プリズム




春風のハズなのに、その空をいく音は、北風みたいに周波数の高い音を出していた。
でも春は、日差しをキラキラさせて、そこここに見えない勢いを生んでいるから、冬には寒々しく感じるその音も、サイには萌え出る草木の芽吹きの伴奏に聞こえていた。
だんだん地面が暖まってくる予感に、縁側から下ろした足を軽く振る。


  「屋根の端だよ」
縁側に出てきたカカシがいきなりそう言って、サイはびっくりしたように彼を見あげた。
  「え?」
  「この音だよ。ピーピーいってうるさいだろ」
  「あ・・・ええ・・」
カカシは縁側から身を乗り出して、太陽を背にしたまぶしい屋根を見上げる。
目の上に、手のひらで庇をつくって、
  「あそこが傷んで、風の通り道ができちゃってるんだなあ~」
と、面倒くさそうに言った。
その心底面倒くさそうな声音が面白くて、サイは笑んでカカシを見る。
光線で網膜を焼かれたカカシは、サイの笑顔に気づくのが遅れた。
数秒おいて、笑っていると認識して、
  「・・・?・・おかしいかい?」
と戸惑った様に言う。
  「い、いえ・・・」
慌てて首を横に振り、でも、今度は喉の奥で声を殺して本当に笑った。
  「サイ・・・」
カカシが縁側に座り、サイを見る。
  「そんなに笑うなんて」
サイが手を伸ばし、縁側に置かれたカカシの右手に触れると、カカシの睫毛がぴくと震え、触れられたことに反応した。
  「だって、感情が」
  「ん・・?」
  「そんなに素直に心が顔に出るなんて(笑)」
サイが笑む。
カカシは「ああ」と納得したように頷いた。控えめに動いた喉仏の影が、淡い象牙色をしている。
  「そんなことで、喜んでくれるの?」
  「よろこ・・・んでる?」
カカシは頷いて、その左の人差し指を伸ばして、ちょっと上がったサイの口角に触れた。
  「・・・あ・・・」
ね、とカカシがその指でサイの唇をなぞる。
  「君だって十分素直だよね」
優しく見つめられて、はっと我に返るように、背後の太陽を感じた。

遠くでヒバリが鳴いている。
傷んだ屋根の音が、それに呼応するように伴奏した。

  「こんな事でそんなに喜んでくれるなら、もっと・・・」
  「?・・・」
  「もっと、喜ばせてあげられるよ?」
  「・・・・・・・は?」
もしかしたら刺激的なことを言われたのかもしれないと気づいたのは、目の前のカカシの表情が、心配そうにこちらを見ていることに気づいた後だった。
  「え?・・・あ・・・」
  「いや?」
  「え・・・あ・・いえ・・」
無反応を拒絶と感じたらしいカカシの目差しが、また、その内側を雄弁に語っていて、人間というよりは、犬を相手にしているような愛しい感じがした。
  「いや・・・じゃ・・・ない」
そう言い終わるか終わらないかの内に、カカシに口付けられた。
しかも
頬に。
みるみる沸騰していくように感じる頬の温度に、サイが唖然とカカシを見返した。
さっきの犬のように愛おしい顔のまま、カカシは立ち上がる。
直接的な春の日差しを真正面から浴びて、古い木造家屋を背景に、カカシは自分よりずっと年上なのに、到底抗えないような無邪気な様で立っていた。
キラキラ光っているものを見ているようで、サイは目を細める。
  「まぶし・・・」
でもそのセリフはカカシの口から出て、カカシは身体を翻し、部屋の奥に戻りかけた。
が、
  「もしかして」
そう言って、動きを止める。
サイが黙って見返すと、
  「ココにするって思った?」
と言って自分の唇を指して笑った。

またどこかでヒバリが空高く鳴き、どうしていいかわからないサイは曖昧に笑うことすらできなかった。




2009.04.17up

相変わらず消化不良。