「ははは・・・そうだな、俺のこと好きになってくれる子かな」
うわ、何、そのハードルの低さ!!!
  「先生!!いっぱいいるわよ、彼女候補!!」
  「そう?」
グツグツ煮える音がして、暑い室内に湯気が立ち上る。
  「じゃあ、募集しとくよ(笑)」
  「じゃ、私も応募しときます」
え?
と先生が私を見て、それは、単純に「思いもしなかった」という「え?」だと思うけど、言ってしまった私が恥ずかしくなるような戸惑い感があった。
  「あ・・・ダメ?」
かろうじてそれだけ言うと、先生も引きつった顔で、
  「え?あ、まさか、ダメなわけない!!」
と、妙に高いトーンで言い返してきた。
  「へへへ・・・・良かった」
良かったのは、上手い具合にこの場が収まって良かったという意味だった。
冷静に考えれば、募集に応募が一件で、要件が「俺を好きな子」っていうことで、私は先生が好きだから、これで何かが成立してもおかしくはないと、第三者がいれば突っ込みがあった・・・・ハズ。
っていうか、それを望んでいるのか>私。
ああ、なんか、一気に何かが進んでいく。
好きなんだろうか、私、先生の事。
いや、好きだけど、それって、師弟関係のそれだよねえ~?
  「サクラ?」
でも、先生ってば、カッコイイし。
スタイルはいいわ、顔はいいわ、手の形も綺麗だわ(これは印を結んで見せくれたときから知ってる)、料理は得意だわ(今のところ鍋と米の飯)、もうこれだけで、普通は何かが完了するよね。
  「サクラ、食べよう?」
  「あ・・・は、はい」
先生は、ご飯までよそってくれて、もう、私がお嫁に来たい、っていうか、先生を嫁にしたい気分になっていた。


ご飯が進んで、先生が、
  「あ、俺、ビール飲んでいい?」
と聞いてくる。たぶん、いつもは速攻で飲んでいるんだろうけど、未成年の私が相手だから、タイミングが遅れたみたいだった。
  「もちろん。どうぞ」
言いながら、私が立ち上がりかけると、先生は、私を手で押し止めて、
  「自分でやるよ」
と、立ち上がる。
ああ、腰も重くないし、最高ね、先生!!
  「明日非番でよかったなあ~」
先生の声が聞こえてきて、私は微笑んだ。




2009.07.27.

続きます