先生と過ごす 1



先生は男だ。
・・・まあ、当たり前だな。
それなのに、「依頼」がとんでもなくて。
それも「常に」とんでもなくて。





もうご存じだろうが、今の木ノ葉は、火の国が「日本」だったときの過去の時代から、高額な依頼が舞い込むという、おいしい事態になっているわけだが、俺は、リアル[つまり原作ね]じゃあ、バリバリの主人公だから、当然忙しく、周りの配慮もあってだろうけど、その「過去からの任務」からは遠い所にいた。
俺同様、カカシ先生も、ヤマト隊長も、里の重要人物だから、そんな任務からは外されてしかるべきが、なぜかどうして、頻繁に引っ張り出されている。
つまり。
破格、らしいんだな、彼らの依頼の金額が。
里の税収の数千倍という、なんか、脳味噌が沸騰するような事態になるに至って、ようやく火影の俺の耳にも、その異常事態が伝わってきた。

執務室にシカマルと二人。
俺は、手にした今月の里の収支報告書を穴の開くほど見る。
指を折って数えて・・・・・もう一度、表を見た。
  「おい、ケタ、間違ってね?」
俺のセリフに、シカマルは、平然と言い放つ。
  「それ、もしかして、俺に言ってる?」
そうだよな。こいつが間違うわけはないんだ。わかってるさ、もちろん。
  「いや、その・・・・でも、どうして、俺に言わなかった?」
  「なにが?」
  「何がって・・・・こんな高額な依頼」
  「言ってはないけど、報告はしてる」
バサッと机に放られた綴じの書類。俺がシカマルを見ると、シカマルも目で「それ」とばかりに無言で頷いた。仕方なく、俺はその書類をパラパラとめくってみた。
過去からの依頼書だが、もの凄く高い確率で「はたけカカシ」と名指ししてある。
  「うへえ・・・・」
  「凄い人気だよなあ、あの人」
  「っていうか、過去にどんな依頼があるっていうんだよ。今とは違う兵器が充実してた時代だろうが。戦法も、状況もまったく違うのに、忍者が役にたつのか?」
俺が呻くように言い放つ。と、その後、静寂が執務室を満たしたので、「?」とシカマルを見る。
シカマルの顔は訝しげに俺を見ていた。
  「・・・・知らねえの?」
  「は?何が?」
  「依頼内容・・・・読んでねえのか?」
  「いや、読んだよ。でも、これがどういう事なのか理解できねえんだよ」
  「・・・・・」
  「暗殺とか、偵察とか、そういうんじゃねえことはわかるけど・・・・」
シカマルの表情が変わらないので、俺は、もう一度、手元の依頼書を見る。

 『仕事では漢な先生を、プライベートで泣かしてください』

だから、どういうこと?

 『先生がツンデレならもう最高!!』

なんだよ、これ?
「ツンデレ」って何のこと?
何度かの大戦で、文化が断裂しちゃってるから、細かいニュアンスがわからねえ。
冷や汗をかく俺を尻目に、シカマルは新しい依頼書の束を放って寄越した。
  「なんだよ?」
  「それ、お前とカカシさん、名指しの依頼」
  「ええ!?ツーマンセル?」
  「は・・・はははは・・・そうだな。似た傾向の依頼をまとめておいたから」
  「おい。俺の理解を置いていくなよ。俺、マジでわかんねえてっば・・・」
シカマルは俺の哀訴も聞こえないかのように、執務室のドアに歩き寄る。
  「おいってば!!シカマル!」
  「大丈夫だよ、あの人はわかってっから」
ドアがバタンと閉まる。
そりゃ、先生は、もうだいぶ依頼をこなしているようだから、理解はしていると思うけど・・・・
とまあ、ちょっとは先生の援助に期待していたわけだが、そんなにスムーズに事は運ばなかった。
というのも。
さあ、俺と先生の「過去からの初任務」、となった時には、先生は、もうすっかりひねくれている状態だったのだ。
あの優しい穏やかな人を、ここまで卑屈にしちゃうなんて、すげえよなあ、昔の女性はよ。

というわけで、俺の今日の任務は、そんなアマゾネスのご希望に添ったご依頼任務の遂行というわけです。





  「今日はお前と一緒か~」

開口一番、いつもは甘いテノールなのに、ドスがかなり効いたバリトンで言うわけですよ、この人が。
時は、昼過ぎの、場所は街の中。
オーラがもう、ひねくれてふてくされて、こんな先生を初めて見る俺は、超びびってた。
  「そうだよ・・・です、先生」
いつものように、タメで話せればいいんだけど、よくわからん状況[よくわからん依頼と先生]だから慎重にせねば。
と、スッと先生が腕を上げて、それはただ額当てで髪を抑える仕草だったりするんだが、緊張しすぎて、思わす受け身ぎみな体勢で腰を折ったびびりな俺、万歳。
  「なんだよ、ちゃんとご飯、食べてるの?」
文言だけは優しく、でも、やっぱりその語気は抉るように強く、同時に折れた俺の腰をサンダルでゴンと蹴った。
  「ぐ・・・食ってるマス」
俺のおかしなセリフに、先生は「あはははは」と笑うけど、俺は蹴られたことでせり上がる内蔵を納めるのに必死。
  「なんか変だねえ~、ナルト?」
くそ。
変にもなるよ。
わけがわからない依頼ばっかり来てるんだから。
俺は、もう一度、手元の依頼書を見る。

 『先生の女の子の部分に○×して、思いっきり苛めてください』
 『一部女のコな先生と火影ナルトでお願いします』

どどど・・・どういうこと?
オトコだよねえ?カカシ先生、♂だよねえ?

 『ツンデレ推奨』

またこれだよ。「ツンデレ」って何だよ!!!
俺が地味に身もだえていると、先生は、
  「さっさと済ませようよ」
と怒声で言って、すたすた往来を歩き始める。
ひえええ・・・・
なにがなんだよ、どうしろってんだよ??
た、助けて・・・・・

俺は盛大に弱っていたが、とにかく、先生の後を追った


2012/09/30

  続く予定・・・・