15日の憂鬱




テンゾウが来た。
  「先輩!!」
  「ああ、テンゾウ。どうしたんだ?」
不意に現れたテンゾウは俺のアパートの前で、なんか不穏な雰囲気を漂わせている。
高くなり始めた太陽は、俺のアパートの突き出た庇(ひさし)に遮られ、ちょっと暗い空間を作り出していた。
  「なに、お前。どうしたんだ?」
  「あ、や・・・・ええ~っと・・・」
しばらく観察して、俺はやっと、テンゾウがいわゆるモジモジってやつの真っ最中であることに気づいた。
  「なにしてるんだよ?へんな奴だな?」
  「先輩、今、大丈夫ですか?」
  「え?時間ってことか?・・・・うん、まあ、いいよ」
途端にテンゾウの顔がパッと明るくなる。
  「あ、でも、部屋はダメだぞ。ちょっと取り込み中で・・・」
つまり、汚いってことなんだけど、今度は、見るも無惨に肩を落とした。
  「さすがに玄関先では・・・ちょっと・・・」
  「・・・んじゃ、ちょっとだけな。部屋かたづけるから、待ってろ」
  「あ、いいんです!!すぐです!!すぐ終わります!!」
  「あ、そぉ?じゃ、どうぞ」
俺は、テンゾウを部屋に招き入れる。
好きなとこ座って、といって振り向いた俺は絶句した。
そこに居たのはテンゾウではなく、華奢でかわいい黒髪の女の子だったからだ。
しかも・・・・全裸・・・・
  「だだ・・・だれ?っつーか、なにやってんのよ、テンゾ・・・」
  「テンコです」
  「はあ?」
と、そのテンコが俺に飛びついてきて、俺を背後のベッドに押し倒した。
  「なっ!!テンコさん!!っつーか、てめぇ!!」
テンコは、テンゾウとは思えないほどの変化ぶりで、このまま上に乗られっぱなしだったら、俺の下半身まで変化しそうなエロかわいさだった。
ナルトの変化ですらモヤモヤするのに。さすが、上忍、しかも暗部・・・・・
いや、感心するとこじゃないぞ、俺!!
  「なにやってんだよ、きっさま!!」
  「プレゼントですよ、先輩!!」
声はテンゾウだった・・・・・
テンションが一気に下がる。
  「ププ・・・プレゼント?」
  「だって、先輩、今日、誕生日じゃないですか」
  「え?あ、・・・ああ」
忘れてた!!
っつーか、忘れようとしていた、俺の精神が!!
だって、悲惨な思い出しかないんだもんなー。
かわいい彼女でもいれば別なんだろうけど、なぜか、野郎どもに好かれるこの体質。
毎回、その野郎どもが、俺を巡って、余計な火花を散らしやがる。
  「忘れてた・・・・」
去年も、一昨年も・・・・ああ、そんなことを繰り返して・・・・
  「テンゾウ、早く帰れ」
  「ええっ?!もう?」
  「すぐすむって言ったろうが!!」
  「えへ・・・そうですけどぉ~、先輩次第っていうかぁ~」
や・め・ろ、きさま!!
声が、テンゾウなんだよっ!!!
  「いいから、早くどけ!!俺の誕生日はなっ!!」
  「はい?」
  「俺の誕生日は、みんな知ってんだよ!!」
  「??それで?」
  「に・・逃げ遅れたら・・・どうする・・」
テンコが不思議そうな顔で俺を見つめた。
と、そのとき。
  ピンポーン、ピンポーン・・・・
  「ぎゃーーー!!きたっ!!」
ドアの外で、明らかに、すでに争っているらしい声がする。
  「俺が先だろ」
  「うぜえ、俺の方がいい女だ」
ああ、発想まで同じだよ・・・・・
いつの間にか玄関先に行ったテンコは(全裸)、そっとドアの横の窓から外をうかがう。
  「サスケとナルトですよ」
あ~・・・・・俺の教育が間違っていたんだな。
  「あ、道の向こうに、鼻に傷のある・・」
  「イルカ先生」
  「そのイルカ先生といっしょに、千本をくわえた・・」
  「ゲンマ」
  「サイもいますね~」
いったい、何が、どうして・・・
  「すごいな先輩。好かれてるんですね~」
さすがのテンコも、驚いて言う。
  「俺の誕生日なのに、いつもこうだ」
  「え?だって、みんなお祝いにくるんでしょう?」
あ~あ、お前は知らないんだよ。
今日だって、きっと、俺が、みんなにそれぞれキスの一つでもしてやらなきゃ、収まらないんだぜ。
主役が、なんでお嬢様達をもてなさなきゃなんないんだ・・・・
と、いつのまにか変化の解けたテンゾウ(服を着ている)がこっちをじっと見ている。
  「なんだよ?」
  「嬉しそうですね」
  「は?てめ、いい加減なこと、言ってんじゃ・・!!」
キスされた・・・・
これは受難か?
それとも。
・・・・・・嬉しいのか、俺?
  「そんなにかわいいんですから、みんなが来るのも仕方ないですね」
  「かわいいって、おまえ・・・・」
  「かわいいですよ?」
  「・・・せめて、キスはテンコでお願い」
テンゾウは笑って、ドアを開けた。
そとの明るい日差しと共に、元気な声が響く。
  「あ、隊長!!抜け駆けだってば!!」
  「卑怯だぞ」
  「まあまあ・・・ボクはケーキでも買ってこようかな?」
玄関の騒がしさが部屋に流れ込む。
秋の匂いがする。
俺は、暖かいくすぐったい気持ちになって、窓の外を見た。
  「ナルト、よく忘れてなかったな、今日だって」
側に来たナルトに話しかける。
  「はあ?忘れたくても無理だってば」
  「そうか」
  「敬老の日だもんな」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
  「冗談だ、カカシ」
サスケが言って、いつのまにか来た中忍や特別上忍も笑った。
ああ、また結局、こんな1日。
男どもに囲まれて。

やがてテンゾウが戻ってくる。
ほんとうにこっぱずかしいデコレーションのケーキを買って来やがった・・・
  「先生、人気者だってば」
ケーキを口に押し込んでナルトが言う。
  「仲間がいっぱいだもんな」
男ども・・・・仲間、ね。
いいこと言うね、ナルト!!
調子に乗った俺は、ふざけて「さて、どいつからキスしてやろうかな」と言った。
みんなが一斉にこっちを見る。
何人かは、もうすでに宙を飛んでいた・・・・俺に向かって。

やっぱり仲間なんかじゃなくて、下心満載な野郎どもだと、悟った瞬間だった。


2008.09.15.

誕生日おめでとう!!そして私の年にはやく近づけ!!カカシ先生!!