カカシの場合




まだ若いつもりだったのに、「今夜は冷えるな~」なんていう台詞が何度も口をついて出てくる状況に、俺は結構傷ついていた。
ただ、いつもなら、間髪いれずに「オヤジくせえってばよ」と切り返すナルトも、今は任務の下準備に夢中だ。
手元の薪を火にくべる。
乾いた高い音を立てて、燃え盛る赤い薪が崩れ落ちた。

火が二人の間にあるのをいいことに、俺はナルトをじっと見つめた。
秀でた鼻梁の形よさに、今更ながら目を奪われる。
ナルトの目の色が変わってきていることを、最初に言及したのは、実は他ならぬサクラだった。


・・・・・・・・・・


あの日、不意に背中から声を掛けられた。

 「先生・・・」

声の艶に驚いて、慌てて振り返り確かめるという愚行をさらした。
そのときの空気は、どことなく散漫と無目的な感じで、気の置けない上忍相手にしか感じたことの無いそれに、俺は驚いていた。

 「なんだい、サクラ」

 「私、なんか怖いの」

目を本当に不安げに泳がせながら、そう言うサクラの薔薇色の唇を、うっかり凝視してしまう。
子供は本当に侮れない。
あっという間に、俺の広いストライクゾーンに入っちまう。

 「・・何が?」

かろうじてそう言うと、呼吸を落ち着かせて、会話に集中する。

 「ナルト」

 「ナルト?」

また意識の間隙を衝かれて、俺はサクラを見つめ返す。

 「なんか・・変わっていく感じがして・・・」

 「サクラ・・・」

その、緩やかに見上げた柔らかい視線を受け止めて、サクラの言葉を聞く。
あとは呟くように「遠くに行ってしまいそうで」と続けた。


・・・・・・・・・・


炎が揺らめき、ナルトの姿を淡く照らす。
整った鼻梁の下には、引き締まった口角。火の照り返しで、金髪は燃えるようだった。
サクラに指摘されるまでも無く、それは俺が一番よくわかっている。
ナルトが少しずつ変わっていることを。
教師として、これ以上ない喜びと・・・・・
立ち止まる俺の背を押す時間。


思わず、ページを繰る手が止まる。
気配にナルトが顔を上げた。
同じ目の色。
過去に何度も俺を見ていた色。
炎がお前の表情に陰影のフィルターを掛けて、面影はますます彼の人に似る。
その人は、ふっと笑んで、闇に消えた。
いつものナルトが俺に向き直り、無邪気に呼びかける。


 「なあ、先生」


ああ、俺の勘違いだったね。
いつからお前、そんな声出してるの?
もう、俺の小さなナルトじゃない。

短いフレーズの会話に、複雑な色を浮かべて俺を見返す。
ずっと教師でいたいずるい俺を、そんな風に見つめるな。
踏みとどまっていられなくなる・・・・


一瞬の風で炎が横に揺れ、ナルトがその視線のままに、こちらへ飛び越えて来そうで、
俺はちょっとだけ身震いした。




2008.01.02.

四代目の忘れ形見説は決定でいいのかしら?