驟雨 4
東屋の屋根を叩く雨の音が、
俺の耳を塞ぎ、
弾けて大気に散る雨滴の飛沫が、
俺の肺を水浸しにして、
膝を立てて半身を起こすカカシの体温が、
俺の肌を焦がす。
筋肉が動いていくのを見て、戦闘している気分になる。
筋肉は雄弁だ。
次に何をしようとしているかが・・・・
わかる・・・・
カカシの頭が落ちて、俺の下半身に噛みつく。
濡れたままの布越しに、歯すら柔らかな刺激になって、「正しいこと」をしようとする。
「カカシ・・・」
吐息か、愛撫か、わからない振動で、名前を呼ぶ。
決して、呼吸じゃない。
カカシが鼻を鳴らす。
「んっ・・・」
それは、愛しい、返事だった。
濡れた髪ごと頭部を支え、そのまま俺の真正面に置く。
口付けようとする俺の動きを、鏡のようにトレースして、カカシも俺に口付ける。
強い、
遠かった存在が、
自分の意志で、
俺に触れる。
「カカシ」
耳に雨音が溢れて、伸ばす腕は雨ごとカカシを抱き寄せる。
愛しい
愛おしい
時間は積み重ねるしか無くて。
俺は自分を騙しながら、カカシの舌を吸う。
気が狂いそうになる、こんな時間をいくら重ねても、それが是ではないことは、もう充分に知っているのに。
アンタを尊敬して、アンタの生き方を慕って、先生が好きだって言うことはよくて、
どうして、
そんなアンタに寄り添って、アンタを支えたいと思い、アンタが好きだって言うことは間違いなんだ?
カカシの暖かい吐息を感じる。
こんなに、アンタは俺を求めているのに、
カカシの中の雨は、こんなに寂しいのに、
俺を追い詰めるのは、復讐じゃない。
俺は震える手で自分のズボンを下ろし、ついでカカシの手が俺のそれを手伝う。
水で満たされたような空間は、俺の肌に暑くも寒くもなく、身体を起こして俺の手を待つカカシの肌が、よっぽど熱い・・・
腰掛けの座面に膝を折って座り、カカシの下半身を脱がす。
東屋の薄暗い空気に慣れた目には、くり抜き窓から射す淡い光ですら、鮮やかだ。
あらわれたカカシの白い腰は目に眩しく、形を成している性器は、確かにあの雷雨の日に見た、それだった。
「カカシ・・」
思わず名前を呼び、カカシの身体を引き寄せる。
ああ、こんな時にも身長差は恨めしく、抱き寄せた俺が、抱えられるようになってしまう。
「サスケ・・・」
カカシも一杯一杯の表情だ。
しかし、俺は安心するどころか、心臓がギュッと絞り込まれる感じがした。
だって、もう、本当に・・・・
カカシの瞳が光って見えるのは、互いの身体を求め合ってるからだけじゃない。
涙が落ちる前に、俺は言う。
「泣くな、カカシ」
俺の言葉に驚いたような表情をし、でも、深く肯定して、カカシが俺に口付ける。
雨の音が、耳を塞ぐ。
外の音など聞こえない。
外の世界など、もう見えない。
カカシの鼻孔から漏れる呼吸の音が、聞こえる。
もっと深く口づけようとして、カカシの頭をしっかり抱く。
剥き出しの性器が触れ合って、その接触は痛みに近い。
もう、本当に、二人きりだね
繋がらない
聞こえない
存在しない・・・・
もう、世界は、俺たちを置いて、どこか遠くへ行ってしまったような気がしていた・・・・
2010.07.17.