キンと冷えた
質量があるんじゃないかってほど、吐く息が白い。
いつにまにかリズムを刻む歩みに乗せて、おもしろがって息を吐いた。
寒空の下に、俺が厭う里が震えている。
俺のルーツで、俺が全力で愛して、俺をこの白い息並におもしろがっている里。
冬の景色は色あせて、でも、今日は穏やかで風はない。
引き裂いたような雲の間から、太陽が時折顔を覗かせて、それでもやっぱり、里は寒かった。
平和じゃない。
白い息を見ながら、俺は考えるともなく考える。
泣いても拭いきれない悲しい事や、
すべて捨ててもかなわない事や、
命に引きかえても守れないものがある。
だから、
平和かと問われれば、平和じゃないと答える。
本当は綺麗な一冊の本だったのに。
俺は、淡い色の太陽を見上げて歩く。
本が好きな俺は、よく自分の人生を本に例えてみたりしていた。
子供のころは、もう、忍者が俺の天職だと思っていたから、日ごとに開けていく忍者への、俺の成長の記録が嬉しかった。
全力で走って、全力で信じて、それでもまだ、足りなかった・・・・
雲がちょっと太陽を隠す。
たったそれだけで、里は気温を数度下げたように感じる。
息も、もっと白くなりそうなものだが、空気が澄んできて、白さが溶けるように消える。
足下には、凍りかけた水溜まりがそこここに、トラップみたい。
そう、白い本も、いつも、ウキウキすることで埋められるわけじゃない。
親父の死の意味を、自分なりに解釈したいと思っている必死なうちはまだ良かった。
オビトが死んで、先生も失って、
また太陽が射す。
ははは・・・いつもこうだ。
俺の人生に、関係ないんだよね、時間の流れはさ。
でも、こういうことに救われてるって思うには、
俺はまだ若いだろ?
ねえ、父さん・・・・
「先生!!!」
俺は目を上げる。
さっきまで空を見上げていたのに、今は足下の泥に気を取られていた。
上げた、目線の先にはナルト。
「ナルト」
俺は片手を上げる。
ナルトは、もうすぐ俺を圧倒しそうな成長期の身体で、泥だらけの道をこっちに走ってくる。
「器用だな、先生!!」
ナルトの目が輝いている。
「ああ?」
「こんな道でもイチャイチャ読んでる(笑)」
もう、アクセサリ-だよ。
喉の奥で言って、ナルトの歩幅を見る。
俺の隣には着地しない。
そのまま行きすぎると知って、俺はなんだかガッカリして、そして、そんな自分に驚いた。
「じゃ、先生!!またな!!」
フル装備ですっ飛んでいくお前の方が、凄いぞ。
そう目で言って、でも、伝わらないのは分かっている。
俺も手を上げて挨拶した。
と。
「あ、先生!!」
背後でナルトが叫ぶ。
振り返った俺の目の間に、なにか飛んできた。
「うわ、なによ、お前」
手裏剣だったら、ちょっと俺でもやばかったぞ。
危ないな、と文句を言おうとして、でも手にしたモノを見て、言葉が喉に詰まる。
あわててナルトを目で追ったが、もう、遥か遠くにいた。
「せんせ!メリークリスマス!!!だってばよ!!」
そう叫びながら。
「ナルト・・・・」
太陽は、すっかり雲に隠れて、いよいよ里は陰気くさくなってきた。
泥も今は白っぽく凍って、俺は凍える指先に息を吹きかける。
俺は歩きながら、ナルトが投げてよこした紙包みを開く。
それは、明るい茶色の本のカバーだった。
俺は笑んで、ちょっとイチャイチャに当てて見る。
ぴったりだ。
可笑しくなってきた。
そこにメッセージが入っているのに気づく。
『もういい年なんだから、エロはこっそり見なさい』
俺は大笑いして、硬い道を、最前のリズムで歩く。
おせっかいな奴らだと、俺は笑いながら泣きたくなる。
ナルトも、サクラも、テンゾウも、
いつも、俺が、自己憐憫に浸ると、かっこよく登場するんだ。
あいつらの、真面目に、ひたむきに、こっちに向けてくる人間らしい優しさを思って、
俺は、人気のない道で、泣いた。
あいつらが、俺を苛めるよ、父さん
そう言って、俺は、笑い泣きしながらメッセージカードを握りしめた。
2009.12.23.
ファザコン