妄想年始 1




  「全く、よう~」
サスケが、不満げな顔で文句を垂れる。
なにが「よう~」だよ、おめえはラッパーかっつうの。

ここは、言わずと知れたアカデミーの教室だ。
しかも深夜。
原作が、もう佳境に入っているっていうのに、俺たちには全く違う時間が流れている。
もう、二次どころか、三次か四次くらいに中身がねじくれた世界だ。[エロ方向に]
そろそろ、オリジナルと言ってもいいくらいのキャラ立ちで、こんな下品な内容は、原作とは、本当に全く無関係なんです、違うんですと、俺は声を大にして・・・
  「聞いてんのかよ、ナルト」
はいはい・・・・
  「忙しい俺を呼びつけやがって」
はあ・・・毎度の事だが、呼んだのは俺じゃない。しかも、またこっちに本体だろ?すげえよな、お前は。まあ、俺もそうだから、俺も凄いよね(笑)
  「ナルト、俺には年末の予定が立て込んでいるんだよ」
  「知るかよ!俺だって忙しいんだ」
  「はあ?お前が何に忙しいんだよ?!」
サスケがすごい形相で詰問だ。
あのなあ、今年完成予定の火の国ラーメン網羅本が、まだゴールからほど遠いんだよっ!!・・・ってことなんだが、でも、俺だって、それが年末の忙しい理由として適当だとは思ってない。
  「本がまだできてないん・・・だよ・・・」
と、しどろもどろに言うと、
  「本?・・・・ああ、あの本か」
とサスケが妙に納得してみせる。
  「お、覚えてるのか?」
  「あたりまえだろ。なんだよ、そのリアクション」
  「や、その・・・」
  「そりゃあ、悪かったぜ。忙しいのはしかたないな。俺も期待してるしな」
  「は?あの本に?」
だって、ラーメンだぜ?しかも、俺様の好みに徹底的にこだわった、俺以外なんにもおもしろくない本だ。正直に言うとな。トマト生産分布図じゃないんだぜ。
  「そうだよ。でも、今回のことも盛り込めば、いいんじゃね?一石二鳥だろ」
は?今回のことって・・・・
  「あの本に?」
  「はあ?さっきから、なに、ごちゃごちゃ言ってんだよ!!」
  「だって、おかしいだろ?トマトじゃねえんだぞ?」
  「わかってるよ、カカシだろ?そりゃトマトも好きだけどさ」
ははあ・・・・
ここらへんで、俺は、サスケの勘違いに気づいたが、面倒くさいので黙っていた。
「妄想本」のことと勘違いしてんぜ、サスケのヤツ。でも、本当の事なんて言えない。
  「でもよ、俺だって、それくらい大事な用があるんだぜ」
とサスケが続ける。
  「お前の用事ってなんだよ?」
  「お前なあ」
サスケが心底呆れたような顔をする。
  「お前、何年俺とつきあってるんだよっ!俺にとって大事なのはカカシしかいねえだろ?」
え?いや、そりゃあ知ってるけどさ、でも、先生と用事って?
  「ばっか、俺に言わせんなよ」
サスケが照れて、その意味ありげな発言の衝撃と、やっぱり色男はどこまで行っても色男な事実の双方に、俺が打ちのめされかけたとき・・・

 「はっはっはっはっ!!」

というバカ笑いが深夜の教室に響いた。
その爽やかなバカ笑いは・・・・
  「相変わらずだなあ、サスケ」
  「てめえ・・・どっかにはさまってんじゃなかったのかよ」
隊長だ・・・・・
そうだった、この人も会議のメンバーだった・・・・
隊長は、きちんとドアから入ってきて、俺たちが行儀悪く腰掛けている教卓に来る。
  「挟まる?ふん、仮の姿についての質問は受け付けない」
仮って・・・・あっちが本流ですが・・・・
  「うるせえよ、なんだよ、相変わらずってのは!!」
  「いやいや、褒めたんだよ、サスケ。相変わらずの妄想っぷりだ」
は?妄想?
  「ナルトは気づいてないみたいだけどね」
  「・・・・」
サスケは憮然として黙る。
妄想?
先生との用事って・・・・・妄想?!!
驚く俺に、隊長は頷いて続ける。
  「ナルト~、妄想以外ないでしょ?っていうか、妄想するしかないよね、先輩と、だなんてさ。十年早いっての。しっかりしろよ、ナルト(笑)」
了解したが、(笑)がムカツク。俺は、怒りをサスケに向けた。
  「サスケ、てめえ、妄想の用事だと?!」
  「ああ、悪いか?!それが俺たちのすべてだろ?お前こそ、スカすんじゃねえっ!!」
  「スカすだと?!っていうか、妄想ってなんだよ!!」
  「アホか?!クリスマスだって、なんの波風も立たずに終わっちまったんだ」
サスケ、言葉の使い方、間違ってるから。
  「あと、残ったイベントは、年始年末だろうがっ!!」
年始年末?
  「わかんねえのか?唐変木が」
年始年末と妄想で、どんな連想すればいいんだ!
  「・・・一緒に紅白、初詣、だろ?」
三拍溜めたな。
っていうか、お前、本当にサスケか?
なんか、どっかのオタクの人格混じってない?
  「いいねえ、サスケ、ロマンチックだねえ~」
ブッ!![←しつこいようだが吹き出した音]
隊長・・・・
  「悔しいけど、王道だね、ど真ん中だよ、サスケ」
  「だろ?こたつとか最高だよな」
  「ああ。僕と先輩じゃ、ちょっと窮屈だけど、その状況がよりそそるなあ」
・・・・・・・
なんだよ、この二人。
結局、仲がいいというか、同類というか・・・・
  「そういや、サクラはまだかな?」
あ、そうだ。遅いな、サクラちゃん。
と・・・・

ピンポンパンポ~ン♪

一斉に固まる俺たち。
  「「「校内放送???」」」

  『まさかこんな忙しい年末に集まっているとは思わないけど、もし来てるヒマジンがいたら困るので、連絡です。なお、この放送は録音で、自動です』

サクラちゃんの声じゃん。
・・・・ってか、酷くない?招集したあなたの責任は?
サスケも隊長も、固まったままだ。俺もそうなんだけど、二人の呆然とした姿は笑える・・・・

  『私は忙しくて行けそうもありません。なので、今夜の会議はみんなで頑張ってね』

事の重大さとあまりの身勝手さに、俺がさらに硬直の度合いを高めたときに、隊長が小さく
  「丸投げ」
とつぶやいたので、俺はまた吹き出してしまった。

さて・・・・
  「どうしたものかな?」
隊長が言う。隊長だって、まあ、いい男だから、こんな深夜に考え深げにそう言ってる様は、絵になるよ。難しい作戦会議みたい。まさか、エロだとは思わないよ(笑)
  「どうもこうもねえだろ。本来の会議の目的を思い出せばよ」
まあ、そうだね。
  「じゃあさ、サスケの妄想でいかない?」
  「おお、いいぜ、ヤマト」
息ぴったり。
  「おい、ナルト!」
うわ!
  「な、なんだよ?」
  「お前も、それでいいよな?」
  「そうだよ、ナルト。君も会議に積極的に参加してくれないと」
  「黙ってニヤニヤされてても困るぜ。本もあるしな」
ほんとムカツクよ。こいつら。でも、
  「また本になるのかい?」
  「ああ、そうみたいだな」
とか訳知り顔で話している姿も、俺的に最高ウケタ・・・・・

2011.12.25.