4月になれば、それは



経験の数と新鮮さが反比例することは、もちろん子供でも経験的に知っていて、
それは忍者な私も、日々、イヤと言うほど反復して思い知らされている。

それぞれの術の派手さにも、繊細さにも、力強さにも、特殊さにも、
それはもういい加減、うんざりしているところで、
  「慣れは禁物」
とかいうバカな連中には、
  「新鮮じゃないだけ」
と、お節介にも言い返してあげている。

こんな大人になるなんて。

キスにしろ。
いろんなキスも、その仕方もシチュエイションにも、もううんざりして、
子供の頃には、キスが挨拶になるなんて思いもしなかったのに。
今では、挨拶にすらならない、ただの前儀。


だから

春は素敵ーーー

淡い空の色が、その奥に鮮やかな夏を押し込めていて、

とても新鮮ーーー

 






暖かい温度を纏っているのに、素早いから肌寒い春風は足下をすり抜け、
たった今解放された何かみたいに、遠くへ流れる。

  「先生」

成熟した自分の声は、この場面では似つかわしくない。
そう思うから、自分の「ホント」を「妄想」に書き換えてしまう。

  「春が来た・・・よね」

いつもなら笑う先生が、今日は笑わない。
私の設定変更に気づいたかのように。

  「有り難いことだよ。なにもしないのに春は来る」

先生らしい文言は、そのままで。

  「そう。何回も来てるのに、新鮮よね」

  「うん」

任務帰りの足下は、軽やかな景色をよそに、運びが重く、今は立ち止まる。

  「先生とも、もう、長い、ね」

  「そうだな」

穏やかな風景に、私は自分の激情を塗り込めて、本当は、身体中で叫んでいたが、耳に入るのは、静かな、でも強い風の音。

  「また、何回も」

  「・・・・」

風は、ほんとうにただの気象現象なんだと思い知るほど、私の気持ちなんかわかってくれてないみたいで。

  「繰り返すのかな?」


先生も、疲れてるみたいに、ちょっと頷いて

  「季節は勝手に巡るよ。サクラが心配しなくても」

と、ちょっとイラッとした感じに、なんだか嬉しい自分が悲しい。

  「ねえ、先生・・・」

  「あのなあ、サクラ!」

あ、怒った(笑)

  「なに?」
  「なに、じゃない!俺は本当に疲れてるんだよ?」
  「(笑)知ってる」
  「そう、知ってるよね?」
言いながら、先生は大仰に天を仰いだ。
  「やっかいな、それはそれはやっかいな、任務だったのよ」
  「よく知ってる」
  「じゃあ、それがやっと終わったのに、なんで俺はこんなクソ寒い丘の上に立ってるわけ?」
  「ここは、春風が心地いいんだもん」
  「はあ~」
  「それに景色も綺麗なの。見て!あそこはもう桜が咲いてるよ」
  「でも、もう2時間だよ。君の乙女チックな妄想と会話に、付き合わせないでよ!」
  「乙女チック?褒め言葉ね!」
  「もう、どうでもいいよ。早く帰ろうよ」
言いざま風に背を向けて歩きかける先生の腕に、私は自分の腕を絡ませた。
  「2時間も、一緒にいてくれてありがと」
と言えば、私にベタ惚れのはずの先生は、すぐに機嫌を直して、
  「いや・・・」
と言って、私の腕を自分の腕で強く挟む。
  「先生は、私の妄想って言ったけどね」
  「うん?」
  「私のホントなんて、こんなもんじゃないわよ」
へえ~と、本当はドキドキしているクセに、年上の余裕ぶって、歩く速度を変えない。
  「それは興味深いね」
  「なあに、先生、エッチな事、考えてるんじゃないのぉ~(笑)」
  「・・・・春だもん」
  「は?」
  「動物は発情していいんだ」
へえ~と今度は私が驚く。
人間に発情期というほどはっきりしたものはないらしいが、でも、先生の告白にちょっと感動したり。

春ってやっぱり素敵ーーー






じゃあ、ここで、と山道の三叉路で私が腕を放すと、先生が驚いて私を見た。
  「どうした?サクラ」
  「だって、私、これから任務なの」
先生の目が、さらに大きく開く。
  「任務?ホントか?」
  「どうして私が嘘を言うのよ(笑)」
心地よい春風を感じながら、私の脚は、もう走りはじめていて。
  「ちょっとでも先生と春の景色、見たかったの」
  「サクラ!」
  「疲れてたのに、ごめんね」
  「・・・・おい!」
春風が、私の走るスピードで、強い風圧になる。
諦めきれない先生の私を呼ぶ声が、遠く背後で艶めいて。
これから展開する色んな景色を閉じ込めた、春という強烈な時間は、
私に新鮮な情感を注ぎ込む。

ねえ、先生。

私の「ホント」、感じてくれた?
こんなに、こんなに、


先生が好きなのよ

 

2012/04/21

超久しぶりすぎて、感覚が戻らない・・・・
いつもの事ながら、ワンパターンな終わり方でごめんなさい