鳴門の案山子総受文章サイト
空気に降雨の音が満ちて、今はそれがスタンダードになる。
壁や窓の配置で雨の音に濃淡があることが、より一層その感を深くした。
ちっぽけな灰色の世界で、長椅子の上に仰向けになったカカシの白い色すら鮮やかだ。
俺の一部は、両脚を拡げたカカシの中心に押し込まれ、俺はその結合部を見る。
白い皮膚の輝度は、カカシの性器のあたりで灰色の陰毛で煙り、更にその奥は窓からの光線から外れて影になっていた。
俺はカカシの脚を腰ごと持ち上げ、奥まった部分を光に晒した。
俺の意図を悟って、カカシが身体を捻じる。
「い・・・や、サスケ、いやだ」
俺はそれを許さず、カカシに入れた性器とその脚を抱えた腕で、カカシの動きを殺した。くり抜き窓から射す曇天の淡い光は、隠微にそこを見せる。俺は、カカシをもっと嫌がらせたくて、俺を咥えているその輪郭を指でなぞった。
「んっ・・あ、やっ・・」
「かわいいよ、カカシ」
俺の台詞にカカシが呻く。嫌がるカカシを裏切って、そこは僅かに蠢動し、ピクンと動いたペニスからは雨滴のような体液が漏れた。その雫を指先に取り、先端に軽く触れる。
「!」
カカシの身体が目に見えるほどビクンと震え、自分と同じ感覚を有するカカシが愛おしい。その眺めに俺は満足して、膝の裏を掴んでカカシに押し付けたまま動く。
「あ、あ・・・んっ、あ」
カカシが羞恥しながらも、感じている声を漏らす。
多分、長椅子の木質を通して、カカシの耳骨には、大地を叩く俺より大きな雨音が聞こえている。だから、その声は、ちょっと大きい。
ゆっくり差込み、ゆっくり抜く
カカシのソコが、一部を鮮やかに裏返して俺にまとわりつく。それは純粋に、人間に普遍の身体構造のせいなのに、俺には、カカシの気持ちの表出に思えて仕方なかった。そして俺は、カカシが上がるのを待つ。
ゆっくり差込み、ゆっくり抜く
生徒に遠慮していたような先生の息は、快感を得ようとする素直な身体に負けて、喘ぐような呼吸になる。
「サスケ、サスケ、・・んっ」
「カカシ、気持ちいい?」
言いながら深く抉ると、
「はっあっ、んっ・・・」
耐え切れないようなカカシの喘ぎが雨音に混じり、水の底で交合しているような印象に陥った。二人だけの孤独は、繋がって一つになってもギリギリと俺を苛み、どうしようもない心の虚空は、いとも簡単にセックスの快感で満ちる。
人は、こんな風に出来ている
俺は、カカシを抱きながら、頭で何度も繰り返す。ただのフラストレーションだ。そう自身で断じておきながら、カカシのペニスを扱いている。何からも逃れ得ない、そう分かっていながらカカシを揺らすのを止められない。
と、いきなり、サスケの身体を何処にでも触れんとする勢いで、カカシの手が伸びてきた。状況把握に、サスケの動きが一瞬鈍る。カカシは、自身の脚を抱えているサスケの手に自分の手を重ね、より深くサスケを受け入れるように自ら腰を動かした。
「!! カカシ」
カカシは、チラとサスケを見たが、呼ばれた事には何も反応しない。ただ、唇をちょっと舌で舐めて、「フッ」と鼻から鼻濁音になりかかった息を漏らした。それは、初めて聞いても十分に理解出来る甘えの媚態で、カカシがそれを意図しているのかいないのか、とにかくサスケは、強烈に打ちのめされた。一気に体積を増したサスケに、でもカカシは、あの荒天の夜とは全然違う印象で、貪る。
気圧され気味のサスケに、カカシが言った。
「凄く、」
「え?」
「すごく、イイ」
サスケが耐えきれず、自分の手に置かれていたカカシの手を掴んでキスした。
手を預けながら、カカシが独り言みたいに言う。
「いい、サスケ、あ、あ、気持ちいい・・・」
快感に振り回されている大人は、強烈にサスケを煽り、気づくと、思いっきり動いていて、カカシの出血に気づかなかった。
◇
東屋の中は灰色に塗り込められたままで、それでも窓から外を見た俺の目は、弱くなった雨足を確認した。
背後に、静かなカカシの身づくろいの音を聞く。
もしかしたら 凄く幸せかもしれないと思った。
色んな波に翻弄されて、揉みくちゃになって、全ては外圧なのに、それを自分の人生の中で消化し、昇華して。一瞬でも立ち止まれば、すぐに恨みの激流に取り込まれるけど、息継ぎの手を伸ばせば、確かに掴んでくれる手はあって。
カカシ
カカシ
カカシ
俺の手も、あんたの何かを救い上げているのか。
互いに愚痴って、涙を飲んで、でも、俺たちは進んでいる?
「止みそうだぜ」
身仕度するカカシを気遣って、そちらは見ないようにしていたが、カカシはもう、いつもの空気になっていて、
「修業を再開するなんて、言わないよね」
などと言って、俺を苦笑させた。
カカシは奥からやってくると、座っている俺の隣に立ち、低いくり抜きを見るために、ちょっと上背を屈めた。
その動作が、初めて見たときの「カカシ先生」で、俺は心臓が痛いほどの鼓動を覚える。その動悸には、鮮烈な所有の欲望と、「先生」を汚したという罪悪感がセットになっていた。
俺が黙っていると、
「凄く体力使ってると思うんだ、セックスってさ」
と、あっけらかんとしている。そういう話題から、ずっと隔たっていると思っていた勝手な生徒の印象の「先生」のままで、カカシの口がそんなことを言う。まるでそれは、俺とじゃない他の誰かと寝てきたように錯覚させるほど、乾いていた。
「俺は全然・・・だ」
そう言った俺の発言に、俺自身がびっくりする。幼稚な幼稚な、とても幼い発言に歯噛みしそうになる。そういうことを言ってしまったことより、そういう思考を自分に許す自分自身が嫌だった。カカシと対等でありたいという思いとは裏腹に、所有の欲望が俺を満たしていることを。
カカシの静かな気配に、俺が視線を上げる。
カカシはくり抜き窓の外を見たまま、少し微笑んでいた。
照度が落ちたスクリーンの中、その顔は、その姿勢は、その腕の動きは、身震いする程カッコよくて、すべての理想なんて軽く吹き飛ぶ。
所有したい。
歯がみしたい自身の「人間」にすぐ負けて、そう思う。自分の立場も、人生も、全てがどうでもよくなって、カカシさえ自分のものなら、すべてが塵芥に帰してもよかった。
カカシのルックスにはそれほどの破壊力があった。
他の誰を好きになっても、こんなに網膜を痛めるほど、その姿に執着できるだろうか。
カカシは、顔を俺に向けた。
笑んだ唇の端が優雅に上がり、
「また、今度な」
そう言うと、急にその顔を寄せて、俺の頬に口付けた。
ホントに
反則だ・・・
甘美な息継ぎの時間は終わったが、それを否定せず、そして今度があると俺を宥める。
本当に、この人は、大人なんだ・・・
「これ以上は止まないみたいだね」
カカシがすっかり先生に戻って、外を見る。雨は煙るような小降りのまま、背景の木立を一色に塗り込める。
「ああ」
俺は返事を返し、先に東屋を出る。
「里につく頃は、またずぶ濡れだな」
カカシも隣に立って、遠くを見るように呟いた。
「ゆっくり来ていいよ。俺、怪我させちゃったから」
言いにくかったが、本心だ。でも、ちょっと居住まいが悪くて、俺は言い捨てたまま、雨の中に足を踏み出した。
カカシは黙って俺に続く。
走って来た道を、今度はゆっくり歩き、俺は自分のいろんな気まずさが雨で溶ければいいなどと、虫のいいことを考える。
余程してから、カカシが言った。
「お前の事、優しいって勘違いしちゃいそうだな、俺」
え?と俺が振り向く。
カカシはいつもの空気で、俺を見た。
「勘違いで片づけんなよ」
かろうじて反撃して、俺はまた前を向く。
腹の底から湧き上がる痙攣のような笑いを抑えて、俺は、とにかく先に進む。
この雨の中の沈黙のあいだ、カカシがずっと俺のことを考えていた、という、ただそれだけの事で、俺は、どうかなりそうなくらい、幸せだったのだ。
単純と複雑と、理性と本能と、ごちゃごちゃとすっきり、俺とカカシ。
俺は空を仰ぐ。
どんな人生でも、どんな境遇でも、どんな時間も、どんな世界も。
それが、どんなにネガティブでも。
カカシと出会って、すべてフラット。
遠くに見える雲間さえ、人生の明るい暗示に思えて、
もしかしたら、カカシでダメになる、という人生もあるのかと、
笑いながら思い至った。