驟雨 1
「また雨か・・・・」
確かにそう言った。
独り言のようなカカシのつぶやきを、サスケは心の中で繰り返す。
『ま・た・あ・め・か・・』
湿り気が少し濃くなってきたとは思っていたが、それがまっすぐな雨脚となるのに、そんなに時間はかからなかった。
サスケは天を仰ぎ、次第に強くなる雨の中で耳を澄ます。
『マ・タ・ア・メ・カ』
また、というほど、ここしばらく雨など降っていない。だからカカシのセリフは意味不明だったのだが、しかしサスケはそのせいで、言葉を繰り返したのではなかった。
ただその言葉に、普段は感情を表出しないカカシの意志のようなリズムを感じたのだ。
身の回りに落ちる雨はバチバチとうるさいけれど、遠くの山に落ちる雨はゴーーッ・・・・と静かで、じっと聞いていると気が遠くなりそうだった。
「凄い雨だな」
上を向いたまま動かないサスケに、カカシは声をかける。そうしている間にも、どんどん雨脚は強くなっていく。
「ああ・・・」
山の音に同化してしまいそうな振動で、サスケは低く返すと、首を戻した。
いつの間にか、目の前にカカシが立っている。
カカシの銀髪はもう派手に濡れていて、したたり落ちる雫の様は、いままで水の中にいたかのようだった。その発想に、ちょっと頬が緩んだらしい。
カカシは目を大きく見開くと、サスケの表情を確認して、それから肩をすくめた。
「何を笑ってるんだ？」
「いや・・・」
カカシはすぐに諦めて、軽く息を吐く。
「今日の修行、終わっていいですか？」
「ああ」
自分の黒髪からも、シャワーを浴びているかのように雨が滴っている。それを見るカカシの目にも、笑みが浮かんだようだった。
「でも、もう遅かったな。お前、ずぶぬれだ」
「（笑）」
サスケも、今度ははっきり微笑んで、それを見たカカシはやっと、さっきのサスケの笑みの意味を悟ったらしかった。
「ははは。俺も・・・みたいだね」
「空に近い分、アンタの方が濡れてるよ、きっと」
「へぇ・・・」
来た道を目で探しながら、カカシが返事をする。
「お前、面白いこと言うね。イチャパラに出てくるキャラクターみたいだ」
道を戻りはじめたカカシの背を追いながら、サスケも返す。
「俺みたいなカッコイイキャラが出てるなんてな。その本に対する認識を改めるよ」
「ははは。まあ、改めるのは勝手だけどね。スケコマシのサイテ―な気障野郎さ」
「フン」
「しかもちょい役（笑）」
進む早さを加速させ、カカシが言い放つ。サスケが一瞬足を止め、その背に言い返そうと、大きく雨ごと息を吸うと、急にカカシの足も止まった。
「サスケ」
振り返り、激しい銀の雨の間から、サスケを呼ぶ。
「あそこ」
カカシが指す方を見た。そこには雨に煙る深い緑の景色と、その中にひっそりと佇む東屋があった。
サスケは、気障野郎に触発されたことも忘れ、黙って頷いた。
思いがけなく激しくなった雨に、それはちょうどよい雨宿りの場所だった。
2008.11.24.
多分2006年に書いている。放置していました。日付はアップの日。