驟雨 3
遠くの森に落ちる雨音と、東屋の屋根に落ちる雨音が自然に絡み合い、二人を包む優しい閉鎖系は永遠に続くような気がした。
カカシを抱いたときのことが、昨日のことのように思い出される。
サスケに押され、仕方なく身体を開いたようなセックス。
ああ、クソッと、サスケは心の中で毒づく。
隣に座っているカカシを伺う。
何も考えていないような風で、じっと東屋の外を見ている。
俺のすべてを、
どうしてこの男は簡単に
一瞬に無意味にしてしまうんだろう!!
強くなりたい
復讐を遂げたい
そう熱く思い、眠らずに自分の神経に刻んで生きてきた。
それなのに・・・・
「滅茶苦茶にしたいよ」
思わず出たセリフに、カカシが振り返る。
「?・・・なに?」
「俺に干渉できないように」
「は?」
カカシがサスケの雰囲気に違和感を感じて、まともにこっちを見た。
「俺は復讐のために強くなるんだ」
「サスケ・・・」
「アンタの説教なんてクソくらえだ」
「・・・どうしたんだ、急に」
そう言いながら、こういう問答では言い負かされることなど思ってもいないカカシに、サスケはますます自分勝手ないらだちを増幅させる。
乱暴にのばした左手が、カカシの腕に触れた。
その瞬間、カカシの視線がサスケを意識的に捕らえ、その目は、サスケの勘違いでなければ「怯え」を含んでいた。
「なに?サスケ・・・・」
触れるまま、その腕をしっかり掴む。
無意識だろうが、カカシは僅かに身を引いた。
強い忍者のくせに、相手が自分を性的に犯そうとしているのを感じると、途端に、「弱く」なる。
そんなカカシの傾向につけ込んでいる自分も情けないが、されるがままのカカシだってどうよ。
形だけの抵抗で、ガキな俺を煽っている。
たぶん、無意識に。
サスケの目に、怒りとセットになった情欲を見て、カカシは渇いた喉を鳴らした。
「サスケ・・・」
「俺の邪魔ばかりする」
「・・・・・」
言いがかりに違いないセリフにも、カカシは何も言わない。
それは、飽きるほど見てきた、この人の諦念だ。
もちろんそのカカシの判断は正しくて、何がどうなろうと、今の俺は止まらない。
でも、そこに、アンタのなんの意志も介在していないと見せかける、偽りのスタイルは、許せない。
サスケは、腕を掴んだ手に力を入れて、爪を立てる。
「・・・いやだよ」
やっとカカシが、そう反応した。
「何が」
「こんなとこで」
そう言った。
「アンタに拒否する権利なんかない」
「・・・・・・」
「脱げ」
「サスケ・・・」
「早く、脱げよ」
初めて寝た、雷鳴の夜の記憶がよみがえる。
あの時は、カカシがずいぶんと大人に見えた。手なんか届きそうもない、大人の男に見えたのに。
『したいんだろ?俺とセックス』
そう言って、カカシは俺の胸ぐらを締め上げた。
俺の手足は痺れたように打ち震え、自分よりデカイ男を組み敷いて、俺は歓喜した。
最初のセックスすら教育的指導に落としやがった、カカシ主導のオチがついた夜だったが、剥けば、俺と変わらない生身の人間だってことは確かだった。
しかも高いのは、たぶん戦闘の経験値だけ。
そういやサクラが言ってた。
『先生って、凄い寂しがりやだと思う』
ああ、
そういや、あの時も、
雨が外で降っているのか、カカシの中で降っているのかわからなくなったっけ・・・・
・・・・・
「サスケ・・・」
何かと闘って、そう呼ぶ声は、雨の音に同化して、サスケの耳に侵入する。
サスケの右手の指が、カカシの胸に触れ、そのまま乳首を撫でた。
触れたそばから芯を持つ、本当は自由なカカシの身体。
「どうしてこんなに面倒なんだろうな?」
胸に触れられただけで、心の中に雨を降らすカカシには、サスケの吐露は正確に伝わったようだった。
「一つ一つは正しいよ・・・な」
そう言って、滑らかな乳首から指が離せず、そのままカカシの顔を見る。
丸い飾り窓からはいる、曇天の灰色の明るみは、カカシの顔を思慮深く見せていた。
形良い唇が開き、ちょっとだけ深く息をする。
それは降る雨に溺れそうな印象を持っていて、雨で揺らぐ光が水紋に見えたような気がしていた。
「正しいかはわからないよ。でも、」
カカシの掠れた声が愛おしい。
「・・・でも、間違ってない」
サスケの指が、カカシの乳首を摘む。
反応を我慢していたかもしれないが、空気の動きが止まるような息を飲む感じは伝わってくる。
「間違ってないなら・・・・ねえ、カカシ先生」
『先生』に、どこか痛覚が激しく刺激されているかのように、カカシの眉が歪む。
「どうして、それらが繋がると・・・」
「サスケ」
「こんなに苦しくて、何もかもが間違いになるんだよ!!!」
サスケが叫ぶように言うのと、カカシがサスケの右手を取るのは、ほとんど同時だった。
サスケの右手を両手で握りしめる。
サスケがカカシの動きの注視して、無言のまま、カカシを見た。
多分、「俺なんか、いない方が良かったよね」って言いたかったんだ。
俺なんかと出会わなきゃよかったのにな、って。
それほど、カカシの表情は雄弁で、自分の在りように謙虚だった。
「カカシ・・・」
でも
カカシはそうは言わなかった。
「今、間違ってない事を・・・」
「・・・え?」
「今、正しいと思うことを、しよう」
ああ・・・・
サスケはちょっと衝撃を受ける。
この人は、やっぱり手が届かない大人だ・・・・
そう思った。
2009.06.03.
続きます・・・・