花陰




ただ日差しを遮るだけなんだから、その影は薄暗いだけだろう・・・

と思っていたら、見事にピンク色だった。
そのあまりに陳腐な効果に、サスケは黙して根元に座る。
まだ三分も咲いていないくせに、その堅いつぼみのままに、影も色濃いピンク色をしている。

仰向いて、元気に茂る枝の上の、雲が多い空を垣間見る。
肌寒く感じ、右手で左の肩を抱く。
到達点を直に見て、そうすれば、桜の色は邪魔なだけだった。
わずかに風が吹き、大きな枝ぶりは、大げさにざわめく。

掻き分けて、いや、手折って散らせば・・・・

手が届く・・・・







  「うわっ・・・・」

情けなくも声を上げてしまった。
垣間見た空の隙間に、いつの間にかカカシがいた・・・・
  「そんな顔、サクラに見せられないな(笑)」
  「!!・・・ナニやってんだよ、てっめぇ~」
カカシはそれでも笑いながら、サスケのところに降りてきた。
  「お前が来たんだろ?俺は最初からいたよ」
  「!!!」
全く気づかなかった。
顔を上げてカカシを見上げる。
濃い花影の中に、淡いピンクの迷彩をまとって、そのままどこかに消えそうな錯覚に陥りそうだった。
思わず手を伸ばして確かめたくなるのを、我慢する・・・・

  「お前は直情的だからな」

カカシがいきなり言葉を発する。
  「物事には裏だけじゃない、いろんな面があるんだよ」
  「・・・・なんの話だよ?」
  「俺に似てるからさ(笑)」
  「はあ?」
  「回り道しないようにっていうか・・・」
枝先の、もう開ききっていた花から、一枚の花弁が落ちる。
それを手に受けて、カカシが嘆息した。

  「でも結局、遠回りしちゃうんだよな」

その横顔に、サスケの心臓が強く拍動する。
いつもはとぼけた様子のカカシなのに、桜に彩られたそれは、サスケの知らない大人の顔をしていた。
好きと自覚して、それを飲み込んで生きてきたつもりだったが、

  まだ、ダメだ・・・・

とても抱えきれない・・・・・
きっと、たぶん・・・・・









風が強くなってきた。
さっきまで垣間見えていた青い空も、今は千切れる雲の隙間に消える。
まだ続きそうだった言葉の端を飲み込んで、カカシが空を見上げた。
言葉なんかなくても、サスケには痛いほど伝わる。
春の寒空に、こうして同じ時間を共有して。
今はもう、戻る姿勢を見せるカカシを見る。
その背が愛おしくて、サスケは自分の胸元を押さえた。
回り道しないようにって、俺みたいなのに心を砕く。
そんなアンタには・・・・

アンタには、そう言ってくれる人はいたのか?

そう言いかけて果たせない。

カカシが桜色の中から出る。
いつものカカシに戻った色は、その風情まで「いつも」に戻す。
その背を追って、サスケも立ち上がる。
さっきまでの印象は、深く心の奥に沈殿し、
こういうことを繰り返して・・・・

俺はカカシのことを忘れられなくなるんだろう。

カカシと並んで歩き、ふと桜を振り返る。
曇った空の下。
暖かい色じゃなく、薄墨を含んだ潔い花。
さっきの感触が瞬時によみがえり、サスケはあわてて前を向く。


「いなかったよ」と言い返されるのが怖かった、さっきの瞬間を。


2009.05.10.

2009.05.07. 拍手アップ