鳴門の案山子総受文章サイト
結婚おめでとう・・・・
みんなにそう言われて、私は本当にサスケ君と一緒になれた喜びを噛みしめる。
子供も生まれて、三人で帰って来た里だけど、改めてそう言われると、ちょっと日常の当たり前になっていた家族生活を、嬉しさと共に実感した。
六代目は、私たちの帰還に、表向きは冷静に、迎えてくれた。
サスケ君の過去があれば、火影としては仕方ない。
でも、同期が内輪の結婚のお祝いも兼ねた歓迎会をしてくれた時、あろうことか、その終盤に、六代目・・・いえ、先生が顔を出してくれたのだ。
大歓声に、「いや、すぐ帰るから」と相変わらずの先生っぽさで、席に座る。
ほとんどサスケ君やナルトと話をしていたけど、本当にすぐに腰を上げて、去り際、私の腕を掴んで引き寄せた。
「あ・・・先生、じゃない、六代目、ありがとう」
六代目、に何か言いたそうだったが、それは飲んで、先生が言う。
「本当によかったな、サクラ」
「うん」
無理に飲まされた数杯のアルコールで、先生の見える部分は少し赤くなっていた。
私がそれに目を奪われて見つめてしまった時間と、先生が私の腕をすぐに離さなかった時間は、同じくらいだったと思う。
背後で、「六代目!!二次会行きましょう!!」という声がかかって、先生ははっとして私の腕を離す。
「オレはもう帰るよ。またな」
「あ、ええ」
ろくな挨拶もできず、私たちは互いに背を向けた。
なんだろう・・・・
私は頬に手を当てる。
先生・・・
がやがやと宴席を移動するざわめきが遠くに聞こえ、私の足は宙を歩いているようだった。
なんだか頬が熱い・・・
「サクラ」
サスケ君が私を呼ぶ。
「どうした?サラダが心配か?」
娘は両親に預けてある。今夜の歓迎会のために、周囲はみんな協力的だった。
「うん・・・ちょっと・・・」
「そうか。じゃあ、お前は帰れ。オレがみんなに説明するから」
「うん。お願いするわ」
このとき、もしかしたらあるべきだった罪悪感は微塵もなかった。
ただただ混乱していた。
連れだって歩き去るサスケ君と同期の背中を見送って、私はそのまま実家とは違う方に歩き出した。
火照った身体と、頭を冷やすという理由は言い訳でもなんでもなく、事実で、やっぱり私に罪悪感はなかった。
古い平屋の前を通り過ぎる。
今、先生は、ずっと火影の仕事で執務室と里が用意した官舎にいるから、もうここにはいない。
暗い窓を一瞥して、私の足は、まっすぐ、里の東を流れる川を目指していた。
そこの土手には桜並木があって、春には辺りの景色の明度をいっぺんに上げるくらい、美しく桜が咲き誇る。
その土手に上って、川に沿って歩き初めて・・・・
すでにもうそこに人がいるのを見た。
葬ったはずの想いが、実は、どこにも散っていないことを、このとき私は本当に思い知った・・・・
◇
私は自分で大人のお付き合いが出来ていると思っていた。
表向き、私はサスケ君に夢中で、まあ、それは事実なんだけど、社会的人生を生きるって意味で好きなだけだった。
つまり、恋愛して、結婚して、というライン上で。
でも、先生は違う。
どう考えたって、それは背徳にまみれた関係だ。
先生はずっと大人で、私よりすべての経験値が高い。
もちろん、任務や仕事だけじゃない、恋愛においても、セックスでも。
そんな大人を「落とした」ことが嬉しかったし、隠し通さなければイケナイコトも、秘密を持っているという嬉しさに変わっていた。
先生の気持ちは知らない。
たぶん・・・困っていたかも知れない。
でも、私には、そんなこと、些事に思えた。
二人がいいならいいじゃない、と、若い勝手な考えで、突っ走っていた。
セックスは、当たり前に、先生が私に尽くしてくれた。
そう、私を女にしてくれたのは、カカシ先生だった。
べつに、任務上とか、差し迫った何かとか、そんなドラマチックな要素は全くない。
先生は、カッコよくて、強くて、絶対的に私たちの味方で、チラ見した素顔は、とんでもなくいい男で、私みたいなませた女の子が憧れと混同した恋に落ちるのは必然だ。
だから、私は、医療忍術に向いている自分の資質を、先生を落とすのにも使った。それだけの話だ。
医療忍術に向いている資質というのは、言わずとしれた対象の観察とそれに伴った医療行為の緻密さだが、先生にも理性のガードが下がっているときがあって(つまり観察)、そこを狙って強引に私が特攻しただけ(ピンポイントに狙った緻密な作業)。
でも、今思えば、それは恋愛じゃなくて、
ただ先生を、困らせただけだったのかもしれない・・・・
「サクラ!どうした?」
先生は驚いて、こちらに駆け寄ってくる。
その懐かしいすべてが、私に目眩を起こさせる。私は、ほんとうにどうかしてしまったかのように、そこに立ち尽くす。
先生が側まで来て、それでも、今の立場が、今はこの人を支えていた・・・
いや、今の立場が、この人を縛っていた・・・・
「どうしてここにいる?サスケ達は?」
「二次会」
先生は混乱しているようで、私の言葉を繰り返す。
「二次会?お前は?」
「サラダ」
「え?サラダがどうかしたの?帰らなくていいのか?」
そこまで会話が進んで、私はようやく、この流れに笑う余裕ができた。
「は?なんだよ、サクラ。どうしたの?」
「じゃあ、先生はどうしてここにいるのよ?」
暗い中で、でも空気が一気に時間を巻き戻す。
私は、頭上に、葉桜が風にうねる大きなざわめきを聞いて、先生を見上げる。
火影が、先生に戻って、先生はあの日の大事な恋人の面差しだった。
「気がついたら・・・ココに来てたんだ」
先生の声が風に飛ぶ。
私はその風下を見て、でも、何も考えていなかった・・・