逃げ水
蝉が鳴いている。
初夏のそれは、力強いが、まだ肩に力が入ったような力みが感じられた。
サスケは当てもなく、ぼんやりと白い道を歩いていた。
ホコリが舞い立ち、しかしそれも無風の景色の中では、すぐに鎮まる。
少しは長くなりそうだった暇つぶしも、事情変更による契約解除という突然の幕切れ。
そんな事も、長い間の任務にはあるだろう。
急に暇になったサスケは、熱くなり始めた空気の中、小川に沿った小道を歩く。
目の前を黄色い蝶が横切り、それを追った目は、白い道の向こうに輝く水溜まりを見た。
サスケが歩くと、その鏡面のような水溜まりも先に逃げる。
「逃げ水か」
その蜃気楼の映像は、サスケを苦笑させる。
自分の人生のすべてがそこに象徴されているようで、サスケは手を前に伸ばした。
指の隙間に、ゆらゆらと揺れる蜃気楼を捕らえる。
でも、それは、自身がここにとどまっているから。
進めば、また遠くに行っちまう。
手を伸ばしたサスケの、濃い影が白い地面に落ちる。
その手の影は、あてどもなくゆるゆると前に伸び、ただ闇雲に前に進む自分の、正確な投影のようだった。
サスケは軽く嘆息すると、まっすぐ空を見上げた。
高くなる太陽は、もう顔を真上に向けないと見えない。
サスケは、低い土手を降りると、緑の中に仰向けに横たわった。
小川から、涼しい空気が上がってきて、サスケが横たわる緑の下生えにまとわりつく。
さわやかな空気があたりに満ちる。
横になってみれば、適度に草が生い茂り、サスケはそのまま、葉の陰から覗く太陽をみながら目をつぶった。
◇
気づくと、太陽が若干真上から傾きかけている。
その分、暑さは強くなっていた。
のそりと起き上がる。草の青臭い、濃い匂いがした。
と、左に寝ている人間を認めて、ビクリと緊張する。
「な・・・なにやってんだ?」
「お前と同じだろ?昼寝、かい?これ」
カカシはのんびりとした口調で、草の影からサスケを見た。
「いつ来た?」
「忘れたよ。だいぶ前」
カカシは、いつもの服装で、左目を隠し、ただ、覆面はしていなかった。喉の方に落としている。
「俺の後をつけたのか?」
ちょっと期待して、そんなことを言ってみる。
強い午後の光は、容赦なくカカシの顔を照らし、その髪はまぶしいぐらいに光を跳ね返していた。
「まさか(笑)。7班は休みだけど、俺だけ任務入れられちゃったんだ。今夜からね」
「ふうん」
「で、家にいても落ち着かないし、出掛けて、飯でも喰おうと思ってさ」
なるほど。
ここは、その通り道になる。
サスケは軽く伸びをした。
横に寝ているカカシを見る。
立ち止まっていると、手に入る・・・・か。
サスケが笑む。
その雰囲気に、カカシがこちらを見た。
「なに笑ってんの?」
「好きだぜ」
「また馬鹿なことを」
そう言って、カカシも別に不快ではないようだ。
サスケは、身を乗り出して白い道を見る。
ムッとした空気が堆積している。
そして、そこからは、もう水溜まりの幻は見えなかった。
2008.05.05.
拍手お礼小説。お題作品。「25/25 Title」様より。[現在閉鎖されています]
継続して書いていくつもりでしたが、頓挫しました・・・・