逃げ水




蝉が鳴いている。
初夏のそれは、力強いが、まだ肩に力が入ったような力みが感じられた。

サスケは当てもなく、ぼんやりと白い道を歩いていた。
ホコリが舞い立ち、しかしそれも無風の景色の中では、すぐに鎮まる。
少しは長くなりそうだった暇つぶしも、事情変更による契約解除という突然の幕切れ。
そんな事も、長い間の任務にはあるだろう。
急に暇になったサスケは、熱くなり始めた空気の中、小川に沿った小道を歩く。
目の前を黄色い蝶が横切り、それを追った目は、白い道の向こうに輝く水溜まりを見た。
サスケが歩くと、その鏡面のような水溜まりも先に逃げる。
  「逃げ水か」
その蜃気楼の映像は、サスケを苦笑させる。
自分の人生のすべてがそこに象徴されているようで、サスケは手を前に伸ばした。
指の隙間に、ゆらゆらと揺れる蜃気楼を捕らえる。
でも、それは、自身がここにとどまっているから。
進めば、また遠くに行っちまう。
手を伸ばしたサスケの、濃い影が白い地面に落ちる。
その手の影は、あてどもなくゆるゆると前に伸び、ただ闇雲に前に進む自分の、正確な投影のようだった。
サスケは軽く嘆息すると、まっすぐ空を見上げた。
高くなる太陽は、もう顔を真上に向けないと見えない。
サスケは、低い土手を降りると、緑の中に仰向けに横たわった。
小川から、涼しい空気が上がってきて、サスケが横たわる緑の下生えにまとわりつく。
さわやかな空気があたりに満ちる。
横になってみれば、適度に草が生い茂り、サスケはそのまま、葉の陰から覗く太陽をみながら目をつぶった。





気づくと、太陽が若干真上から傾きかけている。
その分、暑さは強くなっていた。
のそりと起き上がる。草の青臭い、濃い匂いがした。
と、左に寝ている人間を認めて、ビクリと緊張する。
  「な・・・なにやってんだ?」
  「お前と同じだろ?昼寝、かい?これ」
カカシはのんびりとした口調で、草の影からサスケを見た。
  「いつ来た?」
  「忘れたよ。だいぶ前」
カカシは、いつもの服装で、左目を隠し、ただ、覆面はしていなかった。喉の方に落としている。
  「俺の後をつけたのか?」
ちょっと期待して、そんなことを言ってみる。
強い午後の光は、容赦なくカカシの顔を照らし、その髪はまぶしいぐらいに光を跳ね返していた。
  「まさか(笑)。7班は休みだけど、俺だけ任務入れられちゃったんだ。今夜からね」
  「ふうん」
  「で、家にいても落ち着かないし、出掛けて、飯でも喰おうと思ってさ」
なるほど。
ここは、その通り道になる。
サスケは軽く伸びをした。
横に寝ているカカシを見る。

立ち止まっていると、手に入る・・・・か。

サスケが笑む。
その雰囲気に、カカシがこちらを見た。
  「なに笑ってんの?」
  「好きだぜ」
  「また馬鹿なことを」
そう言って、カカシも別に不快ではないようだ。
サスケは、身を乗り出して白い道を見る。
ムッとした空気が堆積している。
そして、そこからは、もう水溜まりの幻は見えなかった。




2008.05.05.

拍手お礼小説。お題作品。「25/25 Title」様より。[現在閉鎖されています]
継続して書いていくつもりでしたが、頓挫しました・・・・