溶ける・解ける・トケル




【ナルトの場合】


こうも暑いと、全てがシーンと鎮まり返って、みんな寝てしまっているかのようだ。
日差しが強烈な午後は、かといって穏やかなわけじゃなく、ジリジリと絶え間なく空気が焼ける音がして、そのざわめきは俺をちょっと不安にする。
いつも先生が座っていた木のベンチも、容赦ない光線にピクリともしない。ずっと遠い過去に忘れられたように、じっと何かに耐えていた・・・・

   「あら、ナルト、先生見なかった?」

振り返るとサクラちゃんが、目のところに手で日陰を作りながらこっちに来る。
手にしたコンビニの袋を俺に差し出すから、わからぬままとにかく受け取った。

と、ひんやりした空気が袋から漏れ出ていて、俺はそれを覗き見た。

   「なに?アイス?」

   「カキ氷よ。あんまり暑いから、師匠が買ってこいって。」

   「辛党だろ、ばっちゃん」

   「日本酒かける気よ(笑)」

笑って言いながら、買いに行くときここに先生いたんだけど、とキョロキョロ探している。

  「俺が来たときはいなかったってばよ」

  「そお?じゃ、それ、アンタと先生のぶん」

渡しといてね、と、暑い中にこれ以上いられないという空気をモロに出しながら、サクラちゃんは来た道を戻って行った。

時間の遺物のようなベンチに腰掛け、俺はコンビニ袋を持て余す。

  「どこ行っちまったのかなあ?」

答えなどないのに、何かを取り繕って間を持たせるような意味の無い独り言を言いながら、俺は袋を目線に上げた。
炎天下、ひんやりとした空気をけなげに発しながら、それはゆっくり溶けている。
容赦ない太陽の下で、溶けるしかないカキ氷は、半透明のビニルの中で、
まるで俺の邪な情動みたいだった・・・・・





【ヤマトの場合】


   「何してるんだい?」

ナルトに声をかける。おそらく反射的に飛び上がるくらいには熱いベンチに、まるで苦行者のように座っていた。

   「何もしてないってばよ」

僕が望んだ答えを返さないことで、ナルトは何かに納得しようとしているようだった。
真上から射す光は、圧力を持っているかのように強く重く、ナルトの上にのしかかっている。僕を見るナルトにも、同じような僕が映っているに違いない。

   「いつからいるんだ?」

僕にしては珍しく、ナルトの何かに付き合って、太陽を見上げる。
数秒の直射日光だけでも、わめき散らしたくなるのに。
ナルトは黙って、手にしていたコンビニの袋を差し出した。
中で、チャプンと音がする。

   「・・・なに?」

   「さっきまでカキ氷だったってばよ(笑)」

   「あ・・・そう・・・」

こんなに暑けりゃ、溶けるのにそう時間はかかるまいが、でもたぶん・・・・・
僕はナルトの睫が頬に長く影を落としているのを見る。

ずっとここに座ってたんだな・・・・

ナルトの行動をトレースして、僕は始めて、自分が少し苛立っていることに気づいた。
意識せずに、ごく自然にここに足を向けた自分の内心が、途端にナルトで増幅された気がして。

   「じゃ」

僕は来たように、穏やかに帰る。
太陽のせいで死んだように静かで白っぽい景色の中、僕は焦燥を抑えている自分に気づく。
コンビニの安っぽい袋の中に、カキ氷のプラスチックの入れ物が、2つあったのを、僕は確かに見た・・・





【俺の場合】


「うっ・・・・あ、・・・」

その冷たさにびっくりして、思わずもらした声は、若干の非難を含ませようとしたのに、語尾が震えて途切れた。
かっこわるい・・・・と、自虐的な気分に陥る暇も無く、その指がグッと内側を抉る。

  「いや・・・っ・・・あああ・・・」

身体が震える。声はもう、俺のコントロールじゃない。

  「熱い・・・」

背後で、つぶやくように言う声が聞こえる。

  「すぐぬるくなっちゃう」

勢いよく指を抜かれて、「ひっ」という息が漏れ、やはりあえて指を冷やした悪戯を知った。

  「そんなに欲しいのかしら?」

笑みを含んだ声で言われて、自分の下半身の熱が、じんわりと体内に広がるのを感じる。

  「体・・・こっち向けて?」

俺は唯々諾々と身体を反転させ、真正面にサクラを見た。男どもから、形がいいだの大きいだの言われる俺の性器も、サクラの前では、ただのちっぽけな熱の塊に見える。自分ではそれを放出できない消極的な・・・・

サクラの背後にある大きな窓は、夏の盛りの白い大きな雲を映し、隙間に目が眩むような深い青の空が見える。遠くから聞こえるような蝉の声が俺の鼓膜を静かに震わせている。
薄暗い室内で生白い肌を晒す行為は、背徳的で、立場も年も忘れて、俺はこの瞬間だけに没頭しようとしていた。


サクラの手が、俺を握る。
みっともなく溢れていた粘液が、卑猥な音を立て、こんなことをされながら、その音がサクラにどう聞こえているか、羞恥に悶えそうになる。

  「わかってるのよ」

サクラが俺の先端に舌を這わせて、こちらを上目遣いに見た。白い床の反射で、サクラの顔はとても美しく見えた。

  「・・・何?・・・何を?」

俺の声は掠れていて。

  「ナルトだけじゃ・・・」

俺の身体がビクッとする・・・・

  「足りない。隊長だけじゃ足りない(笑)」

そこまで言って、サクラが俺を吸引する。
静かな室内に、その音は猥雑すぎて、俺の身体のどこにも、それに抗うすべは無く、あっという間にイってしまった。
喉から漏れた「くっ・・」という呻きと、一瞬で汗ばんだ腰。そして、イクと霧散するはずのドロドロな感情は、サクラが相手だと、晴れることがない。

  「こんどは私の番よ」

サクラが俺を飲み干して言う。
息継ぎをしないまま、また、透明なプールの底に潜っていくような、息苦しさは、愛しい気持ちと綯い交ぜになって、今の俺の正しい気持ち、そのものだ。

窓を見あげる。

強く吹いた風が、街路樹を揺らし、
その葉の隙間の空は、
やっぱりどこまでも深く青い・・・・・



2010.09.14.

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