先生はずっと大人で、アカデミー生時代の私からすれば、親と同じレベルのオジサン。
いや、おっさん。
ナルトに至っては加齢臭がするとまで言ってた。
若干・・・そういう匂いがしないでもないけど( ごめんね先生、でもホントだもん )、でも、私も、もう子供じゃないこの年齢に達すればわかることもある。
たとえば、先生が、完全無欠な大人じゃないてこと。
今回も、私は、新しい目標に向かってがむしゃらに突っ走り始めたけど、
気づいたら・・・・・
先生のほうが、落ち込んでいた、みたい。
そのことに気づいたなんて、私も、ほんと大人になった!!って思ったわ。
◇
「先生!」
ぼんやり通路を歩く先生に声をかける。
「ん?サクラ」
サスケくんもナルトもいない里で、今、カカシ先生は、私の唯一の特別な仲間。
先生にとってもそうだよね。
「今日は早く終わるんですけど」
「けど?」
「一緒にご飯食べません?」
「!!」
先生はびっくりしたように・・・・いや、明らかにびっくりして、私を見下ろす。
「先生も、報告書で終わりですよね」
「え・・・あ、ああ」
何で知ってるの?という目をするから、
「師匠から聞きました」
「あ・・・そう」
「明日、非番なのも知ってます」
「え・・・そうか」
とまあ、なんて煮え切らない態度なんだろ(笑)
そりゃ、7班で食べに行くことはあったけど、私と二人きりっていうのは無かったものね。
「先生、教え子が可愛くないんですか?」
「え?あ、や・・・かわいい、よ」
「あ、もしかして彼女とかいたりします?お邪魔?」
いないのはリサーチ済み。
「え?あ、いないよ・・ははは・・」
「じゃあ、決まりですね」
何を躊躇してんだか、突っ立ったままの先生にたたみかける。
「ん・・・晩飯、ね・・・」
「そうだなあ・・・・鍋とかいかがです?」
「鍋?」
「暑いときに熱い物を食べるって、気分いいですよ?」
「・・・・いや、いいけど、そんな気の利いた店・・・」
「店?」
「いや、俺が知ってるのは、品がないトコだから(笑)・・・サクラはなあ・・・」
「あら、先生の家でいいですよ」
ええー??!!と驚いて首を突き出す。もう、話がスムーズにいかないったら。
先生が美形だなんて嘘だわ、きっと。
確かに整ってるっぽい感じはするけど、それって、「雰囲気」も格好良くないとだめじゃない?
先生、全然、ボーッとしてるんだもん。
ボーッというか、ヌボーって感じ。
「お、俺の家?」
「はい。縁側がある、大きな家ですよね。夕方とか涼しそう!!」
「あ、う、大きくはない、一人暮らしには充分ってだけで・・・」
「私、材料そろえて行きますから!!」
もう、面倒くさいから、勝手に決めてしまへ。
「あ・・・ああ、わかった」
「6時半に行きますから!!」
「う、うん、わかった」
先生は、必死に頷いてる。
なんかかわいい!!
じゃあ、あとで、と私が背を向けて走り出すと、すぐに追いかけてきた。
「サクラ!」
「はい?」
「これ」
先生が私に何か押しつけた。
「え?」
見ると、先生の財布だった。
「あ、先生、」
顔を上げたら、もういない。
そんなに私とご飯食べるってこと、ストレスなのかしら?
なんだか、本格的にいじめたくなってきちゃったわ、これ。
あれ・・・・先生を励まそうとしてたんじゃなかったっけ、私・・・・?
◇
元気をつけてもらおうと、肉を買って行く。
本当は魚介の方がよかったのかもしれないけど、そこまで枯れられたらこっちが困る。
ナルトがいたら、これの3倍は必要だったなあ、と、夕暮れの道を、歩き出した。
あちこちから夕餉の匂いがして、独身の先生を気遣ってあげてなかったことに、ちょっと後ろめたさを感じた。
みんながいなくなって、先生はいつもこの空気の中を帰ってたんだ。
私、自分のことばかりに夢中で、先生の気持ちまで、考えてなかったなあ・・・・
逆だったら、カカシ先生は、きっと、そっと励ましてくれたに違いないのに。
「ご飯で元気でるかな?」
でも、先生のお金だった(笑)
途中のスーパーで食材を買い足して、私は先生の家に向かった。
「先生!!」
古い木戸を開けて、声をかける。
あれ・・・涼しい・・・
「サクラ、汚れるよ」
庭に打ち水がしてあって、地面が濡れている。
「ああ、涼しいですね」
と、縁側の先生を見た私は固まった。
げっ!!!
なに、先生・・・・???
「お金、足りた?」
「そんなに高い肉買ってません・・・・って、先生?!」
私は、素直に驚いた。
なんとなく素顔の予想はついていたが、
でも、だって、とにかく、ぜんぜん、加齢臭じゃないんだもの!!
おっさん??
ちがう、お兄さんだよね。
えっと、29歳・・・・か、30歳。誕生日来てないから29か。
お兄さんか?お兄さんの範囲か?
でも、雰囲気ぜんぜんヌボーってしてない。
それに、なに、その爽やかな顔!!
「いや、どうせ見られるしね(照)」
照れてんじゃねえよ、色男が。
「先生、服、持ってたんですね」
「なに、その確認(笑)」
ただのTシャツにジーンズだったが、素材がいいと、オールオッケーなのね。
一般民衆に成り下がった私は、きっと、素顔を見た人に百万回は言われただろうセリフを脳天気に放つ。
「どうして顔、隠してるんですか?カッコイイのに」
先生は、私が教え子で、私と一緒に過ごせるのがたぶん嬉しかったから(見てたらわかる)、手垢がついた質問にも笑顔だった。
「忍者だもん」
「・・・・・」
「あ、いや、ね、なんか、からかわれちゃうの、俺の顔って」
「からかう?」
「うん。色々ね」
ふう~ん・・・そうなんだ。
それって、大人な意味だよね、きっと。
男に混じってる女の子が、もううんざりするようなからかわれ方したりっていう・・・・
「大変なんだ、先生」
「ははは・・・そうでもないよ。でも同情してくれるんだな、ありがとう」
先生が笑って手招きした。
いつものように、縁側から部屋に入る。
何故か、私もウキウキしてる。
なんだろう。
思ってたより、楽しい・・・感じがした。
◇
台所使わせてもらいますね、と勢いよく宣言したにもかかわらず、たかが鍋ごときに苦戦して、普段の生活を露呈してしまった私だったが、先生は、別にそのことに意見はないらしく、普通に手伝ってくれた。
っていうか、私の家事能力を、先生は正確に評価していたってだけだけど。伊達に、先生やってないね、この人。
「ご飯炊けるんですか??先生!!」
釜で普通に炊こうとしている先生に唖然。
「え?できるよ(笑)」
しかも慣れてる。
「せんせ~・・・家庭科、得意だったの?」
敬語も何気にスルーして、言ってみる。
「家庭科?そんな科目あったかな(笑)」
言いながらも手が動く、手が動く。
私は、ここで見ていた方が、スムーズにいきそう・・・・
「モテるでしょう、先生」
「え?なんで?」
ニコニコしてる。
ああ、来て良かった。
先生の息抜きになってるんだ・・・・
「だって、料理が上手だなんて、彼氏にしたい№1だと思う」
「へえ~・・・そうなんだ」
「ね、モテるでしょ?」
「そんなことないよ。だって、こんなふうにご飯つくってあげるとこまで行かないからな」
あ、なんかドキっとした。
「そうなんだ」
「よかったよ、サクラで」
な、なに言ってんのよ、このオッサンが!!
なんか、ドキドキすんのよ、そういうセリフ!!
「な・・・なんで私で良かったの?」
「ん?かわいい教え子とご飯一緒で(笑顔)」
うれしがりすぎなんだって!!
なに、その手放しの喜びっぷり!!
そういうとこに、年齢感じちゃうわ、ホント。
それに、なんで、オッサンにドキドキするんだか、私も。
オッサンだよ、四捨五入して30歳だもの。
「サクラは食器用意して」
「あ、はい」
結局、見てただけだった・・・はははは・・・
っていうか、私が彼女になりたいよ。
こんな楽ちんな彼氏、最高じゃない。
・・・・って、相手は先生だって。
あり得ない。
・・・・・
14歳差。
あり得るな。
・・・・うわ、何考えてんだろう、私。
サスケくんの方が、いろいろお得だって!!
でも、料理できるのかな、サスケくん・・・・
いや、最低、私。
そんなことで、男を選別するなんて。
でも、男だってそいういこと平気で言うじゃない?
料理が上手で、家事が得意でかわいくて、とか。
「先生、どんなタイプの女の子が好きなの?」
不躾な質問の時は、自分がまだ教え子の気分で聞いてしまうことにしている。
「ええ~?タイプって・・・ないなあ、特に」
先生が煮えた鍋を持ってきた。
「ないの?こう、ね、五代目みたいなグラマーとか、紅先生みたいな色っぽい感じとか?」
スケベ親父か、自分。
「ははは・・・そうだな、俺のこと好きになってくれる子かな」
うわ、何、そのハードルの低さ!!!
「先生!!いっぱいいるわよ、彼女候補!!」
「そう?」
グツグツ煮える音がして、暑い室内に湯気が立ち上る。
「じゃあ、募集しとくよ(笑)」
「じゃ、私も応募しときます」
え?
と先生が私を見て、それは、単純に「思いもしなかった」という「え?」だと思うけど、言ってしまった私が恥ずかしくなるような戸惑い感があった。
「あ・・・ダメ?」
かろうじてそれだけ言うと、先生も引きつった顔で、
「え?あ、まさか、ダメなわけない!!」
と、妙に高いトーンで言い返してきた。
「へへへ・・・・良かった」
良かったのは、上手い具合にこの場が収まって良かったという意味だった。
冷静に考えれば、募集に応募が一件で、要件が「俺を好きな子」っていうことで、私は先生が好きだから、これで何かが成立してもおかしくはないと、第三者がいれば突っ込みがあった・・・・ハズ。
っていうか、それを望んでいるのか>私。
ああ、なんか、一気に何かが進んでいく。
好きなんだろうか、私、先生の事。
いや、好きだけど、それって、師弟関係のそれだよねえ~?
「サクラ?」
でも、先生ってば、カッコイイし。
スタイルはいいわ、顔はいいわ、手の形も綺麗だわ(これは印を結んで見せくれたときから知ってる)、料理は得意だわ(今のところ鍋と米の飯)、もうこれだけで、普通は何かが完了するよね。
「サクラ、食べよう?」
「あ・・・は、はい」
先生は、ご飯までよそってくれて、もう、私がお嫁に来たい、っていうか、先生を嫁にしたい気分になっていた。
ご飯が進んで、先生が、
「あ、俺、ビール飲んでいい?」
と聞いてくる。たぶん、いつもは速攻で飲んでいるんだろうけど、未成年の私が相手だから、タイミングが遅れたみたいだった。
「もちろん。どうぞ」
言いながら、私が立ち上がりかけると、先生は、私を手で押し止めて、
「自分でやるよ」
と、立ち上がる。
ああ、腰も重くないし、最高ね、先生!!
「明日非番でよかったなあ~」
先生の声が聞こえてきて、私は微笑んだ。
2009.07.27.
続きます