こういうのがお好き
「なんだよ、これ!!!」
カカシが怒鳴りながら、木遁の家の中に入ってきた。ぶわっと一緒に外の砂埃も入ってくる。
「ゴホッ・・四柱家の術ですけど。ご存じでしょ?」
ヤマトが『シーーッ』と奥の部屋を指さしながら、咳を押し殺して言った。奥の部屋では、疲れ切ったナルトが爆睡中だ。ナルトの修行が軌道に乗り、ようやく光が見え始めた、ある夜である。
しーーっと言われて、慌ててカカシも声を潜めて返す。
「はぁ?ご存じじゃないよ。何個もあるじゃないの!!迷ったよ」
先輩、とヤマトは嘆息する。
「家は個じゃないでしょう。棟ですよ。」
「そんなこといいから。なんなの、その・・・何棟も!!」
「余裕で作れましたよ、先輩、遅いから(笑)」
「う、うるさいな。膀胱が悲鳴を上げてたんだよ!!俺だって早く戻りたかったけど、止まらないんだ、これが」
「それは膀胱のキャパの問題じゃなくて、年齢の問題かと、」
「おいっ!!」
「先輩!!静かにっ!!!」
「てめー・・・・いやいや、そんなことじゃなくて。なんで、こんなに家建ててんの?」
「目くらまし」
え!!と、カカシが後ずさる。軽く頭を指さし、ヤマトを見た。
「頭、やばいんじゃない?」
「それ、馬鹿にしてるんですか?」
「うん。こんな更地で目眩ましもないだろ。チャクラの無駄遣いだよね~」
「でも、先輩、迷ったんでしょ?」
「え?!」
ヤマトは、バックパックをゴソゴソやりながら、カカシに言う。
「何秒くらい迷ってました?」
「えっと・・・あっち行って、こっち行って・・180秒ほど・・・」
「カップラーメンできますね」
「・・・・・」
「敵が来ても僕らなら、瞬身で、かなり行けますよ、180秒もあればね」
「ふん。いくら俺でも、カール・ルイスの全力疾走なら苦戦するぞ」
「滅茶苦茶な混ぜっ返しはやめてください」
ちょっとだけ笑って、ヤマトは、カカシにタオルを差し出した。思わず受け取って、カカシが言う。
「え?なにこれ」
「タオルです」
確かに、白いフワフワしたタオルである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「あのさ、俺らって、無駄な会話、多くない?」
「そうですか?」
「タオルってのは、見ればわかるでしょ?俺はそういうことを言ってるんじゃなくてね、」
「風呂、沸いてますよ」
「・・・・・」
「ナルトのリクエストです」
「・・・・・ちょっと、待て」
「はい」
「俺の理解を置いていくな」
「じゃ待ってます」
「・・・・・」
カカシはしばらくヤマトの顔を見ていたが、諦めたように、タオルを頭に乗せた。
「風呂、どこ?」
「そっちの突き当たり」
「すごいね~テンゾウは。風呂付きの木遁ってどうよ、これ」
「ナルトもいるんだから、ヤマトって言ってくださいって!!」
「寝てんだろ?聞いてないって」
「ああ、いやだいやだ」
「な、なに??!!そのセリフ!!」
「僕は、そういういい加減なのが一番嫌いってご存じですよね、・・あ、先輩っ!!」
カカシは、最後まで聞かず、風呂に逃げ去った。
「困ったもんだ」
ヤマトは隣の部屋で寝付いたナルトの方を見ながら言った。
それは独り言だったが、風呂から上がって入ってきたカカシの耳に入る。
「なに弱音、吐いてんの?」
軽口を叩いて、部屋に入ってきたカカシをヤマトは見上げた。
「あなたのせいですよ」
カカシは何も言わない。よっこらしょと、ヤマトの横にゆっくり座ると、こちらを見つめるヤマトを見返す。
たっぷり時間をかけてから、おもむろに
「俺のせいって?」
と言い返した。
「ナルト」
「ナルト?・・・が、どうした?」
「先輩が、いかにも秘密、みたいなこと言うから、僕にしつこく聞いてくるんですよ」
「何を?」
「先輩との暗部時代・・・」
カカシはぷっと小さく吹き出すと、
「教えてやりゃ~いいじゃない(笑)」
と言う。
「は?なにをどう?」
「それを俺に言わせるの?」
カカシが身体を傾けて、ヤマトの膝に自分の膝をぶつけた。里ではもっさりしているカカシだが、素顔を至近距離で見れば、さすがのヤマトも、その綺麗な顔に魅せられてしまう。ヤマトは咳払いをすると、カカシから目をそらした。
「僕が言ってもいいですけどね」
『簡単に流されてたまるか』と、言い返す。
「へ~?言って欲しいね、是非」
カカシはニヤついて、ヤマトを見る。
ハンサムはニヤついても様になる・・・
目の端でチラと見て、ヤマトは立ち上がり、寝袋を広げながら、返した。
「ええ。先輩が先陣切るときは、絶対おならしますもんね、ナルトも気をつけろ、とかね」
「テ・・ヤマト、貴様、木の葉一の美形キャラに、なんてこと言うんだ」
「僕、嘘言ってませんけど」
「・・・・」
「僕はいつも最後尾でしたから、多少不快になるだけでしたけど、すぐ後ろにいた奴ら、困ってましたよ」
「多少不快ってなんだよ」
「思いっきりイヤでしたけど、気を使って『多少』って言ってるんじゃないですか」
「気を使うなら、最後まで使えよ、ホントに・・・・・もう、寝るのか?」
「寝ないんですか?」
カカシは大きく溜め息をつくと、ヤマトの隣に寝袋を広げた。と、ヤマトがそれを制する。
「先輩!、もっと離れていただけませんか?」
カカシがヤマトをにらみつける。
「あ?!なんでだよ?!」
「先輩、イビキがうるさくて、僕、寝れないんですもん」
カカシが腕を伸ばして、ヤマトの胸ぐらを掴んだ。
「いい加減にしろよ、ヤマトくん!!」
「好きだから」
「・・・え?」
「からかっちゃうんです」
「・・・テン・・・・・」
ゆるんだカカシの手をほどくと、ヤマトはにっこり笑って
「おやすみなさい、先輩」
と言った。
「ヤマト」
「はい?」
「忘れてる」
「え?なにを?」
「おやすみの・・・ってやつ」
カカシが唇を突き出す。ヤマトは無表情に返事をした。
「ああ、お休みの前のトイレですね、先輩、近いから」
「ち、ちが・・」
「トイレは作ってないんで、外でしてきてください」
カカシが何か反撃しようとする前に、ヤマトは素早く寝袋に潜り込んだ。
諦めて、カカシもおとなしく寝るだろうと思っていたら、本当に、外に出たのには、さすがのヤマトも寝袋の中で、声を殺して笑った。
2008.03.10.