夏の雪




ふと首筋に小さな痛みを感じて空を見上げた。
それは、高い木の梢から落ちた一滴の朝露だったが、感覚の類似は俺に幻を見せた。
首に落ちた水滴は、俺のイメージの中で、白い冷たい氷の結晶に変わり、それらがゆっくりと舞い落ちてくる様が見える。
また暑くなりそうな今日の始まりの朝は、東から薄紅のグラデーションがかかり、それはいつか見た故郷の冬の朝に似ていた。
白い息を吐きながら、こんな未来が来るなんて思いもしなかった幼い俺と、能天気なアンタの並ぶ後姿。
風は、わずかに火の国から吹いてきているようで、俺はガキみたいに幻の雪を手に収めようと手を宙に伸ばした。



数日前、珍しく、木の葉の噂を耳にした。
噂する連中の口の端に、「写輪眼のカカシ」があって、俺は笑っちまった。
カカシ・・・・・か。
そっちもいろいろ衝突してるようだな。
先生を返上して、アンタも頑張っているんだろうか。



つかむ雪は、初めから溶けた夏の朝露。
俺の手は、それを掴むことはできないが、でも、心の中に降る雪は、静かに積もっているようだよ。
雪の朝。
振り向いた顔面に、はしゃいだ俺の雪球を受けて、怒りもせず雪を拭うその整った顔。
俺の視線に、色違いの目を向けて「結構痛い(笑)」とだけ言った。
俺を見るその目の奥に、この殺伐とした未来の予測はあったんだろうか。

俺を拘束してまで引きとめようとしたアンタ。
俺に理屈を垂れに来たその口で、術をとなえているんだろうか。


カカシ。
ちょっとした瞬間に、俺のこと、
・・・・・・・
思い出したりするんだろうか。



冷たい痛みは、感覚が麻痺するような脳裏の寒さの中で、たぶん心地よい。
後悔してるのかな、カカシ。
部下を抜け忍にしちゃったことは、アンタの心を引っかいているか。
独りここにいて、俺はそれを、ホントは願ってる。
アンタの心に傷を残して、実はそれが俺のここでの支えだってこと、アンタはわかってくれるだろうか。
傷が、アンタの記憶に俺を刻印しただろう事、こんなにも残酷な俺の心は喜んでいる。



昇り始めた太陽は、辺りの露を一斉に蒸散させる。
雪まで持っていかれないように、俺は、そっと記憶の底に沈めた。


怒っても、諌めても、でも、たぶん最後には抱きしめてくれるだろうって裏切りながら期待する俺は、今朝も火の国の方を見る。


2008.06.26.

これもサルベージ。サスケが里抜けして間もなくの頃。